12 地獄
(ひな) 今日から新学期だね? 元気を出して、堂々と向き合って! 何かあったら私がまたそばにいてあげるから! 奏多。
朝起きたらひなからこのラ〇ンが来ていた。
幼馴染だからか……、精一杯隠そうとしてもひなには全部バレてしまう。俺の不安をひなは全部知っているような気がした。だから、うちに来てくれたんだろう。わざわざそんなところで、真冬の寒さに耐えながら———。
でも……、なぜそんなことをしたのか分からなかった。
(ひな) 返事!
(奏多) うん……。分かった。
(ひな) よろしい。
とにかく、今日から新しい学校生活が始まる。
うみと付き合っていた頃にはずっとうみに集中していて、友達を作るチャンスが全然なかった。うみは俺が他人と話すのを、特に女の子と話すのをすごく嫌がってたから、如月以外のクラスメイトとはあまり話したことがない。
でも、もう別れたから、うみに縛られる日々も終わりだ。
「よっし……」
そして、教室に入った時、なぜかクラスメイト全員……俺の方を見ていた。
すごいプレッシャーが感じられる。何かあったのかな……? 何も言わず、じっと俺の方を見ているから、俺もどうしたらいいのか分からなかった。そのまま席に着いて、スマホをいじる。
でも、その視線がすごく気になって教室にいられない。
言いたいことがあるならはっきり言ってもいいのに……、クラスメイトたちはじっと俺の方を見つめるだけだった。
なんだろう……。
「…………」
それにこそこそ何か話してるような気がして、仕方がなく教室を出ようとした。
すると———。
「ああ〜! 浮気者じゃん〜」
ちょうど教室に入ってくるある男に声をかけられた。
この声、そして……この顔は。
そうだ、俺はどうしてこの人をうっかりしていたんだろう。俺を見て笑っているこいつの名前は
うっかりしていた……。そう、こいつだった。
うみと浮気をしたやつ。
「い、いきなりなんだ……?」
「奏多だよな? 俺もうみちゃんに名前を聞いたことあるからさ、ちゃんと覚えている」
「そっか?」
「それで、奏多。なんで浮気をしたのか聞いてみてもいいか?」
「浮気……? 浮気なんかしてねぇよ! 誰がそんなことを……」
「うみちゃん、朝からずっと泣いてたぞ? 奏多がいる教室には入りたくないって、さっきそう言ってたからさ」
「えっ?」
あのうみが……? そして、こいつはどうして俺にこんなことを話すんだろう。
いきなり浮気だなんて、それはお前らがやったことだろ?
でも、斉藤の話にクラスメイトたちがざわざわし始める。俺はずっとクラスで浮いている感じだったから……、誰とも仲良くしている斉藤の話にみんなが耳を傾けるのも当然だ。
ここは……、どうしたら。
「俺、別に奏多のこと嫌いってわけじゃないけど。もちろん、俺も知っている。男ってそういう生き物だろ? 可愛い女の子に惚れてしまうのは男の本能だ。その気持ち分かる! だからさ、うみちゃんの前で膝をついて謝ればうみちゃんもきっと許してくれると思う! どう?」
笑いながら馬鹿馬鹿しいことを言い出す斉藤に、どこから突っ込めばいいのか分からなかった。浮気をしたのはあの二人なのに、どうして俺がうみの前で膝をついて謝るべきなのか、どれだけ考えても分からなかった。
「いや……、俺は浮気してねぇよ!」
「じゃあ、どうしてうみちゃんと別れたんだ? 理由は?」
「…………」
「あはははっ」
そうか、ここで俺が何を話しても……俺には不利だな。
それは多分斉藤も知っているはずだ。
俺は二人の浮気現場を見たけど、あいにくその証拠を持っていなかった。いや、残す暇もなかったから———。仕方がないことだった。
「どうして、答えてくれないんだ? 浮気した相手と付き合うためって、なんで言えないんだ? 奏多。素直に認めたら、うみちゃんもきっと理解してくれると思うからさ。土下座しよう」
「…………」
「ふーん。じゃあ、浮気者の奏多にその証拠を見せてあげる! あはははっ」
何がそんなに楽しいんだ。
それに、証拠って……? どういう話だ?
「みんな! 知りたいよな? 奏多が誰と浮気をしたのか! 知りたいよな? 後ろでずっとこそこそしてたからさ、こっち来たら教えてあげる! この浮気者が何をしたのか!」
そう言いながら斉藤は自分に寄ってきたクラスメイトたちに、ある写真を見せてあげた。
「マジか? 本当だったんだ……」
「ええ、最低」
「これは……、あああ……」
そして、その写真を俺にも見せてくれた。
それは……俺とひなが写った写真。正確にはファミレスから帰る時……、ひなと手を繋いだ写真だった。どうして……、斉藤がその写真を持っているのか分からない。俺たちより先にファミレスを出たはずなのに……、なぜか後ろで俺たちを撮った写真を持っていた。
マジかよ……? どうやって?
「どうだ? 奏多。これが俺たちが持っている証拠だよ。なんとか言ってみろ」
「ひ…………久しぶりに……、俺に会いにきた友達だ。浮気なんかじゃない」
「あはははっ、いいな! その言い訳、気に入った……! ちょっと足りねぇけど、90点! 久しぶりに会いにきた友達か! あはははっ」
急に笑い出す斉藤の前で、俺は何も言えなかった。
そして、クラスメイトたちも斉藤と一緒にせせら笑う。ここは……地獄か、俺にできるのは何もない。
その笑い声がすごく怖かった。
「おいおい、宮内奏多! 他の女の子が好きになって……、浮気をするのはダサいだろ。そんなクズだったのか? お前」
「…………」
「浮気をしたくせに堂々としてねぇとか、面白いな〜! あはははっ、うみちゃんのことを一体なんだと思ってんだ? お前みたいなやつとはレベルが違うんだよ。あんな可愛い彼女を裏切るなんて、いろんな意味で尊敬してるぞ? あはははっ」
「……いや、違う」
クラスメイトたちの視線が……、俺に集まる。
いや、どうしてこうなってしまったんだ……?
ひな……、ごめん。どうやら俺は……ひなが言ってた薔薇色の学校生活を過ごせないかもしれない。
「なんとか言ってみろ、奏多」
その場で何も言えなかった。
「あっ、うみちゃん」
「…………」
そして、さりげなく教室に入るうみ。
でも、うみは俺のことを無視して……、すぐ席に着いた。
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