第7話 少女は傭兵になる2
ティアは部屋を出ていく3人を見ながらお茶を一口飲む。
あの子たちの言い分は理解している。国籍が分からなければ正式な亡命届は受理されず、国民証は発行されない。しかし、傭兵として認められれば国民証は必要ない。
傭兵を管理しているのは国家ではなく、あくまで組合だ。組合から出てる認可証があれば国民証という身分証はいらない。だから最初に見かけた街で傭兵になれさえすればこの街で生活もできるし、仕事をこなせば金も稼げる。
村から逃げてきて、行く当てのない人にとっては傭兵ほど最適な身分はない。
他国から亡命してそのまま傭兵になった者は少なくない。組合側は各国の指名手配者でもなければ経歴に深入りすることもない。その代わり、各国家の調査機関からの要請があれば庇うこともせずに突き出すこともする。”来るもの拒まず去る者終わず”それが組合のスタイルだ。
しかし、今回の子たちは若すぎる。しょうがないとはいえ他の選択肢は無かったのか。義兄のボルドーは門兵だ。本来なら身分証を持たない者の入場はできない。おそらく一番幼い銀髪の少女を見てそのままにはしておけなかったのだろう。
ボルドーは私の姉の夫だ。だからそれなりにボルドーの気持ちも理解できる。姉夫婦にはちょうどあの娘と同じくらいの年代の娘が1人いる。親バカのボルドーが感情移入しないわけない。厳つい見た目に反して心優しい。かくいうティアも姉夫婦の家に遊びに行った際は姪っ子を溺愛している。
おそらくボルドーは私にあの子たちの管理を任せたいのだろう。しかし、無理がありすぎる。
組合から傭兵としての認可証を貰えたからと言って、何もしないでも良いわけではない。傭兵を隠れ蓑にされては困ることから規定がいくつかある。3か月に1回は組合指定の魔力核の納品、組合が仲介している依頼の中で一定以上の難易度の完了の2つが義務付けられている。
傭兵という身分は、ある意味公務員にも匹敵する身分と職業だ。その代わり自発的に動かないと収入が得られないし、既定の通りに仕事をしないと認可証の取り消しや罰金。最悪の場合投獄もあり得る。
では仕事をし続ければ安定するのかと言えばそうではない。
まともな収入が得られるのはやはり魔獣退治とそれに伴う魔力核の納品だ。報酬が上がればそれだけ危険度も上がっていく。
傭兵という職業は簡単になれる反面、死と隣り合わせだ。夢見る傭兵が、出ていったきり帰ってこないことは日常茶飯事だ。
そんな職業だからこそティアは渋った。考えた。横柄な態度の英雄気取りの傭兵の方が対応は圧倒的に楽だ。
ボルドーが私に任せた理由は、あの子たちを傭兵と認めて私が管理してあげてくれという事だろう。実績を捏造してあの子たちが成人するまで面倒を見てやれと、そう言いたいのだろう。
できないこともないだろうが、あまりにもリスクが高すぎる。私の組合職員としての地位は飛び、それこそ投獄もされるだろう。
同じ職場でも、懇意にしている傭兵たちの実績を捏造、改ざんをした罪で投獄まで行った職員を見てきた。
組合の信用問題に関わるため、職員の汚職に対しての罪は重い。
「はぁ…。」
ティアは溜息を吐くと残りのお茶を一気に飲み干す。
あの3人に承認試験を課したのは、厳しい傭兵事情を目の当たりにすれば別の道を探すだろうと期待してのことだ。
渡したリストに載っている魔獣は3頭。”銀角鹿(シルバーホーン)”、”陽光狼(サンライトウルフ)”、”鋭爪鳥(フェザータロン)”だ。
鹿は角、狼は爪、鳥は羽とそれぞれ違う魔力核を納品しなければならない。
どれも協会指定の魔獣の中では低級の部類だが、持ち帰ってくるのは簡単ではない。協会が魔獣たちを相対的に見ての判断である。
シルバーホーンは銀色に輝く角と白い毛皮を持つ鹿型の魔獣だ。草食だが自分へ向けられる敵意や殺意に敏感であり、察知すれば逃げるのではなく襲い掛かる修正を持つ。銀色の角はとても硬く、並大抵の衝撃では折れない。100㎏の体重を誇る鹿が硬い角で決死の突進を仕掛ければ、人間は一たまりもないだろう。
サンライトウルフはオレンジ色の毛皮を持つ狼だ。昼行性の狼で日の光を浴びれば浴びるほど狂暴化する。基本的に群れで狡猾に狩りをする修正があるため、初心者は対処しきれないことが多い。
フェザータロンは地上を走り回っている隊長70㎝程度の中型の鳥だ。飛ぶこともできるが基本的に地上を拠点としている。そのため脚力が発達しており、鋭い爪も生えているため小さいながらも蹴りを食らえば重傷は免れない。
3頭とも傭兵になり立てころに挑戦し、重傷を負うか死ぬ者が多い。低級指定だからと侮り返り討ちに会うのが常だ。
