10 引きこもり②
大雪が降る午後、俺はひなと鍋料理を食べていた。
てか、動画アプリでしか見たことない鍋料理をひなと一緒に食べるなんて、温かくてすごく美味しい。ずっと卵かけご飯ばかり食べていたから、いつの間にかお肉の味を忘れてしまった。
体に染みる……。
「ふふっ」
「ど、どうした? ひな……」
「いや、美味しそうに食べるその姿が可愛くてね……」
「か、からかわないで……、ひな」
「ふふっ。いっぱい食べて……、そして元気出してね」
「ありがと……」
うみと別れたからもうひなと一緒にいることに罪悪感を感じなくてもいいのに、その顔を見るとなぜか緊張してしまう。雰囲気も全然違うし、性格も全然違うのに、マジでバカみたいだ。
「あっ、そうだ。ひな」
「うん?」
「ひなが心配するかもしれないから先に言っておくけど、俺はうみと別れたからね。ちゃんと話したよ。その理由は……言えなかったけど、それでもうみと綺麗に別れたと思う」
「うん……。それを聞いて安心した…………」
でも、あの時……なぜもう一度俺に聞いたんだろう? 分からない。
そして、今更だけど……うみは本当に俺のことを好きだったのかな? よく考えてみれば俺たち付き合っただけで、何一つ恋人っぽいことをしなかった気がする。一緒に食事をする時も……、うみの方から一方的に店の住所と「ここ予約して」ってラ〇ンを送るだけだったからさ。
普通恋人同士でやるべきことって言ったら、一緒に海とか、遊園地とか、映画館とか、そんなところに行ったりすると思うけど。うみは俺と何もしなかった……。いつも忙しいって言うだけで、実際5、6回食事をしたのが全部だった気がする。
ほとんどの時間を学校で過ごしていたから……、週末には会わなくてもいいと思っていた。また学校で会えばいいから、俺はうみの幼馴染だから、うみのことを理解しようとしていた。
でも、それは……、それだけはどうしても理解できない。
ごく普通の高校生である俺には分からない世界だった。ずっとあんなすごいやつとデートをしてたから、俺なんかで満足できないんだろ? いつからそんなことをやってきたのか分からないけど、もう忘れよう。うみのこと。
「奏多? 何……考えてるの?」
「いや……! なんでもない。ひなと鍋料理を食べるこの時間が好きだからさ」
「ふーん。じゃあ、私……美味しいご飯を作ってあげたから、今日はここにいてもいいよね?」
「目的はそれだったのか?」
「へへっ……」
「いいよ」
一緒に鍋料理を食べた後、俺はひなと部屋の中でじっとしていた。
「奏多……」
「うん、ひな」
「寒いから奏多のことぎゅっとしてもいい…………?」
「ええ、また……? 恥ずかしいんだけど」
「私、今日……奏多のために外で数時間待ってだけどぉ……」
「い、いいよ…………。す、好きにして」
すると、俺をぎゅっと抱きしめるひな。
なんか、この感覚……嫌じゃなかった。うみと……こんなことをやったことないからか、あるいはずっと一人になるのが怖かったからかは分からないけど、ひなの温もりにすごく癒される俺だった。
でも、どうして振られた俺にこんなに優しくしてくれるのか分からない。
もう俺なんか心配しなくてもいいのにな、相変わらず優しすぎる。ひな。
「奏多ってめっちゃ温かいね……。ねえ、私の体は冷たい?」
「少し……」
「だから、次はちゃんと返事してね……。私たち……、幼馴染でしょ? 奏多」
「うん……」
だからって、ずっとひなに頼るだけじゃ俺は成長できない。
いつの間にか消極的な人になってしまったけど、今から少しずつ友達を作って、俺らしい学校生活を過ごしたい。まだ……時間あるから、それに……ひなも引っ越してきたからさ。
頑張るんだよ。
新学期から。
「はい……! ここまでだよ。ひな」
「も、もうちょっと…………か、奏多は……寂しくないの?」
「えっ? いきなり……、どうしたの? ひな……」
「う、うみと……。こんなことしてないんでしょ? 二人っきりの空間で抱きしめたり、くっついて話したり……」
「確かに……、そうだけど…………」
「だから……! 私がうみの代わりに……、満たしてあげるから! じっとしてよ、このバカ!」
「えっ? ひな?」
そう言いながら、俺にくっついて離れようとしないひなだった。
なるほど、そういうことだったのか。くっつくための言い訳かぁ。
外でずっと俺を待っていたから、「離れろ」って言えない。今はじっとするしかないよな。悪いのは俺だから……。
「私は……、私はね……! その……」
「うん……」
「なんでもない……。奏多がバカすぎて、どうしたらいいのか分からない…………」
「えっ……、ごめん」
「ふん! 昔の奏多はね……。もっと……、もっとテンションが高い人だったよ? いつも……うちに来てくれたじゃん。いきなりベルを押してでかい声で『遊ぼう!』とか……、言ってたし」
「ええ、そうだったのか?」
「そうだよ……。私が知っている奏多は……今よりもっと明るい人だった。だから、うみのことは全部忘れて私と新しい思い出を作ろう! 奏多」
目の前にいるひなはあの時のひなと違って、高校生になったのに……。
なんで、俺の目にはあの時のひなが見えるんだろう。
その笑顔を見ると少しだけあの時のことを思い出してしまうから、懐かしい。
「はいはい。ひなの話通り……、うみのことは忘れるから」
「うん!」
あの時も今も……、俺のことを慰めてくれるのはひなか。
如月もいい友達だけど、一応うみの友達だから今の話はできない……。別れたとはいえ、恋人から友達に戻るだけだからさ。そこまで気にする必要もないし……、元気を出してまた新しい学校生活を過ごせばいい。それだけだ。
うみとの関係は終わった。
「ありがと、ひな。その話を聞いて、楽になった……」
そう言いながら、ひなの頭を撫でてあげた。
「…………そ、そう? よかったね。へへっ」
やっぱり、その笑顔は……可愛い。
「でも、やっぱりひなとハグをするのは恥ずかしいからさ。それはやめよう……」
「えっ……! なんで!」
「は、恥ずかしいから……!」
すると、こっそり脇腹をつねるひなだった。
「わ、分かった……! ご、ごめんって!」
「ふん!」
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