20 ひなの家

「うちに行くのは久しぶりだよね〜? 奏多」

「そうだね。まあ、幼い頃にはしょっちゅうひなの家に行って、勉強したり、ご飯食べたりしたからさ」

「へへっ、懐かしい! そして、ごめんね。急に掃除を頼んで…………」

「いいよ。気にしないで」


 放課後、俺はすぐひなが住んでいるマンションに来たけど———。

 その入口に着いた時、自分の目を疑ってしまう。


「行こう、奏多」

「あっ、う、うん……」


 なぜなら、目の前にすごく高そうなマンションがあったからだ。

 どんな風に言えばいいのか分からないけど、外観を見ただけで「お金持ち」と思ってしまうほどすごかった。そういえば……、人気〇チューバーたちがよくこんなところに住んでいたような気がする。


 お金持ちだったんだ、ひなは……。


「奏多、入って入って!」

「う、うん……」


 マジか、ひなの家……俺の家より2倍以上広いじゃん。

 やっぱり、お金持ちの家はこんなもんか。

 そして、すぐ視界に入ってくるたくさんの引っ越しダンボール……。それを見ただけで全然片付けてないのが分かる。確かに重そうに見える荷物もたくさんあるし、力のないひなには無理だよな。


 それに、こういうのは昔から俺がやってあげたからさ。


「ソファにダイブ!」

「おいおい、ひな。そんなことする暇あるのかよ〜」

「えへへっ。家具は引っ越してきた時に全部運んだけど、箱は重いし、私の荷物が多すぎてね……」

「まったく……、任せろ! ひな」

「ありがと〜!」


 タンスはひなの部屋にあるから、先にやるべきことはひなの服を片付けること。

 てか、やっぱり女の子はすごいな……。廊下に「服」って書かれている箱が10個くらいあった。どんだけ持ってるんだよ、ひなは……。

 まずはそれを全部部屋の中に運んで、その後一つずつ開けることにした。


「まずは……、これか」

「あっ! か、奏多……! それは……! 私がぁ———」

「えっ? どうしたの? ひなぁ……」


 初めて開けた箱の中には……、なぜかひなの下着が入っていた。

 いや、下着ばっかり入っていた。

 これはどういう……状況なんだ?


「か、奏多のエッチ……!」

「いや、俺は……! 知らなかったぞ! 見てくれ、箱にちゃんと服って書いてるだろ!?」

「その下に下着ってちゃんと書いてますけど〜?」

「えっ?」


 ちゃんと見たら、その下に「下着」って書いていた。マジか。

 てか、ちっさ! そんなところにあったのかよぉ。


「ち、違う! お、俺……変なこと想像してないからな! 今のは……、なかったことにしてぇ!」

「ふふっ、冗談だよ。でも、私の下着を見ただけなのに、すっごく慌ててるからなんか可愛いね〜」

「か、からかうなぁ……! ひなぁ!」

「へへっ」


 なんか、顔がだんだん熱くなってるような気がする。

 別にひなの下着を見るつもりはなかったけど、箱を開けた時にすぐ視界に入ってきたからさ……。華やかな下着がたくさん入っていて……、またうちでキスされたことを思い出してしまう。


 なんで……? なんで、いきなりそんなことを思い出すんだろう。


 てか、ひなのこと大人しい女の子だと思っていたのに……意外と———。

 バカかよ……! 落ち着け、俺……。

 それでも、すごく緊張している俺だった。


「…………」


 ちらっと奏多の方を見たひなは、真っ赤になった彼の顔と耳に笑みを浮かべる。

 そして、頭を横に振る奏多だった。


「ふふっ、奏多のエッチ!」

「ち、ちげぇよ!」

「ふふふっ」


 ニヤニヤしているその顔がムカつく。

 バカ、ひな。


 ……


 服10箱、下着を除いて全部片付けたし……。

 後は電化製品と……、本と……、いろいろ運んであげれば荷物は終わりか。

 そして、最後は床の掃除。


「うん……? これは」


 そのまま居間に戻ってきたら「宝物」と書いている箱に気づく。

 ひなの宝物? ひなの宝物ってなんだろう……?

 すごく気になって、こっそりその箱を開けてみた。どうせ、片付けないといけない物だからさ。


 ちょっとだけ、ちょっとだけ…………。


「…………ん?」


 そして、その中にはわけ分からない物がたくさん入っていた。

 これがひなの宝物?って疑問を抱いてしまう。

 まずは……、小学生が使いそうな鉛筆と消しゴム。そして、ボロ雑巾みたいなハンカチと……、もう使えない古いヘアゴムなど……。俺には全然理解できない物が入っていて、これをどう受け入れればいいのか分からなかった。


 なんで……、こんな物を持ってるんだろう。

 そして、箱の中に大きい何かが入っていて、すぐ取り出してみた。


「…………えっ?」


 これは……、中学一年生の時の写真…………。その写真が写真立てに入っていた。

 しかも、この背景……。多分……修学旅行に行った時の写真だと思うけど。写真立ての中には半分に破られた俺とひなの写真が入っている。それは……一緒に写ったように見せるためかな? どうしてこんな物を持っているのか分からなかった。


 それに、その写真を写真立てに入れた理由もよく分からない。


「奏多〜。お腹空いたよね〜?」


 そして、部屋から聞こえるひなの声にビクッとする。


「あ、あっ! うん! えっと、電化製品は全部片付けたけど、本とひなの私物はまだまだだよ」

「後、どれくらいかかりそう?」

「ううん。20分かな?」

「オッケー。じゃあ、私はそろそろ夕飯作ろうかな〜」


 急いで箱と閉じて、居間に集めておいた本を本棚に差し込む。

 でも、あれは一体なんだろうな……。全部古い物だったし、そして……意味分からない写真もあったし、それがひなの宝物なのか? ずっとそれについて考えていた。

 そのまま本棚の前でじっとする。


「…………なた?」


 いや、待って……。

 あの宝物……、見覚えがあるような———。


「奏多!」

「えっ? あっ、うん!」

「ねえ、ぼーっとして何考えてたの?」

「ほ、本が多いなと思って……。あははっ……」

「ああ、そっか。でも、これはお母さんの本だからね〜」

「そ、そうなんだ」


 すぐそばにいてびっくりしたぁ……。

 いや、俺が気づいていなかっただけか。


「奏多、お肉好き?」

「うん。好きだよ」

「オッケー。今日はお肉たくさん食べよー!」

「うん、ありがと!」


 そう言った後、キッチンで料理を始めるひな。

 俺はそのままひなの荷物を片付けていた。

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