34 意識

「ひなちゃん、おはよー」

「みんな、おはよー」

「ええ、今日も宮内くんと一緒なの? ラブラブじゃん」

「偶然、下駄箱の前で会っただけだよ〜! もう……!」

「あはははっ」


 転校してきてもう1ヶ月が経ったのか、時間というのはあっという間に過ぎてしまうよな。その間、ひなはクラスメイトたちと仲よくなって、俺も少しずつみんなと話すようになった。


 すごい変化だと思う。


 そして、先月まで堂々と俺を無視していたあの人たちは何もなかったように、いつもと同じ普通の学校生活を過ごしている。プライドってのがあるから、「ごめん」って言うのは無理だよな。特に、うみと斉藤……あの二人には絶対できないと思う。

 クズども———。


 とはいえ、今はひなとの学校生活を楽しみたいから。

 それに集中することにした。


「奏多! 奏多! そのセーター貸して!」

「ひな、また俺の服を…………。なんでだよ……」

「だって! 私、セーター持ってないし! ずっと着てみたかったし〜」

「はいはい……」

「その代わりに私のブレザー貸してあげるから」

「合うわけねぇだろ!?」

「ふふふっ」


 その場ですぐ俺のセーターを着るひなが、急に両腕を上げる。

 そうだよな……、ひなには俺のセーターが大きいはずだから……。

 てか、怒ってるレッサーパンダに見えるのはなぜだろう。そのまま「どー?」って聞いてるけど、可愛すぎて思わずひなから目を逸らしてしまった。目の前にいる可愛いひなを見ると、同じベッドでくっついていたことを思い出してしまうから———。

 やばすぎる。


 まだ高校生なのに……、俺たちは一体どこまでやったんだろう。

 ハグとか、キスとか……。

 もちろん……、ひなに一方的にやられるだけだけど…………。それでもな。


「ああ……、ひなちゃん。また宮内くんとイチャイチャしてる〜」

「そうそう。二人、本当に仲がいいね」

「そう! 私と奏多は仲がいいの! 幼い頃からずっとこんな感じだったからね! ふふふっ」


 頼むから……、クラスの中であんなこと言わないでひなぁ……。

 仲がめっちゃいいのはめっちゃ嬉しいけど、めっちゃ恥ずかしいからさ……。

 でも、本人はすごく喜んでいるし。


 まあ、いっか。


「奏多! 私、さっき先生に呼ばれたから、ちょっと職員室に行ってくるね!」

「そうか、うん。分かった」

「すぐ戻ってくるから泣かないで〜」

「はあ……? 泣くわけねぇだろ!」

「えへへっ」

「まったく…………」


 つま先立ちをして俺の頭を撫でるひな。てか、クラスメイトたちの前で何気なく恥ずかしいことを……。

 このバカ。

 とはいえ、正直嬉しい俺だった。それは否定できない。


 ……


 担任の先生と学校生活について少し話をした後、すぐ職員室を出るひな。

 彼女は奏多のことを思い出しながら、廊下でニヤニヤしていた。


「ふふふっ♪ 教室に戻ったらすぐ奏多にいたずらしよう。反応、すごく可愛かったし♪」

「ああ、キタキタ〜!」

「うん?」


 そして、廊下でひなを待っていた一馬が彼女に手を振る。


「ずっと、待ってたよ? ひなちゃん」

「ううん……。誰?」

「あっ、お、俺のこと知らないのか? ああ、転校生だから知らないのも無理ではないか」

「ああ……! 北川と付き合ってる人だよね? でも、北川と付き合っている人がどうして私に……? 何か用でもあるの?」

「場所を変えようか、ちょっとひなちゃんと話したいことがあるからさ」

「ここじゃダメ?」

「ああ、ここは人が多いからさ」

「ふーん。そうなんだ。でも、私は話したいことないから教室に戻るね」

「…………」


 その瞬間、後ろにいる一馬が彼女の肩を掴んだ。

 湧いてくる衝動を抑えているように、一馬はずっとひなの前でその笑顔を維持していた。そして、穏やかな声も忘れず———。


「な、何してるの?」

「それ、奏多のセーターだよな? ひなちゃん」

「そうだけど?」

「そうなんだ。俺さ、奏多の秘密をいくつか知ってるけど……」

「そ、そうなの!? お、教えて! その秘密って何!?」

「みんなの前で話すのはあれだからさ、場所を変えよう。ひなちゃん」

「でも……、奏多が待ってるから」

「知りたくないの? 奏多の秘密、ひなちゃん……奏多のこと好きだよね? なら、知っておくべきだと思う。俺が教えてあげるからさ」

「分かった……」

「行こう〜」


 スカートのポケットに入れておいたスマホ、ひなはこっそりあるボタンを押す。

 そして、さりげなくひなの肩に両手を乗せる一馬。


「ねえ、何気なく私の肩に手を乗せるのはやめてくれない? 私たち、今日初めて話したけど?」

「ああ、ごめんごめん〜。知ってる知ってる!」

「…………」


 そのまま階段を上る二人、その後ろ姿をとある生徒がじっと見つめていた。


「あれ……? ひな先輩?」

 

 ……


「宮内くん、ひなを待ってるの?」

「そ、そうだけど?」

「ラブラブだね〜。ふふふっ」

「ち、違うよ……!」


 てか、ひな……ちょっと遅くない?

 そろそろお昼を食べないといけないのに、一体どこで何をしているんだよ。

 このままずっと待つのもあれだし……、すぐ戻ってくるって言ったくせに全然戻ってこないからさ……。仕方がなく、俺が直接職員室に行ってみることにした。


「三木……? 三木ならさっき教室に戻ったけど?」

「えっ? そ、そうですか?」

「そうよ、転校してきた三木が学校生活に慣れたのかどうか聞いてみただけだから」

「は、はい。ありがとうございます。先生」

「うん」


 先生には教室に戻ったって言われたけど、俺ずっと教室にいたぞ?

 ひな……、一体どこにいるんだ?


「……っ!」


 そのままぼーっとして歩いていたら、前にいる人とぶつかってしまう俺だった。

 バカかよ。ひなのことばかり考えていて……、前を全然見なかった。


「あっ、す、すみません……!」

「い、いいえ! こちらこそ……」

「大丈夫ですか?」

「はい! ああ……、ひな先輩と一馬先輩どこに行ったんだろう…………」

「えっ?」


 手を伸ばした時、廊下に倒れたメガネ少女がなぜか二人の名前を言い出す。

 ひなと斉藤……、今一緒にいるのか? どうして?


「…………」

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