第6話仲間たちとの別れ等など

仕事部屋にて僕はパソコンの前の椅子に腰掛けている。

タイピングを繰り返しながらマウスを操作しながら…

どうしても気になっている昨夜の出来事を思い出していたことだろう。

しかしながらどれだけ思い出そうとしても記憶にないことは思い出すことは出来ない。

諦めようと頭を振った瞬間…

口元の汗を拭うように掌を持っていく。

その時…僕の脳には存在しない確かな記憶が浮かんでいた。


昨夜、僕はソフィに何かを吸われていたような…

そんな確かな記憶が脳裏によぎっている。

しかしながら僕はその時間眠っていたはずだし、そんな記憶は存在していない。

自らの記憶に疑問を抱いていると妄想の類ではないかと頭に浮かんでいる映像をかなぐり捨てるように頭を振ってかき消していた。


タイピングを再開して少しだけ嫌に思える想像を思い浮かべないように努めていたのであった。






昨夜の出来事に私は後悔していない。

間違った行動を取ったとは思っていない。

私が生きるためであるし彼への恩返しでもあるのだ。

何も私は彼に危害を加えたいわけではないのだ。

その逆で…

一先ず今は詳しい説明を省くが…

私は断言して言うが彼の味方であるのだ。


本日私は元の居場所に向かっていた。

当然私にだって昔一緒に過ごしていた仲間や家族の様な存在がいたわけだ。

しっかりとした別れを告げることもなく飛び出してきた私を彼女らは探しているかもしれない。

そういうわけで私は今、過去の仲間たちの下へと向かっている最中なのであった。




電車を乗り継いでとある街までやってきていた。

薄暗い山道を抜けると一つだけ存在している廃墟が見えてくる。

慣れた手つきで廃墟の中へと入っていくと…


「あら。ソフィじゃない。家出はおしまい?」


姉のような存在が入口まで迎えに来ると私達は軽く挨拶を交わす。


「いいえ。みんなにちゃんとお別れを言いにきたの」


申し訳無さそうに口を開く私に彼女はなんてこと無い様な表情を浮かべていた。


「そんなの良いのに。居場所が見つかったんでしょ?」


姉の言葉に私はぎこちなくだが頷いていた。


「良かったじゃない。それでも…慎重にね」


姉が何に対して言った言葉なのか…

私はしっかりと理解している。

私達にしか分からない言葉で私達にしか通じない言葉だったことだろう。

それでもしっかりと姉の言いたいことを理解した私は確かに頷く。


「じゃあ。みんなには私から言っておくわね。一先ずは…さようなら。

また会えたら良いわね」


「うん…さようなら」


そうして私は仲間や家族に最後の別れの言葉を口にして。

久遠勝の住む家へと帰っていくのであった。



その帰り道のこと。

私の眼の前で信じられない光景が繰り広げられていた。

久遠勝が私の知らない女性と談笑していたのだ。

私は咄嗟に物陰に隠れて…

その光景が過ぎ去るまで黙って見ているのであった。




「大丈夫ですか?」


「問題ないです。少し立ち眩みがしただけですので…」


「それでも…顔色が良くないですよ?」


「あぁー…昨夜少しだけ飲みすぎまして…」


「それだけとは思えないんですが…」


「いえいえ。ご心配なく。ありがとうございました」


「えっと…これから何処に向かうつもりだったんでしょうか?」


「夕食の買い出しですよ。駐車場に向かって車に乗るつもりです」


「でも…運転は危ないと思いますけど…」


「そうですね。では少し休んでからにします。色々とありがとうございました」


「本当に大丈夫ですか?心配です。家まで送りますよ」


「いえ。ご心配なく。

このままマンションの入口に入ってエレベーターに乗り込めばすぐですので…」


「じゃあ目的地は一緒ですね。行きましょう」



買い物に向かうためにマンションの外に出た僕はたまたま立ち眩みがして倒れかけた所を心優しい女性に声を掛けられていた。

そのまま僕らはエレベーターに乗り込んだのである。


「ありがとうございました」


「いえ。宮藤都くどうみやこって言います。

同じマンションに住んでいます。

また会えたら…」


言葉に詰まっている彼女を目にして僕は自己紹介を済ませようと口を開く。

その理由は階下に向かったエレベーターが再びこちらに戻ってきたからである。

直感的にソフィが帰ってきた気がしたのだ。

やましい想いは微塵も無いが僕は眼の前の女性との話をすぐに打ち切ろうと思っていた。


「久遠勝です…今日は本当にどうもありがとうございました」


感謝の言葉を口にした僕は家の鍵を開けて中へと入っていく。

少しだけ不思議そうな表情を浮かべていた宮藤都だったが…

彼女とはその場で別れたのであった。




数分後にインターホンが鳴ってモニターを確認する。

そこにはソフィの姿が存在している。

僕は得も知れぬ安堵を感じて…

彼女の下へと駆け寄るのであった。



次回へ。

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