7 別れを告げる

 朝9時のアラーム。

 手を伸ばしてスマホを取ろうとしたら、急にアラームの音が聞こえなくなる。

 そして、目を開けた時……、俺にくっついているひながぎゅっと俺のスマホを握っていた。そのまま、俺を抱きしめるひなと朝を迎える。今日もたくさんの雪が降っていた。


「ええ……」


 窓の外で降っている大雪、それを見るだけなのになぜか寒くなる。

 ひなが俺にくっつくのも当たり前のことだよな。でも、やっぱり……くっつきすぎじゃないのか。昨夜もこんな風に俺にくっついていたと思うけど、ずっとそのまま寝ているひなだった。


 それが気になるのは俺だけか。


「お、おはよ……。奏多…………」

「おはよ……ひな」


 そして、うみの返事はいまだに来ていない。

 やっぱり、俺は彼女に捨てられたんだ。今頃……、あの男と同じベッドでイチャイチャしてるかもしれないな。先週までちゃんと返事をしてくれたと思うけど、どうしてだ。そんなにあの男が気に入ったのか……、うみ。俺は俺たちのチャット履歴を見ながら、何度も自分に繰り返していたその言葉を打った。


 相当の勇気が必要だった———。


(奏多)今日、〇〇カフェに午前11時まで来てくれない? 大事な話がある。


 これでいい。俺は今日……うみと別れる。

 昔のことは忘れろ、どうせ……戻れない過去の話だ。奏多…………。


「奏多、朝から怖い顔してる……」

「あっ、ごめん。そうだ、ひな。昨夜は寒くなかった?」

「うん……。奏多が私のこと温めてくれて、すっごく気持ちよかったよ…………!」

「念の為、これだけ聞いておくけど、俺ひなに変なことしてないよな?」

「うん。何もしてないよ? どうしたの?」

「そ、そっか……。分かった」


 そして、起きたばかりのひなが目の前でぼーっとしている。これはひなの癖だ。

 そのまま俺に抱きつく。これは癖じゃない。

 いきなり抱きつくのはよくないよ、ひな。


「ひな……?」

「うん……」

「俺たち……そういう関係じゃないだろ? 昨日は……俺のこと慰めてくれてありがと。ひながいなかったら、俺……うみにラ〇ンを送るのもできなかったはずだ。本当にありがと……。でも、こういうのはやめてくれない? 俺たち……もう高校生だからさ」


 もし、俺がうみと別れたとしてもひなとはあんな関係にならない。

 だから、俺たちは適切な距離感を保つ必要がある。


「…………寒いからだよ」

「そっか。じゃあ、俺は先に朝ご飯の準備をするから、部屋でゆっくりして」

「うん…………」


(うみ)いいよ。


 部屋を出た時、やっとうみから返事が来た。

 ずっと待っていた返事たけど……、その返事を見て……すぐスマホを落としてしまう。うみは「いいよ」とその三文字だけを送ったから……、そこでショックを受けたのだ。俺が今まで送ったラ〇ンを全部無視して、あのラ〇ンにだけ返事をしたから。それがどういう意味なのか、聞かなくても分かりそうで悲しかった。


「…………」


 くそ。ひなの朝ご飯を作りたいのに、感情のコントロールができない。

 すると、後ろからこっそり俺を抱きしめるひなだった。


「大丈夫。奏多…………」

「ひな…………」

「何かあったら……、私がなんとかしてあげる! 私、都会に来たからね。奏多が一人にならないように頑張るから…………」

「ひな———」


 そう言いながらひなの方を見た時、なぜかズボンを履いてなかった。

 今そのシャツだけを着て……、俺に抱きついたのか? 無防備すぎるのもほどがあるだろ? なんだよ、あの恥ずかしい格好は……。このバカ!

 でも、ギリギリセーフか、シャツ……大きいのを貸してあげてよかった。


「どうしたの?」

「ひな、ズボンは?」

「奏多が寝る時に脱いじゃった…………ごめん。怒らないで……」

「い、いや。別に怒ってないけど……、そんなことより……ひなズボン履かないと下着見えちゃうからさ」

「し、知ってるけど……! 奏多の服は大きすぎるし…………、なんかゴミ袋に入ってるような気がして……」


 ゴミ袋に入ったことあるんだ……?


「分かった。分かった……。ごめん、ひな」

「何も知らないくせに……、バカ奏多」


 ……


 朝ご飯は家で簡単に作れるオムライスとインスタントみそ汁。

 大雪が降る寒い天気にはやっぱり温かいのを飲むべきだ。俺は……身も心もすごく冷えているからさ。ひなと久しぶりに朝ご飯を食べて、元気を出して、うみと決着をつけよう。


「あたたか〜い!」

「ひな。今日は駅まで送ってあげられないかもしれない。一人で帰れるよね?」

「うん。大丈夫!」

「今日は本当にありがと。俺たち……またいいになれるよね? ひな」

「うん…………」


 ひなとあったことをまだ忘れてないのに、さりげなく友達だなんて……。

 俺もバカみたいだ。

 でも、それは昔のことだからさ……。今更、あんなことを言い出す必要はないと思う。今のままでいい。


「…………」


 そして、口元についているケチャップを拭いてあげた。


「ここに来てくれてありがと、そして慰めてくれてありがと……、ひな。俺、はっきり言うからね。今日は気をつけて帰って」

「うん……。あっ、私の連絡先教えてあげるから!」

「うん」


 そう言った後、出かける準備を終わらせた俺はすぐ家を出た。

 そして、約束の時間まで後1時間。カフェは通っている高校からそんなに遠くないところにあって、歩いて30分くらいかかりそう。普段ならすぐバスや電車に乗るけど、今日はなぜかそこまで歩きたい気分だった。


「…………」


(ひな)もし、寂しくなったら……。すぐ私に連絡してね。奏多。


 でも、ひなのラ〇ンに返事をする暇もなく……、俺はカフェの前でうみと会ってしまった。

 昨日、あのファミレスで見た服と、同じ服を着ているうみが———。

 今、俺の目の前にいる。


「奏多くん〜。二日間忙しくてごめんね〜! えへへっ」

「まずは……入ろうか? うみ」

「うん!」

 

 俺は今……死にそうな気分なのに、どうしてうみはそんなにテンションが高いんだろう。分からなかった。

 ただ、笑みを浮かべているうみを見るだけ。

 うみはいつもと同じ顔をしていた。


「…………」

「ふふっ」

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