第16話 OGと美女幽霊。

俺は全面的に油断していた。

まさか文化祭の一般公開当日。

朝一番に白城さんがやってきて、「おーい。高城くーん」と声をかけてきた。


周りのどよめきを聞きながら、自分の目を疑い「白城さん?」と返事をすると、白城さんは「にへへ。用事ないと母校なんてこないしさ」なんて言いながら教室に入ってくる。

そして三ノ輪先生に「あ!三ノ輪さん!ご無沙汰してます!はい!高城くんがバイト先の後輩で、ちょうど良かったので顔を出しました!」なんて挨拶をしている。


その間に、巡から「白城さんと約束したの?」と聞かれて、「してない」と返し、野口悠人からは「なんだお前は!?モテ期か!?モテ期なのか!?」と聞かれて、「そんなんじゃない。なんか死ぬっていつも思われてるから生存確認だと思う」と説明する。

その答え合わせのように白城さんが「今日の体調は?痛いとかない?出勤前に来たから少し回ろうよ。保健の先生達にも紹介してあげるからさ」と声をかけてくる。


見たか?という顔で「ほら」と言うと、星野陽翔が「貧弱、貧弱、貧弱〜」とネタにして笑っていた。


まあ仕方ないが、白城さんと文化祭を回ることになると、新発見とか普段なら味わえない事が待っていた。


白城さんは見かけた岩渕先生を「ブッチさん」と呼んでいた。

そして俺を突き飛ばした三年の事を知っていて、たまたま出会った時に、俺を突き飛ばした三年は俺と白城さんを見て青くなっていた。


「お!元気?黒田くん!」

「え!?し…白城先輩?」

「懐かしいねぇ!この子知ってる?って知らないよね?この子は高城くん、ちょっと身体が弱くてさ、心配だから見にきたんだよね。卒業まで後少しだけどさ、球技大会でアザだらけになってくる子だから、気にかけてあげてくれないかな?背中に大きな手術痕があるんだよね」


いたたまれないよ。


そんな俺を突き飛ばした黒田さんは嘘が苦手で青くなると、「すみません!突き飛ばしたのは俺です!」と自白した。


「…は?」

「…言わなくていいのに…」


サッカーの試合で熱くなって、やり合って無効試合になった事、キチンと謝りあった事を説明して、「先輩!俺たち仲良しですよね!」と言って肩を組むと、黒田先輩も「おう!あの時はごめんな!」と返してくれる。


アドリブでもノリのいい先輩で良かった。


怖い顔で「ふーん」と言った白城さんは、「何かされたら言いなよ?」と俺に敵みたいな顔で言ってきて超怖かった。


その後、俺が何度「白城さんって怖いんですか?」と聞いても適当にかわされてしまう。

少しだけ気になった時、白城さんは宮城光のクラスのポスターを気にして、「お化け屋敷だって!美女幽霊ってなに?気になる!」と言ってきた。


怖い思いもしたから、怖がる姿くらい見てもバチは当たらない。


「そこ、気になりますよね。行きますか?」と誘って白城さんと行くと、今日も受付は高柳で「高城?また来たの?」と言っている。


「高柳?お前こそまた受付なのか?やらされてるのか?いじめられてるのか?」

「違うって、たまたま二日間とも俺の時に高城が来てるだけだよ」


高柳は呆れ顔で俺をみて、横の白城さんをみて「その人は?」と聞いてくる。


「白城さん、バイト先の先輩でここのOG。三ノ輪先生や岩渕先生を知ってる人」


その説明の中、中はなんか慌ただしい。


「とりあえず入れるだろ?白城さんは仕事前に来てくれたから、コレみたら帰るんだ」


そう説明して中に入った。

白城さんは怖がりのようで、身体をすぼめて小さくなりなっている。


「うっわ、怖すぎる。なんでこんなに雰囲気出てるの?ヤバくない?」


横を歩く俺も、昨日のおかげでなんとかなりながら、「怖いですよね。昨日は大絶叫ものでしたよ」と返す。


「え?もう入ったの?」

「ええ、入りましたよ」


白城さんは凄い顔で俺を見て、「なら教えてよ!知ってたら入らなかったって!」と言うが、「いや、せっかくなんで」と返して誤魔化す。


怖くなる白城さんは次第に大人しくなると、「手…、怖いから繋いで」と言ってきて、俺は「わかります。どうぞ」と返して手を繋ぐ。


こうしてみると白城さんの手は小さい。

この手をした人が、30分前には黒田先輩と俺をビビらせていた。

不思議なものだと思っているといよいよクライマックス。

あの生首が飛んでくる場所だ。


だが俺には耐性がある。

三度目の奴なんて居ないだろう。

もう慣れた。


生首ドンと来い!


そう思った時もあった。

だが、宮城光のクラスはもう一段階やらかした。


生首1号に「いやぁァァッ!首!」と言って俺に抱きつく白城さん。

それなのに俺がいるからか、生首2号まで射出されて「増えたぁぁぁ!?」と悲鳴が上がって更にきつく抱き付かれた俺は、これで終わりだと油断した。

まさか背後から美女幽霊こと宮城光が演劇部の着物姿で背後から駆けてきて、俺は「ぎょあぁぉぉっ!?」と声をあげてしまう。


しかも俺に抱きつくとは思わなかった。


「ぎゃぁぁ!?抱き付かれた!?」

「抱きつく!?嫌ァァッ!」


俺と白城さんが悲鳴をあげる中、宮城光は俺に抱きついたまま「浮気者ぉぉ」と、それはそれは恨めしそうな言い方をした。


「み…宮…宮城!?なんでお前はそんなに演技が上手いんだ!?」


そんな事を言いながらあまりの恐怖で俺は白城さんを抱え、宮城光を背負いながら出口を目指していた。


外に出ると、そこにいた高柳にまた写真を撮られる。


「凄い絶叫だったし、凄い姿だよ高城」

「バカ!すげぇ怖いんだぞ!」


左腕で抱きかかえる白城さんは「怖い、怖い、無理無理」と言いながら目を瞑って俺にしがみついていて、背中におぶったままの宮城光は「浮気者ぉぉ〜」と言い続けている。


「宮城、降りて」と言って横を見ると、宮城光と至近距離で目が合う。


確かに美女幽霊なのはよくわかる。

目元は特殊メイク?で覆われているが目鼻立ちが整っている。


「浮気者ぉ〜」

「それはいいから、美女幽霊なのもよくわかった。近くで見たら宮城は美人だよ」


俺のコメントに気をよくして降りようとした宮城光は、もう一度覆い被さると耳元で「その女誰よぉ〜」と美女幽霊を頑張る。

その頑張りは友達作りに向けてくれ。


「バイト先の先輩で、ここのOGの白城さん、俺の体調を心配してくれる人」


この説明で、ようやく納得した宮城光が降りたので、白城さんに「白城さん、出ましたよ。終わりましたよ」と声をかけると、「怖い」、「無理」を連発していた白城さんは、「本当?」と目を開けた。


俺の顔を見てほっとした顔をした直後、背後から覗き込む宮城光の顔を見て、「いやぁぁぁ!まだいる!」と叫びながら俺の腹に1発凄いのを打ち込んでくれた。


あまりの威力に俺の意識は遠のき、遠くからは「験!?」、「高城くん!?」、「わ!高城が倒れた!高城のクラスの保健委員呼んで!」と聞こえてきていて、騒ぎでかくなるのやだ…と思いながら俺は気絶していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る