新素材の活用

 不気味な唸り声の主は、少し先を進んだ小部屋に潜んでいた。ここを通らなければ先に進むことができない。意を決して足を踏み込むと、まさかのただ広いだけの空っぽの部屋だった。


 かと、思ったそのとき、全く予知しなかった方向から、巨大な蟲のような姿をした魔物が空中を泳ぐように近づいてきたのだった。


「あれは……ミラージュワーム!」


 ミアの声に、俺とシルヴィは驚いて振り向いた。


「どんな特性だ!?」

「んーなんか倒しづらいやつよ!」

「くっそわからん──」


 真っ直ぐな目でそう言うミアの表情に俺は困惑する。しかし、考えている暇はなかった。ミラージュワームの体が光を放つと、俺たちの周りに無数の幻影が現れた。それぞれが本物そっくりのミラージュワームだ。


「くっ、どれが本物だ?」


 俺はミミックブレードを構えたが、攻撃のタイミングを計れない。シルヴィも困惑した様子で、魔法の詠唱を躊躇っている。


 それと同時に、足元の地面が揺れ、まるで重力が変動しているかのような感覚に襲われたのだ。


「何──!?」


 シルヴィも驚いていた。体が宙に浮いていたのだ。俺もミアも同じだった。まるで水中にいるような感覚で、体の向きを制御するのも難しい。そんな中でミラージュワームの尾が振り回され、俺たちはそれぞれに壁まで飛ばされた。


 ミアは素の体で受け止め、俺は防具の魔法障壁に頼り、シルヴィはそれを自前で展開する。ダメージは甚大に至るほどではないが、そう何度も受け続けられない。しかし、近づけばまた体を浮かされる。しかも、厄介なことに魔法攻撃が効かない。確実に本体だと判断しての攻撃も、スルリと抜けてしまう。単に攻撃をするだけではダメだった。


「こんなの、どうやって戦えばいいんだ」


 ミアが敵の注意を引き付けているうちに考える。低ランクなら高位の武器で無双できるのに、B級の上位を超え始めると脳筋戦略では勝てなくなってくる。俺の特殊装備が、もっと柔軟性を持っていたら。


「あっ──!」


 壁を蹴って幻影をとにかくパワーで殴りまくっていたミアの攻撃に、ミラージュワームが悲鳴を上げて消えた。そして、攻撃の届かない上部から現れたその姿には、一部が結晶化しているのが見えた。指輪をつけた手の攻撃が掠ったのだ。


「さっきのクリスタルが使えるのか……!」


 なら、ミアへの装備を増やせば、押し切ることができそうだ。俺はすぐさまクラフトの準備をする。新しく獲得した量産スキルを使えば、この場でも作り出せる。


「うげっちょっと……!」


 ミアが混乱している。再度の幻影を展開したその数は、倍以上になっていた。これではこちらが消耗させられる。


「皆、部屋の端に下がれ!」


 こうなったら仕方ない。素材を使い切るぐらいで戦わなければ。俺はクリスタルキマイラの素材を武器として、弾丸へと変換していく。『ハイマテリアル』『コピーメイク』『ロットメイク』『クオリティコントロール』などのスキルをひたすら駆使し、質を保ちつつも数優先で量産した。


「シルヴィ、これを使え……!」


 一斉に俺たちに迫ってきたミラージュワームに対して、シルヴィはレベル2広域風属性攻撃魔法『トルネード』を放つ。魔法攻撃そのものは無視されたが、俺が含ませたクリスタルの弾丸が本体に刺さり続け、やがて限界を超えたミラージュワームは空中から落ちてきた。


「やった!」


 三人で息を合わせ、ミラージュワームを倒した。戦いが終わると、周囲の空間の歪みも元に戻った。俺たちは疲れを感じながらも、安堵の表情を浮かべる。


「みんな、大丈夫か?」


 俺の問いかけに、二人は頷いた。そして、俺はミラージュワームから素材を採取する。これらの素材を使えば、防御面でさらなる安全性を高めた防具が作れるはずだ。


 そして、休憩を挟みながら素材の加工を済ませてさらに先に進むと、俺たちは天井を見上げられないほどの大きな部屋に着いた。巨大な石柱や、不思議な文様が刻まれた壁。そして、中央にはこれまた誰が座るのかもわからないような巨大な椅子が置かれている。


「ここ、さっき言ってた、誰かと話した場所に似てる」


 俺たちは息を呑んで、ミアの言葉に耳を傾けた。


「巨大な結晶の間で、誰かと話をしていたの。その人は……とても強大な力を持っていて」

「そんな巨大な結晶は、この部屋には見当たらないけどな。その相手って、誰なんだ? 魔王か?」


 俺の問いに、ミアは首を傾げた。まさかとは思うが、自分は魔王の娘だとか言うんじゃないだろうな。さすがに俺でも庇い切れないぞ。


「わからない。でも、何か大切な使命を託されたような……」


 ミアの言葉が途切れたそのとき、背後から足音が聞こえてきた。誰かが近づいてくる。


「誰だ!?」


 これまでの不気味な唸り声とは違い、それは間違いなく、靴を履いた生物が床を踏む音だったのだ。



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