第17話 少し足りない後夜祭。

目覚めた俺の周りには、巡、美女幽霊のままの宮城光、白城さん、高柳、星野陽翔がいて、保健室のベッドの上だった。


「大丈夫!?わかる験?」

「験!起きた?」

「痛いとことかは?ない?」

「あ、起きた。先生、高城がおきました」

「ったく、無事か?」


一瞬何がどうなったかわかっていなかったが、すぐに先ほどの一幕を思い出し、「…あ、白城さんに殴られて…」と状況を理解したところで、保険医が来た。


「いやはや、アオハルだね」


そんな事を言いながら俺の服をまくると、腹には痣になりそうな赤い痕が出来ていた。

薬を塗りながら巡と星野が連れてきてくれた事を聞いて、ちょっとした騒ぎに申し訳なくなる。


「巡、星野、ありがとう」

「驚いたんだよ。高柳くんが呼びに来てくれてさ」

「保健委員が倒れたから代理保健委員をやったぜ」


高柳がいた事に納得をして礼を言う。


「そっか高柳、あんがと」

「いや、まあいいよ」


そして2人、明らかにやっちまった顔の白城さんと宮城光。


俺は宮城光に「宮城、美女幽霊は怖い」と言ってから、白城さんには「ナイスパンチでした」と言って笑う。


「…やりすぎたわ。ごめんなさい」

「私も、怖がりなの言わなくてごめんね」


ベットから降りながら白城さんの時間を気にすると、結構ギリギリだったので「平気ですよ。白城さんはお店に行かないと」と言う。

白城さんは「うん。そろそろ行かないとね」と言って保険医に挨拶をする。


「先生、またね。高城くんをよろしくって言おうと思ったら保健委員だったんだね」


保険医は「平気よ。アオハルだもの」と白城さんにしかわからない事を言って見送ってくれた。


玄関で白城さんを見送った俺は、一応申し訳ないのでパック飲料の自販機で迷惑料ではないが飲み物を買って渡す。


「宮城はいちごオレか?」

「え…、うん」


いちごオレを買って宮城光に渡すと、フルーツオレを買って巡に渡す。


「星野は?」

「くれんの?ヨーグルト飲料」

「高柳?」

「コーヒー牛乳」


俺はさっさと買って「クソ重いのに保健室までありがとうございました」と言って飲み物を渡した。


宮城光が不思議そうな顔で「験?赤城さんには聞かないのね?」と言われて、またまたしまったと思いながら、「…前に聞いた気がしたんだけど…、巡?フルーツオレで良かったよね?」と聞くと、巡は笑顔で「うん。ご馳走様」と言ってくれた。


「で、高城は買わないの?金ないの?」


そう高柳が聞いてきて、「いや、残り次第かな」と返す。

高柳が「残り?」と聞き返してきた時に、いちごオレを飲んでいた宮城光が、当たり前のように飲み残しを「はい験」と渡してくる。


俺も普通に受け取って「…あとひと口なら飲んじゃいなよ」と返しながらそれを飲んで、「飲み足りない。抹茶オレだな」と言って追加で買って飲む。


そのやり取りに高柳と星野がものすごい顔をしていて、巡は何か言おうとしている。


間接キスだの言われるのだろう。

俺はその前に説明をしてしまう。


「食育に近い。こうしないと宮城は糖分を摂らずに倒れるんだ。食育…、違うな、子供に毒がないって教える親のような…」


そう説明して、巡が「モデルさんは大変なんだねぇ」としみじみと言う。


「…本当はこんなに頻繁に飲んだら太るのに、験が倒れたら許さないって怒るから、飲むようにしてるの」

「まあ広まって虫歯のある奴とか、変な男がやったら宮城も嫌だろうし、せっかく飲むようになったのに、また心の壁が分厚くなっても困るから、誰とでもやるなんて思われたくはないけどね」


昼まで中途半端だったので宮城光の美女幽霊の話で盛り上がる。

皆で写真を撮って、これぞ文化祭って写真にすると、宮城光は嬉しそうに写真を眺めた。


俺は顔だけ幽霊のままの宮城光を見て、「てか…お触りNGなのになんで背中に飛びつくんだよ」と文句を言う。


宮城光は「私の担当時間は終わるところだったのよ。それなのに験が女の人と来たってクラスの子が教えてくれたから、脱ぎかけた服を着直して、アドリブで最後の特別サービスまでしてあげたの」と説明をする。


ここで高柳が「あ、あの写真あげるよ」と言って、引き攣った顔の俺が左腕に抱きついたままの白城さんを抱えて、背中に宮城光を背負った写真を渡されると、巡と星野は「わ、凄い必死な顔だね」、「こりゃ怖えよ」とコメントをくれていた。


ちょうどいいので白城さんに[高柳が撮ってくれたのを送ります]と言って送ると、[もう少し可愛い写真とかにしてよ]と返ってきてしまった。


宮城光は午後は仕事で早退になる。

午前中だけでも楽しかったと笑顔で帰って行き、俺の元にはメイキング美女幽霊の写真が届く。


クラスの仕事をやりながら、巡に「くそー、巡を誘ってのんびりと見る予定が散々なことになった」と愚痴ると、「散々なの?」と聞かれる。


「散々だよ。宮城に友達が少なそうだから初日は受け入れたけど、まさか今日は白城さんが来て殴られるとは思わなかったし」

「でも、野口くんはモテモテって言ってたよ?」


モテモテだ?何言ってんだ?


ツッコむ前に巡は「てか、宮城さんって別に友達少なくないと思うんだけど?」と不思議そうに言う。


「は?ならなんでわざわざくるの?補習仲間?俺は絶対に冬休みは休むんだ!」

「それは大丈夫じゃないかな?とりあえず後夜祭は出る?」

「巡が出るなら出る」


巡は「うん。じゃあ少し残ろうか?」と言ってくれたので、ようやくのんびりと後夜祭を見て回る。一瞬、告白しようかと思ったのだが、前の時からの繰越しがないから決定打に欠けていて、星野達からのツッコミには保健委員だから、ノート取ってくれてたからと説明しておいた。

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