2 浮気と出会い②
(如月)今夜、みんなとファミレス行くけど、宮内くんも来て!
(奏多)俺はいいよ、今日は家で食べるから。誘ってくれてありがと、如月。やっぱり如月は優しいな。
(如月)ほ、褒めても何も出ないからね……!
(奏多)じゃあ、クリスマス俺の分まで楽しんで。
(如月)うん! 宮内くんも! 何かあったら連絡してね。
(奏多)うん。
もう家に着いたのに、如月に気遣われている。
いい友達だな……。でも、俺なんか気にせず……みんなとクリスマスを楽しんでもいいのに、わざわざラ〇ンまで送るなんて。とはいえ、如月と過ごした時間も長いから、当たり前のことか。頼れる人がいるのは本当にいいことだな。
そして、学校が終わった後すぐうみにラ〇ンを送ったけど、まだ返事が来てない。
クリスマス当日は忙しいって言ってたから……仕方ないか。
でも、あの男と俺の知らないところで……。いやいや……、嫌なことは考えないように! 明日、うみに電話をして直接聞いてみよう。今はどれだけ考えても結論は出せないから。
それを聞くのは明日……だ。
「あんなことでずっと悩んでも無駄だから、寝よう寝よう。どうせ、やることもないし」
そのままベッドで横になる。
嫌なことは考えても無駄だ。そして、まだ聞いてないから……親戚の人かもしれないし、俺が知らない事情があるかもしれない。きっと……きっと事情があるはずだからさ、今は寝よう。
考えるな……! 奏多。
「…………」
その言葉をずっと繰り返していた。
……
ドンドン……! ドアにノックをする音が聞こえてくる。
夢だと思ってそのまま寝たら、またドンドンとノックをする音が聞こえてきた。
時間は午後の5時40分、こんな時間に誰だろう。もしかして、うみ? 俺の住所を知っている人はうみしかいないから、急いでスマホを確認してみた。でも、うみからの連絡はなかった。
じゃあ、誰だ? 誰が……、ノックをしているんだ? ちょっと怖いんだけど。
「だ、誰ですか?」
「…………」
一応、声をかけてみたけど、返事がない。
そして、またドンドンとノックをする。
「はいはい……」
仕方がなくドアを開けてあげたら、外にいる人がすぐ俺に抱きつく。
あっという間に起こってしまったこの状況。俺は対応できず、そのまま体が固まってしまった。
「うっ……!」
いい匂いがする。女の子……? でも、フードを被っていて誰なのか分からない。
てか、なんで……俺のことをぎゅっと抱きしめてるんだろう。
「……え、えっと…………。誰ですか?」
「うぅ……」
「あの……、もしかして俺のこと知ってますか?」
こくりこくりと頷くあの女の子に、俺は疑問を抱いた。
ここに引っ越してきて、俺と仲良くなった女の子は今付き合っているうみと友達の如月くらいだ。なのに、二人以外俺と仲がいい人がいたのか? もしかして、どっかで会ったことでもあるのかな? 俺たち。
すると、俺を抱きしめていたあの女の子がフードを脱ぐ。
「あれ? ああ……!」
「うぅ……。ひ、久しぶり…………。か、奏多!」
道端で俺とぶつかった女の子だ。
しかも、俺の名前も知っている。
「あ! まさか、ま、まさかぁ……! ひな? ひなか?」
この女の子は……ひなだったのか? マジで、ひななのか? 何年ぶりだろう。
久しぶりに出会って俺も嬉しいけど……、なぜこのタイミングだろうと……俺はそう思っていた。なぜなら……、ひなは……うみの妹で、二人は双子姉妹だからだ。以前どっかで会ったことありそうな気がしたのは……、その顔がうみに似ていたからかもしれない。
いや、もういい。
そんなことはひなと関係ないだろ? ひなはひなだから。
「入って……、外は寒いから」
「うん……」
てか、いきなりうちに来るとはな……。
予想すらできなかったことが起こって、俺もどうしたらいいのか分からない。まさか、田舎で別れたはずのあのひなが今俺の目の前にいるなんて。いろんな意味で頭の中が複雑だった。
「てか、どうやって俺の住所を……?」
「うん……。奏多のお母さんが教えてくれた……」
「そうなんだ」
でも、せっかくここまで来たから。
久しぶりにひなと話をしようか……、そうしたらうみのことを忘れられるかもしれない。
「奏多……、今日クリスマスなのに一人で何してるの? うみは?」
「えっ……、ああ。うみなら今日忙しいって」
「そうなんだ……。今頃、どっかで浮気でもしてるんじゃないの?」
「えっ? ひな……? 今なんって?」
「うん? 年に一度しかないクリスマスなのに『忙しい』はないでしょ? 私だったら丸一日彼氏と一緒に過ごしたと思う」
「そ、そうなんだ……。ひなは優しい女の子だからさ、あはは……」
「…………」
その「浮気」という単語にビクッとした。
「…………」
ひなはうみと違って落ち着いている。その穏やかな声が少し怖い俺だった。
それにしても、ひなはあの時とあまり変わってないな。黒髪ロングのひな、目も鼻も口も……完璧なパーツが黄金比に配置されている可愛い女の子。今更だけど、俺の初恋の人はうみじゃなくてひなだったよな。
あの時と同じく、その大きい瞳が俺を見ている。
でも、俺は振られたからもういい。
悔いはないけど、その顔を見るとちょっとだけ昔のことを思い出してしまう。
相変わらず、可愛いな。うみとは雰囲気が全然違うからさ。いや、うみのことはもう忘れよう、今日は考えないようにしただろ。奏多。
くっそ……。
「今日は……予定ないの?」
「うん。イブの約束もキャンセルされたし……、当日も特にやることないからずっと寝てたよ。あっ! そうだ。ケーキあるけど食べる?」
「うん」
「ここで待ってて。飲み物は何がいい? コーヒー? ココア?」
「じゃあ、ココアで……!」
「うん」
すぐケーキとココアを用意して、ひなと話を続けた。
「奏多は食べないの?」
「俺は……いいよ」
「これ……、うみと食べるケーキだったよね? 私が食べてもいいの?」
「いいよ。どうせ……、誰も食べないから…………」
なぜか、だんだん声が小さくなる。
「うん?」
「いや! な、なんでもない! あはは……」
実は家に帰ってきた時、すぐあのケーキを食べようとしたけど……、うみの顔が思い浮かんで食べられなかった。捨てるのも勿体無いし、どうしたらいいのか分からなくて、ひなにあげちゃったけど……、やっぱり気持ち悪いよな。
うみと食べようとした事実は変わらないから。
「ごめん……。そんなことをするつもりはなかったけど」
「どうして謝るの……? いいよ、私ケーキ好きだから」
「ありがと……。ひな」
「…………」
この状況はなんだろう、うみの代わりに双子のひながこのケーキを食べている。
でも、美味しそうに食べるその姿を見て……少し癒された。
いいから、あの時のことは忘れろ。奏多。
「ねえ、奏多……」
「うん?」
「どうして、泣いてるの……?」
「…………」
やっぱりダメか。ずっと忘れようとしたけど、どうしてもくっついているあの二人を忘れられなかった。
「やっぱり、浮気したうみのことが気になるよね? 奏多」
「…………ひな? 今なんって……」
「…………」
ひなは持っていたフォークを下ろして、俺の涙を拭いてくれた。
知っていのか? ひなは……それが浮気だったのを知っていたのか? さらに分からなくなってきた。
この状況を……。
「…………」
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