3人の内2人は狩の経験があると言っていたため、ある程度は対処できるかもしれないが、生息域だけ知らされて3頭の情報収集を含めて1週間以内に戦利品を持ち帰ってくるのは不可能に近い。
だからこそティアは試験を課した。ただの狩ではなく、要求したものを持ち帰ってくるまでが傭兵だ。その厳しい現実を突きつけるために。
ティアは3人とボルドーに申し訳ない気持ちを抱きながらティーセットを片付け始める。
「ごめんなさい。私にはできないわ。子供たちを死地へ送り込むなんて、責任が取れない。」
誰が聞いているわけでもない謝罪と言い訳を独り言ちりながら、ティアは部屋を出る。
送り出してしまった3人の無事を祈りながら。
シアたちは応接室を出た後、組合の1階にある広い待合スペースの一角にある小さなテーブル席に座っていた。
丸テーブルの真ん中に先ほど貰ったリストを広げて相談している。
「シアもこの魔獣たちを見たことない?」
アルトはシアに尋ねる。この中ではおそらく一番魔獣と関わっているであろう少女だ。
「見たことないわ。神殿の周りにいた子たちよりも小さそうね。」
シアはリストを改めて眺める。
神殿の周りにいた子たちとは皆友達になっていた(中には最初に襲い掛かってきた子もいた)が、このリストに載っている見た目の子はいなかった。
「シアが見たことあるなら、この部位を分けてくれるように説得してもらおうと思ったのに。」
アリアが冗談交じりに言う。
確かに言葉が通じるのであればそれが楽だと思うが、以前喋った魔獣が言うには、そもそも他種族の言葉を理解するだけでも相当な知能が必要だと言っていた。加えて相手に言語を合わせることができるのは数えるほどしかいないとも聞いた。
それを加味すると、この魔獣たちはシアの言葉を理解できない可能性が高いだろう。
説得や交渉ができないとなると、この指定されている部位を持ち帰るのは討伐するしかないだろう。
「でも討伐するにしても私たちは武器になるようなものはないわ。アルトが作る罠も仕留めるための物じゃなくて動きを一時的に止めるものでしょ?」
アリアはとアルトは逃げている途中で主要武器のほとんどを無くしてきてしまっている。短刀は持ってはいるが戦闘用ではない。
「そうだね。武器と言えるものはシアが担いでるそれくらいだけど。」
アルトはシアが布に包んで担いでいる刀に目をやる。
私としては使ってもいいが今ではない。部位を持ち帰れなくなるだろう。
昔、いくら話しかけても攻撃の手を辞めない魔獣に試切を兼ねて使ったことがあるが爽快だった。ただ一つ問題があるのだがそれはここで打ち明けることではない。シアは背中の刀を触りながら答える。
「これはまだ使うべきじゃないわ。私が使いたいときに使うから今は我慢してちょうだい。」
多分、私の手刀で十分だと思う。
「もちろん。そんなお願いはしないよ。僕とアリアで何とかできればいいけど。」
アルトは端からアリアと2人でやろうとしていたようだ。
「私もそのつもりよ。シアにこんなところで頼ってちゃ、先が思いやられるわ。」
アリアはそう言うが、最初に説得できないかと言い出したのはアリアだ。言うのも可愛そうだから胸の内に閉まっておく。
3人は考えるがいい案が出てこない。20分くらいした時だろうか。シアの背後から聞きなれない男の声がした。
「困りごとかい?よかったら相談に乗るよ?」
3人は声が聞こえた方に顔を向ける。
男は20代半ばくらいだろう。茶髪を全体的に後ろに流して固めている。装備はフルプレートとまではいかないが要所はしっかり守られている鎧を着用し、腰には銀に金の模様が入っている派手な長剣を差している。見た目は騎士だがここにいるということは傭兵なのだろう。
「あなたは?」
アリアが怪訝そうに尋ねる。
「失礼。俺はマルクス。マルクス・レドリア。この街を拠点にしている傭兵だよ。」
マルクスと名乗る男は明るく名乗る。万人受けするであろう笑顔をこちらに向けてくる。
「それで、何の用?」
アリアは引き続き怪訝そうに尋ねる。
「決して邪魔しに来たわけじゃないんだ。これから後輩になるであろう君たちに先輩として協力できることがあればと思ったんだが。」
ただの親切心か、はたまた何か裏があるのか。
シアとしてはどちらでも良かった。親切心だったら思う存分利用すればいいだろうし、裏があったとしても害がなければ問題ない。害があった時に対処すればいい。
アルトは何かを思いついたのか、男に向けて負けじと爽やかな笑みを向ける。
「実は、傭兵の申請に来たんですけど若すぎるとして承認試験を受けることになってしまったのですが、お恥ずかしい話武器を持ってなくて…。」
アルトは語尾を弱くしながらしゃべり、お決まりの同情作戦を取る。この男に何か打開策を求めているようだ。
