対抗戦と作戦会議
華やかな装飾が施された広場に、多くの人々が集まっていた。観客席は熱気に包まれ、興奮した声が空を震わせている。S級対抗戦の開会式が今まさに始まろうとしていた。
国王が壇上に立ち、厳かな面持ちで宣言する。
「我が国の誇るS級冒険者たちよ。汝らの力と智恵を競い合い、さらなる高みを目指せ。今ここに、S級対抗戦の開幕を宣言する!」
轟きとも言える歓声が辺りを包み込んだ。観客の耳は、その歓声でほとんど聞こえなくなりそうだった。
歓声が収まると、大会の進行役が前に進み出た。彼は声高らかに、今回の対抗戦の目玉となるチーム戦のルールを説明し始めた。
「本大会のメインイベント、チーム戦の詳細をお伝えいたします」
観客たちは息を呑んで耳を傾けた。
「まず、参加者は『プライマ』と『アルファ』の二つのチームに分かれます。各チームにはS級パーティ2組、A級2組、B級2組が所属します。戦いの舞台となるのは、特別に用意された大演習場です。ここで重要なのが『フラッグ』の存在です」
進行役は手元の小さな旗を掲げた。それは普通の旗のように見えたが、よく見ると微かに光を放っている。
「各チームはこのフラッグを守ることが使命となります。フラッグを破壊されれば、そのチームの敗北となります」
観客たちの間で小さな議論が起こる。単純なルールのように思えたが、進行役の次の言葉で一同は驚愕することとなった。
「しかし、このフラッグは単なる物体ではありません。自立した思考回路を持ち、時に予想外の行動を取ることがあるのです。幻惑魔法などにも影響を受け、味方の意図に反して敵の前に出てしまうこともあり得ます」
会場が騒然となる。フラッグに意思があるという発表は、誰もが予想していなかった展開だった。
「さらに、この戦いでは参加者全員が初級者用の武器を使用し、特殊な装飾品の使用は禁止されます。各々の能力を最大限に活かし、チームワークを発揮することが勝利への鍵となるでしょう」
進行役の説明が続く中、参加者たちの表情は真剣そのものだった。特に、S級冒険者たちの目には鋭い光が宿っている。普段使い慣れた武器や装備を使えないという制限は、彼らにとって大きな挑戦となることは明らかだった。
「それでは、チーム分けの発表に移ります」
会場の空気が一瞬で緊張感に包まれた。
「チーム『プライマ』には、サラリバン、ガイウスのS級冒険者を筆頭に、A級からはマーカス、エレナ、B級からはトム、リサが所属します」
呼ばれた名前の持ち主たちが前に進み出る。サラリバンとガイウスの名前に、観客から大きな歓声が上がった。
「対するチーム『アルファ』には、ヴァルド、アリアのS級冒険者、A級のレイナ、エリオット、B級のカイ、メイが所属します」
アルファチームのメンバーも前に進み出た。ヴァルドとアリアの名前に、観客席からは大きな拍手が沸き起こる。
二つのチームが向かい合って立つ様子は、まさに壮観だった。S級冒険者たちの威圧的な雰囲気が、会場全体を包み込む。
「各チーム、作戦会議の時間を設けます。30分後、大演習場にて対戦を開始します」
進行役の声を合図に、両チームは別々の控室へと移動していった。
プライマチームの控室内は、緊張感に満ちていた。サラリバンが中心に立ち、メンバーたちを見回す。
「諸君、我々の戦略を練る時間だ。まずは各自の能力を把握しよう」
サラリバンの落ち着いた声が、部屋に響く。彼の物腰には、長年の経験から来る自信が溢れている。
「私はグランドクロスの剣術を得意とする。広い範囲を一気に制圧できる技だ。ガイウス、君の能力は?」
ガイウスは腕を組み、深く考え込むような仕草を見せた。
「私は『不動の盾』と呼ばれる防御特化の戦士だ。敵の攻撃を受け止め、仲間を守ることができる」
サラリバンは満足げに頷いた。
「マーカス、エレナ。A級の二人はどうだ?」
マーカスが一歩前に出る。
「私は地形操作の魔法を得意としています。戦場を有利に変えることができます」
エレナも続いて説明を始めた。
「私は回復と強化の魔法が専門です。味方のサポートに回ります」
サラリバンは再び頷き、最後にB級の二人に目を向けた。
「トム、リサ。君たちの能力は?」
トムが少し緊張した様子で答える。
「私は索敵と罠設置が得意です。敵の動きを事前に察知できます」
リサも控えめに、しかし自信を持った口調で答えた。
「私は幻影魔法を使えます。敵を惑わすことができます」
サラリバンは全員の能力を聞き終えると、しばし考え込んだ。そして、決意を固めたかのように口を開いた。
「よし、我々の戦略はこうだ。基本的には守りを固め、敵の動きを見極める。マーカスの地形操作で陣地を作り、ガイウスを中心に防衛線を張る。エレナは後方から全体のサポートに回ってくれ」
メンバーたちは真剣な表情で頷いている。
「トムとリサは、索敵と幻影でフラッグを守る。フラッグの予想外の動きにも対応できるはずだ。そして私が、状況に応じて攻守の采配を振るう」
サラリバンの説明に、全員が納得した様子で頷いた。
「ただし、相手はヴァルドとアリアだ。油断は禁物だ。常に柔軟な対応を心がけよう」
チームメンバーの目に、決意の色が宿る。プライマチームの作戦会議は、整然と、そして効率的に進められていった。
一方、アルファチームの控室では、異なる雰囲気が漂っていた。
ヴァルドが大きな声で笑う。
「ふっ、作戦だと? 俺たちに必要なのは、ただ力だけだ」
「ヴァルド、軽く見すぎじゃないかしら。相手はサラリバンよ」
「サラリバンがどうだろうと、俺たちは全力で叩き潰すだけだ。防衛線など張らず、一気に敵陣に攻め込む」
「でも、それじゃあフラッグの守りが……」
レイナが不安そうに口を開く。ヴァルドは彼女を一瞥し、強引に言い放つ。
「フラッグが動くなら、我々も常に動き続ければいい。それが最善の策だ」
アリアは仕方なさそうにため息をついた。
「分かったわ。全力で行きましょう。ただし、作戦の柔軟性は忘れないで」
アルファチームのメンバーは、互いに目を見合わせ、力強く頷いた。
時間が経ち、いよいよ戦いの時が迫る。両チームはそれぞれの作戦を胸に、大演習場へと向かっていった。
大演習場は、想像を遥かに超える規模だった。広大な平原、深い森、小さな丘陵地帯、そして中央には小川まで流れている。まるで自然のままの環境を切り取ってきたかのような、壮大な戦場が広がっていた。
両チームは演習場の両端にそれぞれ配置された。審判が中央に立ち、最後の説明を行う。
「それでは、チーム戦を開始します。各チームのフラッグは、今この瞬間にランダムな場所に出現します。フラッグを見つけ、守り抜いてください」
審判の言葉が終わるや否や、空中に二つの光点が現れ、瞬時に消えた。フラッグが出現したのだ。
「それでは、試合開始!」
審判の声と共に、大きな鐘の音が鳴り響いた。チーム戦の幕が上がった。
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