ダウジング・ダンジョン

 街の喧騒が遠ざかるにつれ、周囲の風景が徐々に変化していく。舗装された道は砂利道へと変わり、やがて草原へと続いていった。


 しばらく歩くと、遠くに小さな丘が見えてきた。


「あの丘の向こうのあたりだよ。はっきり何か感じてきた」


 丘を登りきると、眼下に広がる景色が見えた。なだらかな草原の先に、不自然な形をした岩の塊が見える。周囲の風景から浮いているような、人工的な印象を受ける岩だった。表面には不規則な模様が刻まれ、自然の浸食とは明らかに異なる様相を呈している。


 ただ、何故だろう。そこに近づくまでは何の違和感もなかったし、もっと言うならば、そこにダンジョンがあるはずだと思って目を向けたときに初めてその不自然さに気づいた気がする。そして、岩のすぐ前までやってくると、ようやくブレスレットが強い反応を返してきた。


「高ランクのダンジョンであることを願うよ」

「S級だったらヤバいね」

「それは死ねるな」


 ブレスレットの反応は確かに強かったが、それがどの程度のランクを示すのかは、実際にダンジョンに入って確認するまでは判断できない。


 ダンジョンの難易度は、低階層のモンスターの強さや、出現するアイテム、魔石の大きさなどで判断される。だから、一般人にできないそれをやるから組合に需要が生まれている。


 C級のダンジョンであれば、C級の冒険者5人程度で安定して最奥部まで到達できる難易度ということ。一つ上のランクの冒険者なら、戦闘自体は単身でもこなせるだろう。ただし、ダンジョンにはトラップや特殊能力を持つモンスターがいるため、たとえB級の冒険者であってもC級ダンジョンを一人で踏破することは難しい。


 そして、B級以上のダンジョンになると、トラップがより高度になり、ダンジョンそのものが意思を持っているかのような仕掛けも出てくる。そのため、上級の冒険者であっても油断はできない。


 ダンジョンの入り口を前に、俺たちは静かに立ち尽くした。夕日が地平線に沈みかけ、辺りは薄暗くなり始めていた。長い影が草原に伸び、風が冷たくなってきている。


「行ってみますか。二階層あたりまで探って、C級なら奥まで進んで、B級っぽかったら……少し時間をかけて進む。場合によっては準備に戻るかもしれない」

「ダンジョンデザイン次第ってことだね。ロアンは準備も時間がかかるだろうし、私はどっちでもいいよ」


 シルヴィは「今暇だし」と自虐っぽく付け加えた。


「俺のことをよくわかっててもらえて嬉しいよ」


 俺の素の能力はC級を少し上回る程度だ。最悪のことも考えて、武具やアイテムはできるだけ揃えておかないとな。俺の装備は武器も防具も特A級並み。しかし、それは魔物の力を装填することにより強化された場合の話であって、強力な魔物がいなくなった今、いたずらに魔力や特性を失うわけにはいかない。安全と効率を最優先に考えないと、この先のどこかで困ることになる気がする。


「久しぶりのダンジョンだな」


 俺はわずかに見える岩肌の裂け目に指を入れ、破り開けるようにしてダンジョンの入り口に飛んだ。

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