24 覚悟とイメチェン②

「奏多の制服、めっちゃ大きい! えへへっ」


 昼休み、俺のシャツとブレザーを着ているひながニコニコしていた。

 洗濯しておいてよかった……。

 てか、シャツが大きすぎて……、萌え袖になってるし。ブレザーも大きいから不便そうに見える。大丈夫かな? でも、どうして俺はそんなひなが可愛く見えるんだろう。もっとしっかりしないと……このバカ。


 そして、あの面倒臭いやつらに一言言ってあげたからか。

 なんか、スッキリした。


「奏多〜?」

「うん?」

「奏多は寒くないの? ごめんね……」

「大丈夫、俺はひなと違って寒さに強いんだから。ふふっ」

「ありがと! 奏多はいい旦那さんになるね」

「制服貸してあげただけだろ……? 大袈裟だ」

「うふふっ」


 あっ。そういえば……今日はひなと一緒に登校して、コンビニでパン買ってくるのをうっかりしてしまった。マジか。そんな大事なことをうっかりするなんて、こうなると今日のお昼は我慢するしかないな。


 マジかぁ……。


「ふふふっ、お昼のことで悩んでるよね? 奏多」

「なんだよ……。そのドヤ顔は」

「私、お弁当作ってきたけど、一緒に食べる?」

「いつ……!? 全然知らなかった」

「その反応が見たくて、早起きしてこっそり作ったの。ふふふっ」

「そ、そうなんだ」


 ひなの手作り弁当……。

 でも、朝起きた時……、ひなは俺のそばですやすやと寝ていたはずなのに……。

 一体、何時に起きたんだろう。


「食べたいんでしょ〜? 奏多」

「…………っ、こ、断りづらいね。それに……、俺の好きなおかずもあるし」

「そう! 私、これを作るためにピーマン買っておいたからね。ふふふっ」

「まさか……、ピーマンの肉詰めがあるとは……!」

「はい。あーん」

「えっ!? 食べさせてくれるのか?」

「うん!」


 周りの視線など全然気にしないひなが、すごく可愛い笑顔で俺にピーマンの肉詰めを食べさせようとしている……! どうしよう。宮内奏多……! 意識してはいけない。いけないのに……、ひなの顔がすごく可愛くて顔がだんだん熱くなる俺だった。


 くっそ、この距離感はマジでやばいよ…………。


「早く〜、腕が痛いよ〜」

「うぅ……。わ、分かった」


 そのまま口を開けると、ひなが作った美味しいピーマンの肉詰めが入ってくる。

 小学生の頃だったっけ……? ピーマンの肉詰めはひなのお母さんがたまに作ってくれたおかずだったけど、いつの間にかその味に慣れてしまって、うちのお母さんにも作ってって言ってたよな。


 でも、味が少し違ったから……いつもひなの家でそれを食べた……。

 そして、なぜかニヤニヤしているひな。


「よしよし〜」

「小学生かよぉ……、ひな」

「でも、奏多に食べさせる時は思わず出ちゃうんだもん〜」

「まったく……」

「そして、ありがと……。奏多」

「うん?」


 小さい声で話したからよく聞こえなかったけど、嬉しそうな顔をしてお弁当を食べていた。中学一年生の頃にもひなが作ったお弁当を食べていたからさ、すごく懐かしい。またひなのお弁当が食べられるなんて……、こんな幸せがあってもいいのかとそう思っていた。


 でもさ、どうして……俺が舐めた箸でお弁当を食べるんだよ!

 それ……、間接キスだろ!?


「おいひい〜♡」


 まあ、いっか。


「美味しいよ、ひな」

「えへへっ」


 いつも一人だった俺の昼休みが、ひなのおかげでもっと楽しくなる。ありがと。


 ……


「はあ……、美味しかったぁ〜。やっぱり、お昼はずっと奏多と食べたいね」

「なんで、いつも俺と一緒なんだよ〜」

「だって、奏多には私しかいないんでしょ?」

「え、えっ……!? い、いきなり!?」

「でしょ〜?」

「まあ、そ、そうだけど…………」

「私もそうだよ! えへへっ」


 人畜無害そうな顔をして、そんなことを言うのかよ……。

 可愛すぎて、すぐひなから目を逸らしてしまう俺だった。いろいろ……、やばいっていうか。最近ひなの方から距離を縮めてくるような気がして、どうすればいいのかよく分からなかった。


 近いし、いつもくっついているような感じだからさ。

 恥ずかしいぃ……。


「そういえば、奏多! 今日もうちくる?」

「今日……? 今日はちょっと……用事があるからさ。ごめん……、無理だね」

「ええ、そうなの? 女?」

「んなわけねぇだろ? ひな……」

「本当に……?」

「本当〜。今日はお母さんのところに行ってくる予定だからさ、一人で帰れるよね? ひな」

「うん…………」


 なんか……、雨に濡れた小動物みたいで可愛いな…………。

 一緒に帰るのもいいけど、家の方向が正反対でさ。

 家まで送ってあげたら……、お母さんのところに行く時間がなくなってしまう。仕方がない。


「なんで、そんな顔をするんだよ…………。ひな?」


 思わず、ひなの頬を触ろうとしていた。

 いや、これはよくないな……。そのままひなの前で固まってしまった。

 この手はどうすればいいんだろう……。


「奏多?」

「うん?」

「さ……、触ってもいいよ? 私は気にしないから」

「…………いや、やめとく」

「幼い頃には……よく私の頬を触ってたよね? エッチ〜」

「そ、そんなことしてねぇよ! そ、それは……ひながバカなことを言うから……」

「バカなこと言ってないですぅ〜」

「まったく……」

「ひひっ、先手必勝!」

「ううぅ———」


 なんで、ひなが俺の頬をつねるんだよぉ……。


「えへへっ、おもしろーい!」

「…………子供かぁ……」

「うん? 聞こえなーい!」

「まっあく…………」


 その笑顔を守りたかった。

 でも、ひなが俺と一緒にいると……またあの面倒臭いやつらに狙われるかもしれない。


 だから、もっと———。

 ひなのために頑張るんだよ。


「ふふふっ」


 生きがいを失った俺は……、ひなと出会った。

 そして、ひなのことを幸せにする。今の俺にできるのはそれだけだ。


「奏多! こっち見て」

「うん?」


 なんで……、俺の頬をつねったまま写真を撮るんだよ…………。ひなぁ———!

 てか、本人はめっちゃ楽しんでるじゃん。


「まったく……」

「えへへっ」

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