初期構想の構築
朝もやが立ち込めるブレイクウォーター領の農地で、俺とリサは最後の調整を行っていた。周囲には、エリザベス領主をはじめ、地元の農民代表や農業技術者たちが集まっている。彼らの表情には、期待と不安が入り混じっていた。
「これで準備完了です」
リサが最後の機器の設置を終え、俺に報告してきた。俺は頷き、集まった人々に向き直る。
「では、システムの説明をさせていただきます。このシステムは、魔相の根を核として利用しています。魔相の根には、周囲の魔力を感知し、その性質を判別する能力があります。これを利用して、土壌中の有害な魔力を検出し、浄化していきます」
俺は手元の制御装置を指さしながら、説明を続けた。
「しかし、一つの装置だけでは広大な農地全体をカバーすることはできません。そこで、このようなネットワークシステムを構築しました」
俺は地面に描かれた図を示した。そこには、複数の小型装置が互いに繋がり合う様子が描かれている。
「これらの装置が連携して動作することで、広範囲にわたる魔力の浄化と土壌改善が可能になります。各装置は独立して動作しつつも、中央制御装置を介して情報を共有し、効率的に作業を行います」
農民たちの中から、驚きの声が上がった。彼らにとって、こうした高度な魔導技術は目新しいものだったのだろう。
「それでは、システムを起動します」
俺が中央制御装置のスイッチを入れると、周囲に設置された小型装置が次々と光り始めた。かすかな振動と共に、魔力の流れが感じられる。
数日間、継続的にシステムの効果を観察した。土壌サンプルを採取し、魔力濃度を測定する。日を追うごとに、数値は改善されていった。
「見てください、この小麦の色の変りよう」
農業技術者の一人が、歓喜の声を上げた。テストフィールドの作物は、周囲と比べて明らかに生き生きとしていた。葉の色は鮮やかで、茎はしっかりと立っている。
俺とリサは、各装置から送られてくるデータを細かく分析していた。
「この地点の魔力濃度が他より高いようですね」
リサが指摘すると、俺は頷いて応じる。
「ああ、おそらくこの付近の地形の影響だろう。この装置の出力を少し上げてみよう」
二人は協力して、システム全体の最適化を図っていく。地域ごとの土壌の特性に応じて、個々の装置の設定を微調整していった。
作業を見守っていた地元の技術者たちが、興味深そうに近づいてきた。
「すごいシステムですね。私たちにも扱えるようになるのでしょうか?」
「もちろんです。長期的には皆さんに運用を任せたいと思っています。ここで基本的な操作方法をお教えしましょう」
俺は丁寧に、システムの各部の機能と操作方法を説明していく。技術者たちは熱心にメモを取りながら、時折質問を投げかけた。
更に数日後、初期テストの結果を受けて、エリザベスが俺たちの元を訪れた。この頃には、ガレスとミアも手伝いに来ており、作業の効率が大幅に上がっていた。
「素晴らしい成果です、ロアン殿。このシステムを領内全体に展開できないでしょうか?」
ロアンは真剣な表情で応じる。
「可能だと思います。ただし、いくつか考慮すべき点があります」
彼は地図を広げ、説明を始めた。ガレスとミアも側で耳を傾けている。
「ブレイクウォーター領全体を見ると、地形や土壌の性質が場所によって大きく異なります。山間部と平野部では、魔力の濃度や流れ方が違います。また、河川の影響を受ける地域もあります」
エリザベスは頷きながら聞いている。
「これらの差異に対応するには、より柔軟なシステム設計が必要になります。具体的には、地域の特性に応じて自動調整できるアルゴリズムを開発しようと考えています」
リサが補足する。
「このアルゴリズムを組み込むことで、ネットワークシステム全体の適応性が大幅に向上します。地域ごとの微妙な違いにも対応できるようになるはずです」
エリザベスの目が輝いた。
「素晴らしい。是非その構想を形にしてください」
俺たちは顔を見合わせ、頷いた。彼らは早速、新たな仕組みの開発に取り掛かった。ガレスの素材知識とミアの魔力感知能力が、開発の大きな助けとなった。昼夜を問わず作業を続け、数日後には初期段階の構想が完成した。
エリザベスに提出された計画書を見て、彼女は満足げに微笑んだ。
「これなら、領内全体の土壌改善が実現できそうですね。本格的な実装に向けて、すぐに準備を進めましょう」
初期の目標は達成できたが、まだ課題は残っている。より広範囲に適用するには、さらに高度な魔力制御技術が必要になるだろう。また、このシステムが他の領地でも使えるのか、検討の余地がある。
これらの課題に、どう取り組んでいくべきか。しかし、その思考は突然の通知によって中断された。リサが手紙を持ってきたのだ。
「ロアンさん、国家魔導具管理局からの連絡です。S級対抗戦の準備のため、早急に中心部に戻るよう求められています」
俺はため息をつきながら頷いた。
「わかった。エリザベス様、申し訳ありませんが、しばらく中座させていただきます」
エリザベスは理解を示す表情で応じた。
「ええ、わかっています。国家的な事業ですからね。ここでの成果を活かして、素晴らしい装備を作ってください」
俺は感謝の言葉を述べ、急ぎ荷物をまとめ始めた。この地で見つけた新たな結晶。そして、ネットワーク構築の構想に至るまでの過程で新たに手にした感覚。S級対抗戦という未知の舞台で、俺のクラフトスキルはどこまで通用するのか。そんな期待と不安を胸に、俺は中心部への旅立ちの準備を整えていった。
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