マルクスは一瞬目を丸くしたが再びあの笑顔に戻る。
「そうなのかい?なら俺に任せてよ!」
マルクスはそう言うと、胸を拳でポンとたたく。
「お願いしても良いの?その剣をくれるとか貸してくれたりするの?」
どうやらアリアはこのマルクスという男を信用してはいないようだ。からかうような笑みと声色をしている。
それをアルトが苦笑しながら制し、マルクスに改めて問いかける。
「ありがたいお話なのですが、僕たちは見返りを返せるだけのお金を持っていません。それに試験なので同行することも難しいと思います。」
アルトは申し訳なさそうに男に告げる。やはりアルトは演技がうまい。
するとマルクスは私たちにとってはありがたいことを言ってくれる。
「同行はしない。武器も課さない。俺が君たちにするのは装備を買い与えることだ。」
渡りに船である。からかっていたアリアも目を丸くする。アルトも予想外だったのか小さく驚きの反応を見せた。
「そんなこと、良いんですか?さっきも言いましたが僕たちには返せるお金はありませんよ?」
アルトはマルクスに確認する。すでに演技モードに入っている。
「そんなこと心配しなくていい。これは後輩への未来の投資だ。いつか君たちが有名になった時に最初に助けてやったのは俺だって胸を張って言える傭兵になってくれれば俺は満足さ。」
こんなうまい話があるだろうか。このマルクスという男はお人好しなのだろう。私の中の私も賛成している。
「私は賛成よ。ここは甘えても良いと思うわ。」
シアはそう言うと、2人に意見を聞く
「僕も、マルクスさんがそれで良いというのなら。」
「ちょっと心配だけど、2人が良いというなら私も従うわ。あんたを信用したわけじゃないからね?」
アリアは未だにこの男を信用していないのだろう。まあ、私も信用しているのはこの2人とあの魔獣だけである。
「よし、決まりだね。じゃあ俺が使っている加工屋に行こうか。オーダーメイドじゃなければすぐに使えるものが幾つかあるからね。」
そう言うとマルクスは、付いてくるよう3人に伝える。
マルクスの後に続き3人は傭兵管理組合の建物をあとにする。
3人はマルクスに続き、最初に通った大通りを戻っていく。途中で周りを観察してみると、色んなお店があるようだ。
雑貨屋、薬屋、酒場やレストランなど様々だ。中には防具屋や武器屋などもあったが、今回はここには用は無いみたいだ。
途中の十字路を曲がり大通りを外れ、少し狭くなった道を行く。ここは住宅街に近いようだ。
その一角に、【リリアン武具加工店】と看板を下げた建物があった。
周りは3階建ての建物が多かったが、このお店は平屋で煙突が建っている。
どうやら目的地はここのようだ。
「ここが俺の使ってる加工屋だ。とりあえず中に入ろう。」
そう言うとマルクスは店の扉を開ける。
扉を開けると赤毛の長髪を後ろで編み込んでいる女性が声を上げる。
「いらっしゃい!お、マルクス、久しぶりだね~。」
女はマルクスを見るなり、親し気な態度を見せる。
「あぁ。昨日帰ってきたんだ。さっきまで組合に報告をしてたんだが、そこで未来のお客を見つけたんで連れてきたんだ。」
そう言うとマルクスは自分の後ろを指し示し、こちらに振り返る。
女がマルクスの後ろをのぞき込む。
「未来のお客?」
目を細めながらこちらを伺う女。
値踏みするようにこちらを眺めた後、マルクスに問いかける。
「随分と若いねえ。最近傭兵になったの?」
やはり第一印象は皆同じか。確かに成人していない双子に10歳程度の少女の組み合わせは違和感しかないのだろう。
「いや、これからみたいだ。組合から例の承認試験を出されたみたいでね。この子たちに見合う装備探しに来たというわけだ。」
マルクスは私たちの代わりに簡単に説明してくれる。
「承認試験ってあんたも受けてたよね?同じもの?」
「そうだと思う。リストを3人で眺めていたから気になって声をかけてみたんだ。」
どうやらマルクスも私たちと同じ対応だったのだろう。だとしたら彼は10年近く傭兵業をしていることになる。大先輩だ。経験もそれなりだろう。
「初めまして!私はリリアン!この店の主人よ!」
元気よくリリアンと名乗る女は自己紹介を始める。
「初めまして。自己紹介が遅れました。僕はアルトです。」
「私はアリアよ。」
「シアよ。」
リリアンに比べて素っ気ないが自己紹介を返しておく。今思えばマルクスに対しては名乗らなかったな。
「これからよろしく!早速だけどどんな武器が良いとかわかる?武器に合わせて防具も必要になってくるから、まずは武器を決めちゃいましょ。」
リリアンはそう言うと壁に掛けられた武器を指し示す。加工屋でも取り置きの武器があるのだろう。
いよいよ武器選びだ。ワクワクしてきたぞ!
