ダンジョンへの挑戦

 ダンジョンの中は薄暗く、湿った空気が肌を包む。かすかに魔力を帯びた風が、俺たちの頬を撫でていく。

 無機質な岩の道ではなく、苔や蔦の茂った自然の様相があった。S級ともなると魔界そのものみたいな場所に飛ばされるダンジョンにおいて、より外世界の要素が含まれている空間であるほど、高ランクと判断ができる。まずもってD級上位かC級のダンジョンであることは間違いない。


 俺は愛剣『ミミックブレード』を手に取り、警戒しながら進んだ。数歩進み、俺は立ち止まる。思ったよりぬかるみが酷い。最初は直進することしかできなさそうな道だったが、少し先はもう開けた空間になっていた。周囲の空気の流れ、床の質感、壁の様子……全てが情報だ。


「ここで準備をしよう。先に進む前に、いくつか装備を最適化しておく」


 俺はクラフトスキルを駆使し、ダンジョン攻略を楽にするアイテムを作り始めた。ダンジョンテーラリングスキル『ダンジョンストラテジスト』を使い、この環境に最適な装備を素早く作り上げる。

 指先から魔力が流れ出し、地面や壁に複雑な模様を描いていく。それらの情報を吸収し、出来上がったアイテムを、今度は特殊能力付与スキル『ギアメイカー』によって、手持ちの装備に付与していった。


 不安定な足場でも素早く動ける靴と、欠けないように硬質化を特化させた刃。このダンジョンには、こうした機構が合うようだ。防具面に関してはシルヴィにも付与しておく。彼女は魔法使いなので、攻撃面は彼女自身で何とかするだろう。……というより、俺もこれがC級ぐらいのダンジョンなら手助けは不要なので、後ろでニコニコしているだけにしておいてほしい。


「用意周到だね」

「習慣というか、ルーティンというか。俺はもしものときに自力での解決が難しいこともある」

「私より腕の力弱いもんね。素で」

「言わないでマジでそれ」


 なんだかんだとお喋りをしながら準備を整えた俺たちは、ダンジョンの奥へと進んでいった。ダンジョンの壁には不思議な模様が刻まれ、時折奇妙な音が響く。青みがかった結晶が壁に埋め込まれ、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「きれい……」


 シルヴィが小さく呟いた。


「油断するなよ。シルヴィは何でも触るから」


 俺の言葉通り、美しい結晶の近くには毒を吐く植物が生えていた。シルヴィは支援魔法も使えるが戦闘特化なので、注意深く避けながら進む必要があった。


 突然、前方から唸り声が聞こえた。俺とシルヴィは身構えた。


「来るぞ」


 俺は剣を構えた。暗がりから現れたのは、大きな翼を持つ石像の魔物、ガーゴイルだった。体長は優に3メートルを超え、その翼は金属のように光っている。俺は冷静に状況を分析し、『ミミックブレード』を振りかざした。


 剣が青白い光を放ち、俺の体が魔力に包まれる。倒した魔物の能力を一時的に引き出し、戦いに挑む。体が軽くなり、視界が鮮明になる感覚。懐かしくもあり、新鮮でもある。


 戦いが始まった瞬間、俺の動きは一変した。特殊装備で補われた実力で魔物に立ち向かう。シルヴィは地面でウネウネしている木の根を燃やして遊んでいる。


 ガーゴイルが大きな翼を広げ、突進してきた。俺は瞬時に身をかわし、その隙を突いて斬りかかる。


 特性の引き出しにより、振る速度に応じて重くなる剣と、石の肌をしたガーゴイルの、激しく打つかる音が鋭くダンジョンに反響する。かつて倒したメタルバットの重い体当たりと同じ強力な一撃がこれが決定打となり、ガーゴイルは大きな唸り声を上げて崩れ落ちた。


 戦いが終わると、俺は素早く魔物の体から素材を採取し始めた。レベル2素材活用スキル『ハイマテリアル』を使い、効率よく有用な部位と魔石を抽出していく。魔物の原動力は魔石であり、より人に人間に近い姿をした魔族は、心臓が魔石の代わりになっている。魔法使いの才能がある人間も、これと似た原理で魔力を体内に溜め込むらしい。


「今の音で他の魔物も寄ってくるかもね。全部素材にしていくの?」

「ああ。特性が消えるまでにできるだけ多く倒しておきたい。雑魚だけがいるときの殲滅だけ頼めるか?」


 シルヴィは頷いてくれて、トラップに気をつけながらも探索を急いだ。素材として有用そうな敵は俺が倒し、それ以外はシルヴィに任せて先を進んでいく。


 敵の手応えからして、上層を探索する限りではまだB級らしい要素は見えない。ただし、油断は禁物だ。ランクの高いダンジョンはとにかく階層が深い。想像以上の規模であれば一度は引き返そう。ダンジョンの入り口を隠蔽するための仕掛けも、考えておかないとな。


「素材でカバンがいっぱいになってきた。一度、クラフトさせてくれ」

「いいよ。私が見張りをしておくから、安心して作業して」


 ニコッとして長い黄金の髪を揺らす。シルヴィは俺が渡した携帯食料を咥えながら、一歩で届く範囲の周辺を探りにいった。



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