第5話昨夜の出来事を振り返りたいが…
確かな物音がして僕は軽い酔を感じていたが目を覚ましていた。
暗闇の室内を見渡しても動く正体を確かめることは出来なかった。
どうにかして少しだけ重たくだるい身体を起こすとリモコンで室内の電気をつける。
パッと明るくなった室内を全体的に見渡してみるのだが…
「気の所為か…?」
電気をつけても室内には誰も存在していないようだった。
非科学的な存在を疑わなかったわけではない。
もしかしたらそういった存在が動いていたのかもしれない。
しかしながら現在の僕はそれを信じるよりもひとまずは眠りにつきたかったのだ。
再び電気を消してソファの上に寝転ぶ。
ガタッと何か物音がしたのは再び目を閉じて数分が経過した頃だったと思われる。
音に気付いてはいたのだが…
僕は眠気に任せて眠りの世界の入口まで足を踏み入れていたのである。
僕が寝ているソファに何者かが忍び寄る。
自宅に存在しているのは僕とソフィだけ…
言わずもがなだが近づいているのはソフィだった。
彼女は暗闇のリビングを自由に歩き回っている。
確かに僕の姿を視界に捉えている彼女は…
晒されている僕の素肌を見てゴクリとつばを飲み込んだ。
何も気付いていない僕は既に眠りの世界へと入っていた。
ソフィは例えば吸血鬼のように素肌に牙を突き立てるわけでもなく…
ソファで眠る僕の直ぐ側までしゃがみ顔を近づけていた。
僕が吐く息を口で吸い込み食べるようにしていた。
魂を喰らうようにして飲み込んでいるようだった。
「やっぱり…」
ソフィは意味深な言葉を誰に聞かせるわけでもなく室内に残して…
それで何かに満足をしたようで彼女は何事もなく部屋に戻っていくのであった。
眠っていた僕には何が起きていたのか分からない。
目を覚ますと何処か軽くなっている身体や心を直感的に感じていた。
肩を回して大きな伸びをすると毎朝のルーティンのようにコーヒーを淹れていた。
お湯を沸かしている最中に顔を洗って朝の支度を整えていた。
リビングに戻って無事にコーヒーを淹れるとリビングのソファに腰掛けていた。
何かを考える様な朝ではなかった。
薄ぼんやりと昨夜の不思議な出来事を考えながら窓の外の景色を眺めているだけだった。
「おはよう。良く眠れた?」
ぼぉーっとしている僕に声をかけるのは同居人のソフィだ。
彼女は目を覚ましたようでリビングに顔を出す。
ソファに座る僕の傍までやってくると朝の挨拶をした。
「おはよう。なんか分からないけど…今日は疲れがよく取れているんだ」
「そう。良かったわね。私もコーヒー貰っても良い?」
「うん。すぐに用意します」
キッチンに再び向かう僕はソフィのコーヒーを用意する。
少しづつ覚醒している僕の脳は昨夜の出来事をしっかりと思い出していた。
「昨日の…眠る前のことなんだけど…」
そう切り出した僕の言葉にソフィは適当に返事をする。
ソファに腰掛けてテレビのリモコンを操作している彼女に僕は続きの言葉を口にしていた。
「リビングに誰かがいたような気がしたんだよね…」
「なにそれ?この家には勝と私しかいないけど…幽霊的な話?」
「それも少しは疑ったんだけど…」
「え?じゃあ私を疑っている?」
「そういうわけでも無いんだけどさ…」
「気の所為でしょ。昨日は結構飲んだから」
「まぁ…そうだね…」
完璧に納得したわけではないのだが僕はソフィの言葉に頷いて応えていた。
そのまま僕らの一日は何事もなく始まりを迎え…
僕は仕事へと。
ソフィは本日外で野暮用があるようだった。
次回へ。
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