4 不都合な真実②

「夕飯は外で食べよう、私……奏多と行きたいお店があるからね」

「…………ええ、そういうことだったら早く言ってくれよ。深刻な話でもするのかと思ってずっと緊張してたぞ」

「ふふっ。あ、そうだ。上着貸してくれてありがと、奏多は寒くないの?」

「いいよ……。俺は寒くないから」

「うん……」


 フードしか着てない女の子をほっておくわけにはいかないから、さりげなく俺の上着を貸してあげた。でも、サイズが合わない。俺の上着が大きすぎて、ひな……いつの間にか萌え袖になっている。

 子供でもあるまいし、可愛いね。


 まあ、女の子だから、身長差があるのは当たり前のことだけど……。

 あの時と比べたら、あまり伸びてないような気がする。


「ひな」

「うん?」

「身長何センチ?」

「私……154!」

「チビだね」

「な、何……? 小さくて悪かったね! ふん!」

「ごめん、ごめん……。確かに、中学生の頃には152センチだった気がするけど」

「2センチ伸びたよ! 2センチ! 無視しないで…………」

「うん。伸びたね……」


 そして、ひなが連れてきた場所はS N Sで流行っているファミレスだった。

 ここインテリアのいいファミレスって、如月に言われたことあるけど、実際来てみたらすごく綺麗なファミレスだった。食事は雰囲気も大事って……どこかで聞いたことあるけど、本当だったんだ。


 それもそうだけど、価格もすごく安い! なんで流行ってるのか分かりそう。


「行こう、奏多」

「うん」


 そう言いながらいきなりフードを被るひな。

 ファミレスに入るのにフードを? よく分からなくて、俺は首を傾げていた。


「どうした?」

「…………」


 何も言わず、俺の手を握るひな。

 そのまま席まで連れていく。


「あはははっ、一馬かずまくんは本当に面白いね〜」


 そして、席に着いた時、後ろからうみの声が聞こえてきた。

 誰かと……、このファミレスに来ている。向こうに座ってる人は、もしかしてあの時……うみを抱きしめた男かな? 分からない。一つ確かなことは……、うみが今知らない男と食事をしているってことだった。


「あの……、これと———お願いします」


 ひなが注文をしている間、俺はその場でうみのことばかり考えていた。

 その時、またうみの笑い声が聞こえてくる。

 これがよくないことって知ってるけど、目を瞑って後ろから聞こえる二人の話を聞いていた。


「そういえば、ホワイトクリスマスなのに彼氏と一緒に過ごさなくてもいいの? イブも俺と一緒だったじゃん」

「あはははっ。でも、私は一馬くんと一緒にいるのがもっと楽しいから。奏多くんのことうっかりしちゃった。いいよ〜、いいよ〜。今日、忙しいってちゃんと言っておいたし、それに……奏多くんは真面目すぎてつまんな〜い」

「あははははっ、それ奏多が聞いたら傷つくよ? うみちゃん」

「え〜。でも、事実だからね。明日、電話で『ごめんね〜♡』って言ってあげればすぐ『いいよ』って言ってくれるはずだから気にしないよ。どうせ、奏多くんは単純な男だから、そんなことで怒らない〜。あはは」

「ひどーい! あはははっ」

「邪魔だよね〜。邪魔〜」


 その話を……、ずっと聞いていた。

 うみはどうして……俺の知らない人にあんなことを言うんだろう? つまらないとか、単純だとか、その場で俺は何もできなかった。でもさ、俺たちは1年間付き合ってきた恋人なのに、どうしてうみは俺のことを邪魔者扱いしてるんだろう。そこがよく分からなかった。


 いつも俺に笑ってくれた彼女が……、裏では知らない男と俺の悪口をしていた。


「うみちゃん、これ食べた後、何する? うち行く?」

「明日から冬休みだし、急ぐ必要ないよね? 今日もホテル行きたい〜」

「いいね。あああ、可哀想だな……、奏多。クリスマスに彼女と一緒にいられないなんて。でも、仕方ないか。うみちゃんは可愛いからさ。俺が奏多の代わりに、たっぷり可愛がってあげる。あはははっ」

「ふふっ♡」


 その話に我慢できなくて、思わず拳を握ってしまった。

 すると、向こうに座っていたひなが俺の手を握る。


「ひな……」

「あの人を殴るつもりなの……? 今は何もしないで、奏多……。お願いだから」

「なんでだ……? なんで、ここに…………うみが」


 小さい声で話を続ける二人。


「ごめんね」


 まさか、ひなは二人が浮気をしているのも、ここで食事をしているのも、全部知っていたのか? だから、家を出る前にはっきりと言ってくれなかったのか? 俺に浮気って言ったのもそれを全部知っていたから、探りを入れたのか? そうなのか? 頭の中が複雑になって、どうしたらいいのか分からなかった。


 そして、ふとひなが言った言葉を思い出す。「私、奏多に嘘つくの嫌だからね」。

 それ……、どう考えても……うみの浮気だよな。

 やっぱり、全部知っていたんだ。


 なのに……、俺はずっとその事実を否定しようとした。

 知らない男とハグをしている時点で、浮気確定だったのに。俺は……、うみに捨てられるのが怖くてずっとあの事実から逃げていた。そして、ひなは……それを教えてくれるために、俺をこのファミレスに連れてきたのか。話より、直接それを見た方がもっと早いから。分からないとは言えない。


 それは確実に「浮気」だった。


「これ、一馬くんのおごり?」

「当たり前だろ? ええ? まさか……、奏多とデートをする時に割り勘とかしてんの?」

「えへへっ……」

「いや、ダメだな。あいつ……。まあ……、でも普通の人は精々頑張ってもそれくらいかな?」


 くっそ……。


「うみちゃんは可愛い女の子だから、それに相応しい価値を提供しないといけない。それができない男は……淘汰される。だよね? うみちゃん」

「ええ、なんだよ〜、それ。あはははっ、ウケる」

「あはははっ、そろそろ行くか?」

「うん!」


 そう言いながら、あの男と腕を組むうみ。

 その後ろ姿を俺はじっと見つめるしかなかった。


「…………」


 帽子を被っていたおかげであの二人にはバレなかったけど……。ずっと否定しようとしたことを自分の耳で聞いて、自分の目で見てしまったから……。精一杯ひなの前で我慢していた。すぐ泣き出しそうなのに、我慢するしかなかった。


 つらい。息ができないほど……、あの状況はショックだった。


「奏多」

「…………」

「奏多……」

「うん……」


 そして、俺の名前を呼んだひなも俺と同じく泣き出しそうな顔をしていた。


「まずは……食べよう。食べながら話をしよう…………。奏多」

「うん」

「ごめんね……」

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