15 夜中の口付け
元カノのうみに、完全に裏切られた。
今日一日……、俺は学校で何をしたのか全然分からない。クラスメイトたちはこそこそ俺の話をして、斉藤たちにはいじめられて、幼馴染のうみはそんな俺を無視していた。
一人ぼっち、誰も俺の味方になってくれない。
そんな教室で今日一日一人で耐えてきたのだ。
「あっ、
「いつもあ、ありがとうございます! 宮内さん……!」
「いいえ。菊池さんが怪我したら……、俺店長に一言言われるかもしれませんよ」
「そ、そんなこと言わないんです! お母さんは優しいですよ?」
「あははっ、冗談です」
学校にいる時は息ができないような気がしたけど、バイト先にはほぼ二年間俺とバイトをした人がいるから楽だった。うちから遠くないところにある小さい食堂、店長とその娘二人がここで働いている。一年生の時、俺にできるバイトを探していたらここしかいなくてすぐ面接を受けたけど、「ちょうど人手が足りたいから、明日から来てくれない?」とそう言われた。
仕事も難しくないし、菊池さんがやるべきことを優しく教えてくれたからさ。
完全に慣れた。
「宮内さん? 今日何かあったんですか?」
「はい? な、何もなかったんですけどぉ……」
「顔に出てますよ。ふふっ」
「うっ……!」
「今日は……、先に上がってもいいですけど?」
「えっ? ど、どうしてですか?」
「ううん……。重いのは全部運んでくれましたし、掃除もやってくれましたし、この後は一人でやってもいいですよ? それに———」
なぜか、じっと入口の方を見つめる菊池さんだった。
「彼女が待ってるような気がして……、あはははっ」
「か、彼女……いませんけど」
「えっ? そうなんですか?」
「ちょっと行ってきます」
「は〜い」
こんな時間にお客様が来るわけないし……。
さっき俺がちゃんと「CLOSE」って書き換えたからさ……。誰だろう。
「すみません。今日は……営業———」
「奏多、バイトはいつ終わるの?」
「うん?」
店のドアを開けた時、なぜかそこにひなが立っていた。
今日はひなからどんな連絡もなかったから、ニコニコしている彼女を見てすごく慌てていた。うちの住所はお母さんに聞いたって言われたから分かるけど……、まさかバイト先まで知っているとは思わなかった。
てか、なんでここに来たんだろう。
「ひ、ひな……」
「あっ、もしかして……私邪魔かな?」
「え、えっと……」
「うわぁ、可愛い!!! あの……! 宮内さんの彼女さんですか〜?」
「えっ? えっと……、うん! そんな感じです!」
おい、ひな。
なんで、さりげなくそんなことを言うんだよ……!
「あははっ、奏多緊張してる〜」
「はあ……、菊池さんの前で変なこと言わないで……ひな」
「宮内さん、今日は先に上がってください。彼女を待たせる男は嫌われますよ?」
「い、いいえ……! ひなはおさななじ———」
俺の話……まだ終わってないのに、なぜか菊池さんに背中を叩かれた。
それに二人ともくすくすと笑っている……。
「はい……。でも、本当にいいですか? まだやるべきことが……」
「はい! 片付けは私に任せてください! もうちょっどで終わりますからね」
そう言いながらひなの方を見るりおだった。
そして、笑みを浮かべる。
「じゃあ、今日は先に帰ります。お疲れ様でした」
「お疲れ様でーす」
……
いつもより20分早くバイトが終わってしまった。
どうせ……、家に帰っても一人だから特にやることもないし、10時まで仕事をしても構わないのにな。まさか、そのタイミングでひなが現れるとは思わなかった。
「な、なんか気分よさそうに見えるけど……? ひな」
「そうかな? 奏多と一緒に帰るのが好きだからね……」
「そ、そうか……」
「ねえ、今日奏多の家に泊まっていい?」
「それは構わないけど、なんで……いつもうちに泊まるんだよ〜」
「ふふっ」
家に帰ってきた俺たちは、しばらく部屋の中で話を続けていた。
「それで今日は何しにきたの? ひな。そして、その荷物は……?」
「あ、これね。化粧水と……いろいろ持ってきたよ! 今日は奏多の家に泊まる予定だったからね」
「家出したのか?」
「一人暮らしをしてるのに、家出するわけないでしょ? バカ」
「それもそうだね」
そして、話が途切れる。
もっといろんな話がしたいけど、また学校に行かないといけない事実に少し緊張していた。またあの教室に入らないといけないなんて……、卒業するまで我慢するしかない俺が可哀想だ。
でも、今はひながいるから普通を演じる。心配、かけたくないから———。
「…………」
てか、なんでさりげなく俺のそばに座るんだろう。
しかも、俺の方を見てるし……、何か言いたいことでもあるのか? やっぱり、ひなは難しいな。何を考えているのか全然分からないし、ここに来た理由も全然分からない。
そのまま、俺のそばで膝を抱えていた。
「奏多」
「うん?」
「奏多、寂しそうな顔をしている」
「えっ? そ、そんなことないよ? 俺……、ひなが会いにきてくれて今すごくテンション上がってるんだけど!?」
「奏多は嘘をつく時に下唇を噛む癖があるの。知ってる?」
「…………ええ、そ、そうだったのか? 知らなかった……」
確かに、そんな癖あった気がする。
でも、今更……、今日あったことを話してどんな意味があるんだろう。
ひなの時間を奪うようなことはしたくなかった。明日は……明日の風が吹くって言葉もあるし、今はひながそばにいてくれることに感謝しないとな。わざわざここまで来てくれたからさ。
「奏多、こっち見て」
「う———っ?!」
そして、ひなの方を見た時、彼女はさりげなく俺のネクタイを引っ張った。
あっという間に起こってしまったこの状況。
そのまま———。
「ひ、ひなっ———」
「…………」
ひなに……、キスをされた。
その大きい瞳に俺の姿が映っている。やばい……、俺たち今何を?
「…………奏多」
そして、ひなとの短いキスが終わった後……、俺はひなを抱きしめていたことに気づく。多分……ネクタイを引っ張られた時、ひなが倒れそうになったから……。何気なく……、抱きしめたと思う。
あれ……? 俺、今何を———。
「だ、大丈夫? ひな……」
「奏多……」
「うん?」
「やる……?」
その二文字が耳にすっと入ってきた。
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