私が武器を眺めているとアルトが希望の武騎種を答える。
「僕達2人は弓矢の使用なら自信があるんですが、他の物だと使った経験がないんですよね。」
困ったような顔をするアルト。
よく見ると、弓の取り置きは無いようだった。
「大丈夫よ。弓矢も置いてるものがあるから。他にも気になるものがあれば壁に掛けてあるのを触ってみて頂戴。」
そう言ってリリアンは店の奥へと姿を消す。
どうやら弓は壁にかけてるのではなく、店の奥に置いてあるようだった。
アリアの方を見ると、さっそく壁掛けの武器を手に取っている。今持っているのは長剣だ。
「さすがに弓2人だとバランス悪いわよね?私は近接武器を使ってみようかしら。どれがいいかしら?」
剣を持っているアリアはやはり絵になる。私の想像通りだ。欲を言うならばもっと刀身の短いものを使ってほしい。いずれか拳で戦ってほしい。絶対似合う。
アリアが剣を眺めているとマルクスがアドバイスを送る。
「今アリアちゃんが持ってるのが長剣だね。攻撃と防御のバランスは良くて初心者向きだが、狭い場所では扱いが難しい。」
マルクスが武器の長所と短所を説明してくれる。
しかしアリアは、マルクスにちゃん付けで呼ばれたのか不満顔だ。
「アドバイスどーも。シアはどう思う?」
ここで私に聞くのか。なら遠慮なく私の希望を押し付けよう。
「アルトはそのまま弓で良いんじゃないかしら。アリアは性格的に近接の方が向いていると思うわ。」
そう言うと、アリアは顔を顰める。アルトは苦笑いだ。何か可笑しなことを言っただろうか?
「なんか納得できないけど、シアが言うならそうするわ。あんたの腰に挿してる剣はなに?」
アリアがマルクスの腰の剣を指さして質問する。
「これかい?これは片手剣だよ。長剣は両手で扱うものだけど、片手剣は長剣よりリーチやパワーが足りない。その代わり片手で扱える分、取り回しやすい。なにより片手がフリーになるしね。」
そう説明しながら左手で力こぶを見せつけるようなポーズをとる。
「普段フリーの方で何を持っているの?」
アリアが重ねて質問する。
「俺は盾を持っているよ。長剣の防御と違って、攻撃を防ぎながらも反撃できるのは魅力だからね。それに狭い場所では盾は良い武器にもなるんだ。」
なるほど。物は使いようだな。
アリアは「ふーん」と、自分から聞いたのにもかかわらず興味なさげだ。
「シアはどれが良い?」
ここでも私に聞く?そんなことしてたら本当に拳を指定するわよ?ほら、答えてくれたマルクスも苦笑いだ。
さすがにいきなり拳で戦えなんて言っても可哀そうだと思うので、限りなくゼロ距離で戦う武器を探す。
「そこの2本の短剣はどう?」
私が選んだのは2本並べて掛けられている、片手剣よりも短い物だ。
「二刀剣かい?剣の中では扱いは一番難しいね。手数は多いがスピードやスタミナが重要になってくる。ただ、上手く使えるようになれば相手に攻撃の隙を与えない強みがある。攻撃は最大の防御ってね。」
マルクスが二刀剣と呼ばれる武器の説明をしてくれる。
その説明を聞いているのかわからないが、アリアは黙って私が刺した二刀剣を手に取る。
何度か柄を握り直しながら重さなどを確かめる。
「良いわね。」
アリアが呟く。
すると店の奥から、2種類の弓を持ちながらリリアンが戻ってきた。
「二刀剣かい?珍しいものを選んだね~。」
リリアンが若干に妬けながら確認する。
「最初の武器でそれを選んだ人は初めて見たわ。」
リリアンが言うには、マルクスの言う通り、二刀剣は使用難易度が高く。そもそもの母数も少ないとか。
「私はこれにします。体力にもスピードにも自信がありますし。しばらく使っていれば馴れるでしょ。」
何とも楽観的だが、アリアなら大丈夫だろう。いずれは拳で戦ってもらうんだから。
「了解。じゃあアリアちゃんはそれね。あ、マルクス、お代はタダで良いよ。」
リリアンがそう言うと、マルクスが驚く。
