第18話 冬休みの補習。
くそぅ…。
どうしてこうなった?
思わず呟くのは冬休み初日の朝。
大半の学生が家でのんびりと眠る中、俺は何故か学校にいるからで、横にはドヤ顔の宮城光が「今回もよろしくね験」と言っているのが腹立たしい。
文化祭からの3ヶ月を振り返ると、まあまあまあまあ大変だった。
7月からバイト先に来ていた社員、田所が10月に元々いた店舗に戻されることとなった。
それは別に構わない。
と、言うか…。田所は白城さんからの評判が悪くて、中継ぎや夜に少しだけ入る俺からしたら知った事ではなかったのだが、白城さんから「あんな社員は社員じゃないよ」と教わっていて、いつも白城さんが気を揉んでくれていたのは、その田所が病み上がりの俺よりも自己中に振る舞って、俺に無理をさせようとしたりしていて、アルバイト未経験の俺がカモられないように白城さんが守ってくれていたからだった。
その田所が居たのは7月から10月までの3ヶ月だけだったが、とにかくすこぶる働かない。
社員は働かずにアルバイトをこき使うくらいに思っていたし、店長達が特別真面目な人なんだろうと思っていたら違っていた。
田所が滅茶苦茶不真面目だった。
俺は知らなかったが、その田所は3ヶ月の間に店を荒らしていた。
若い子をコレでもかとナンパして、異動してきて1ヶ月経つ前に彼女ができたのに、彼女を放置して更にナンパをしていた。
聞いていて7歳も歳上なのに若いなぁ。なんて思った時もあったが、彼女はそんな田所の姿に癇癪を起こしヘソを曲げると周りのバイトに当たり散らす。
その結果、女子バイトはその彼女に嫌になって、男子バイトは増える仕事と、働かない田所に苛立ってバイト達は辞めていく。
それなのに田所の異動にあわせて彼女も店を辞めて田所の異動先に行ってしまった。
その結果、10月から深刻な人不足になった。
俺はまだ白城さんが守ってくれていたが、それは11月になる頃にはあまり効果を示せなくなっていて、俺は仕方なく働く時間と回数が増えていく。
「ごめんね高城くん、身体辛かったら絶対に教えて」
「白城さんこそ大丈夫ですか?学校とバイトの往復ですよね?」
「私は3年目だから慣れっ子だよ。高城くんこそ背中痛かったりしたら言ってよね!」
そんな会話でバイトを増やしてしまい、土日のどちらかは休む話も立ち消えてしまい、日曜の休みなんかが隔週になってしまうと11月の終わりには母さんが目を三角にしてキレた。
そして一言物申してやると言い、店に客として乗り込んでくる。
客というよりクレーマーの顔で来た喧嘩腰の母さんを前に、慌てる店長達を放置して白城さんが「同僚の白城です。高城くんの高校のOGで、担任の三ノ輪先生は私も担任をして貰いました」と自己紹介をしてくれた。
母さんを端の席に通すと、「身体の事は聞きました。私も心配しています。安心してくださいと言っても信じてもらえないかも知れませんが、悪いことにならないように気をつけます」と言い切る。
母さんは白城さんをコロッと信じ込んで、「良かったです。白城さんみたいな方がいるなら安心ですよ。検査にキチンと行けて、験が自己申告してくれればいいわ」なんて言うと、パフェとケーキセットを俺の奢りで頬張って帰って行った。
これにより11月末の母さんは、何かというと「白城さんは綺麗な方ね。ああいうしっかりとしたお嬢さんに付き合って貰えるように努力しなさい」と言うようになって、ウルトラクソうざかった。
これにより休みが減った。
それでもまだ休めた10月は巡に誕生日プレゼントを渡せた。
だが彼氏としてではなく友達としてなので、値が張る物は渡せないが、それでも巡には喜んでもらえた。
「験はプレゼント好きな人なの?」
「なんで?」
「前も本をもらったし、今回は本とマグカップだよ?」
「今学校でやれてるのは、巡と仲良くなれてるからって思ってるから巡は特別だよ。いつもありがとう」
マグカップは冬場にはココアを愛飲する巡に使ってもらいたくて、そして本はやはり渡したくて買った。
「マグカップでココアを飲んでその本を読んで」
俺の言葉に、巡は「あれ?ココアが好きって言ったっけ?アイスココアは嫌いだから夏場はフルーツオレにしてるし」と巡に言われて少し慌てたが、「直感?顔に書いてある気がしてさ」と誤魔化しておいた。
巡は4月の誕生日は期待しておいてねと言ってくれて、悪いよとは言えずにありがとうと言ってしまった。
「験、宮城さんには何あげるの?」
「宮城?なんで?」
巡は雑誌を取り出して見せると、冬服で公園を歩く写真の宮城光がいるページを出して欄外を指差す。
そこには宮城光の誕生日は12月12日と書かれていた。
笑顔の巡が、「…きっとなんかくれーって言われるよ」と言ってきて、俺は「…アイツのが金待ちだろうが…」と返したところで俺はまた気付いた。
「そうか…、友達少ないから…」
今気付いたことを呟くと、「だから験、宮城さんは友達いると思うよ?」と巡に言われた。
「いや、友達が多かったら俺にたかる真似はしないよ」
俺はここでひとつ大事なことを思い出した。
「巡、一個あったんだ。宮城と友達になったりしないようにな」
「験?なんで?」
俺は一歩前に出て「巡は優しいから宮城がダイエットだのなんだの言ったら、『私も今日は我慢するね』とか言いそうだからだよ。巡は美味しそうにご飯を食べる所も魅力的なんだから、宮城と友達になったらダメだよ」と力説したら笑われた。
「そんなに私の食べる姿って魅力的なの?」
ここで一つのことに気付いた俺は「そうだ!冬休みになったら甘党天国の食べ放題に行こう!」と巡を誘った。
前の時は弱り始めた俺は薬のせいで味がわからなかったし、沢山食べられなかった。
「えぇ、食べ放題?」
「うん。歩けなくなるまで食べてくれ!」
「歩けなくなったら?」
「抱っこで送るから安心してくれ」
俺の熱意に巡は「うん。冬休みになったらねー」と言ってくれて、俺はテンションが上がった。
それなのに冬休み初日、何故俺は補習を受けていて、何故俺は宮城光に「よろしくね験」と言われてるんだ?
くそぅ…。
どうしてこうなった?
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