21 ひなの家②
「…………」
荷物の片付けが終わる頃、キッチンからいい匂いがした。
これは……すき焼きの匂いかな? 美味しそう。
てか、お肉好きって言っただけなのに、まさかすき焼きを作ってくれるとはな。小学生の頃、よくうちで食べてたから懐かしい。それにひなもすき焼きが好きだったから、ひながうちに来るとお母さんが当たり前のようにすき焼きを作ってくれた。
これじゃ……あの時と一緒だな。
ひなが作ってくれたすき焼きか。
「食べよう!」
「うん!」
そのままじっとすき焼きを見つめていた。
ひなと一緒にいると……、昔のことばかり思い出してしまうからさ。それは楽しいけど、少しつらい。とはいえ、何もなかったように無視するのもできないし。ただひなと一緒にいるだけだった。
俺もどうすればいいのか分からない。
「はい! 奏多」
「うん?」
「奏多、豆腐好きだよね?」
「なんで、覚えてるんだよぉ……」
「ええ、いつも豆腐ばかり食べてたじゃん……。私が知らないとでも思ってたの?」
「あはは……。まさか、そんなことまで覚えているとは……」
「ひひっ、いつもこうやって一緒に食べてたからね〜」
そして、さりげなく口元についているソースを拭いてあげた。
いや……、俺……今なんで拭いてあげないといけないと思ってたんだろう。
それを見た時、体が勝手に動いた。
「…………か、奏多?」
「あっ、ごめん。つい…………」
「なんで、謝るの? 奏多はいつもそうやって私の口元を拭いてくれたからね……。ありがと!」
「…………うん」
……
一緒にすき焼きを食べた後、家の掃除を終わらせた。
残りは「宝物」と書いている箱だけ。
でも、それはひながどうにかしてくれると思う。中は見ちゃったけど、ひなにはバレてないからセーフか、ごめん……。
「奏多、掃除終わったの?」
「うん」
「ありがと〜。おかげで家が綺麗になったよ! へへっ」
「じゃあ———」
「じゃあ、汗かいたし! 一緒にお風呂入ろっか! 奏多!」
「…………えっ?」
びっくりして、空咳が出てしまった。
「お風呂! 一緒に! 入ろう!」
「いや、それはちゃんと聞こえたけど……。ひな……」
「うん?」
「ひなは女の子だよ? し、知ってるよね? それくらい」
「うん。知ってるよ? いきなりどうしたの? 奏多」
いや、どうして「何が問題なの?」って顔をして俺を見ているんだろう。
いきなり「一緒にお風呂入ろう」って言ったひながおかしいのか、それに拒否反応を起こす俺がおかしいのかだんだん分からなくなってきた。なんで、堂々と入ろうって言ってるんだろうな。
俺は……、女の子じゃないんだよぉ……。
「嫌なの? 小学5———」
「い、いい! いいよ! ひな……! それより、ひなと一緒にお風呂入るのは無理だよ。ひなも俺も今は高校生だろ?」
危なっ……! ひな……今、とんでもないことを言い出そうと…………。
「ええ……、そうなんだ。分かった! じゃあ、先に入るからね〜」
「うん……」
ひながお風呂に入った後、俺は一人で少し考えをまとめていた。
あの箱に入っていた宝物と、夕飯を食べる時にふと思い出したこと。宝物のことはともかく、重要なのは……俺がひなに聞こうとしたある事実だった。どうして、あれをうっかりしてしまったんだろう。
そのままひなが出るまでしばらくスマホをいじっていた。
相変わらず、うみのS N Sには幸せな日常がたくさんアップロードされている。
めっちゃ楽しんでるな。うみ。
「あれ?」
そして、何かに気づく———。
「奏多〜。入って」
「うん……。てか、なんでひなが俺のシャツを着てるんだよ……! それに、どこからそれを……?」
「あ、これ気に入ったからね! 奏多の家から持ってきちゃった!」
「堂々と持ってきちゃったって言うなぁ……」
「いいじゃん〜。ふふっ。早くお風呂入って〜」
「はいはい」
俺と別れた後……、うみはS N Sにいろんな写真をアップロードしていた。
俺と付き合っていた時はこんなにアップロードしなかったのに……、これも斉藤の影響か? きっとお金持ちの男と遊びまくって……、テンション上がってるかもしれない。普通の高校生はそんなところに行かないし、そんなお金もないからさ。
そして、ひなの証言を聞いたから……浮気のことは言わないだろ。
もう騒ぎ……起こしたくないから。
「…………」
「…………」
そして、洗面所に出た時、なぜか着替えを持っているひなが俺を待っていた。
なんで、そこで待ってるんだろう。
「ひな……?」
「うん」
「どうして、ここにいるのか聞いてもいいかな?」
「奏多の服、用意するのうっかりしてね。ちょうど洗面場に入ってきたら……半裸の奏多がそこにいて……。私は無罪です」
「恥ずかしいから、出てくれない……?」
「でも! 私、小学生の頃に奏多のはだ———」
「い、いい! 早く部屋に入れ! ひな!!!」
「ひん…………」
そんなことより……、ひなは一人暮らしをしているはずなのに、どうしてこんな大きいサイズの服を持ってるんだろう。
これ、女の子が着るのは無理だよな。どう見ても。
「奏多……! こっち来て」
ランプをつけたひなの部屋。
雰囲気はすごくいいけど、俺たちまた同じベッドで寝るのかな……? 隣席をポンポンと叩くひなを見ると、寝床を作るのは多分許されないんだろう。それもそうだけど、自分の家に来たら……自分の部屋着を着ろ! 荷物を片付ける時……、ひなの服をたくさん取り出したのに、俺の努力が水の泡になってしまった。
「ふんふん♪」
まあ、幼馴染だから何もしないけど……、それでも無防備すぎるひなが少し心配になる俺だった。
今すぐ他の部屋着に着替えさせたい。
でも、触るのができない……。
「それ、似合う!」
「あ、ありがと……。てか、こんな大きい服をなんで持ってるんだ? ひなには絶対合わないと思うけど」
「それね……。ネットでサイズを選ぶ時に間違って下にある大きいサイズを……。あははは……」
「相変わらず、バカだね。ひな」
「バカじゃないもん!」
「はいはい……」
さりげなく、ひなの頭を撫でてあげた。
そして、やっとそれを聞く時が来たのか。聞くなら、今だな。
「あのさ、ひな…………」
「うん?」
「学校にいる時に聞こうとしたけど、いきなりクラスメイトたちが寄ってきて聞けなかったことがある」
「うん、何?」
「あのさ……、ひな」
「…………」
「なんで、苗字。三木に変わったんだ……?」
「…………」
しばらく、二人の間に静寂が流れた。
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