「良いのかい?俺の財布なら気にすることないぞ?」
「ならその財布で他にも必要な物を買ってあげれば良いじゃない。装備だけじゃないでしょ?」
マルクスはそれを聞いて納得したような笑顔を見せる。
「それもそうだな。わかった。ここはリリアンに甘えよう。」
そう言うとマルクスは爽やかな笑顔を見せた後、シアたちに向き直る。
「ここはリリアンに甘えて好きなものを選ぶといい。他に必要な物は俺から出そう。」
「良いんですか?初めて会った僕たちなんかの為にそこまでしていただいて。」
アルトがリリアンとマルクスの提案を聞いて驚きの表情を見せている。
「気にするなと言ってるだろう。これは投資だってな。」
マルクスとリリアンは笑顔で頷き合っている。
「ありがとうございます。僕たちも一流になって恩返しできるように頑張ります!」
アルトのこの発言はどこまで本気なのだろう。
「さて、アリアちゃんが決まったところで次はアルト君!どっちの矢が良い?」
リリアンが先ほど店の奥から持ってきた2本の弓をカウンターに置き尋ねる。
1本は一般的な大きさだろう。組合で見かけた傭兵の中に、これと同じような物を持っている傭兵が何人かいた。
もう片方は一回り小さい矢だった。走りながらでも撃てそうだしけど、威力は低そうだ。
アルトは2本とも一度手に取って確認した後、短い方をカウンターに戻す。
「僕はこっちにします。短弓を強みを生かせるほどの速さは僕にはありませんので。」
確かにアルトは狙撃タイプだろう。見たことはないがそんな気がする。
そんなアルトの自己分析に、マルクスとリリアンは感心を示す。
「その自己分析は懸命だね。短弓は威力は低いけどその取り回しやすさは大きな利点だね。でもアルト君が言ったように使用者にそれなりのスピードが求められる。」
リリアンがアルトの選択を補足する。
「やはり君たちは見込みがある!声をかけて良かった!」
ハハハと笑うマルクス。それをまたも不満気な表情で見ながらアリアはシアに視線を向ける。
「シアはどうする?気になるものある?」
完全に自分のことを忘れていた。しかし、私には必要ないとは思う。
「シアちゃんにあった物か~。正直シアちゃんがまともに使えそうなものは置いてないんだよね。」
リリアンは申し訳なさそうに言う。
それはそうだろう。私は小さすぎる。子供用とかあれば良いのだけれど。だが無いものは仕方ない。ならば。
「私は多分隠れてるだけだから、自衛用のナイフみたいなのでもいいわ。」
そう提案する。
リリアンはそれを聞いて「なるほど」と頷いて、カウンターの下から1本の短剣を取り出す。
アリアとアルトが持っている短剣よりは長いが、アリアの二刀剣よりは短い。
「それは解体用とかに使うものなんだけど、切れ味は良いから自衛にはなるかも。」
私は短剣を手に取る。しっくりは来ないがこれでいいだろう。
「十分よ。ありがとう。」
それを聞いてリリアンは再び笑顔に戻る。
3人の武器が揃ったところでマルクスが口を開く。
「よし。武器が決まったところで、次は必需品を買いに行こう。防具は君たちが選んだ装備なら馴れたものの方が良いだろう。別の機会で作ればいい。」
マルクスの提案にリリアンもうなずく。
「そうね。でも防具を作るのならここへ来て頂戴?毛皮とかの素材を持ってきてくれれば安くするし!」
どうやら私たちの武器種は、マルクスの様なごつい防具はいらないみたいだ。たしかにいきなり防具を着て普段通り動けるわけがない。
そして防具はリリアンが作ってくれるのか。魔力核の他に毛皮とかを協会ではなくここに持ってくればそれを元に作ってくれるというじゃないか。何ともありがたい。
シアたち3人は、改めてリリアンに頭を下げると、マルクスに続いて雑貨屋へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます