ダンジョンの探索

 クラフトを整えた俺たちは、さらに奥へと進んでいった。ダンジョンの壁に刻まれた模様が光り輝いていて、その分だけ元々のダンジョン内の明るさが減っている。


 突然、前方から唸り声が聞こえた。暗がりから姿を現したのは、体の半分が骨になっている蜘蛛の魔物だった。その体長は優に3メートルを超え、8本の太い脚には鋭い爪が生えていた。漆黒の腹部には、不気味な紋様が浮かび上がっている。複眼は赤く輝き、大顎からは毒々しい液体が滴り落ちていた。自らの体もその粘液で溶かしてしまったのではないかと思うほど禍々しい液体を吐いている。


 その魔物の名は『ヴェノムスパイダー』。C級のモンスターではあるがかなり強い部類に入る。魔物の動きを観察し、その弱点を探った。モンスターの種類は同じでも個体差があり油断ならない。俺はゆっくりと剣を構え、魔物を刺激しないようにすり足で距離を測る。


 しかし、突如予期せぬタイミングで、ヴェノムスパイダーが毒をまとった糸を吐き出してきた。何か、光るものに反応したらしい。俺の、後ろ側にある、もっと言えばシルヴィが持っていた、杖の宝石の反射に対してだった。

 俺は被害を最小限にする回避先と防具の耐久性と同時に思考し、最善の動きを脳内で導き出す。


「ロアン、邪魔」


 シルヴィの声が俺の耳に届くのとほぼ同時に、毒液ごと吹き飛ばす鮮烈な火の槍が魔物を襲った。眩い光と轟音と共に、ヴェノムスパイダーは炎に包まれて消えた。


 俺は少し顔を引きつらせた。


「おい、シルヴィ……こいつは結構なレアモンスターなんだけど」

「あ……ごめんね」


 シルヴィは自分のやったことに気づき、照れ臭そうに笑った。


「つい力が入っちゃった。でも、気持ち悪い蜘蛛が消えてくれて良かったね」


 悪びれる様子もなくそう言った。まあ、シルヴィは多足生物が嫌いなので、今回ばかりは仕方ない。ダンジョンとの相性が悪かった。


「ああいや、俺もトロくて申し訳ない。燃やすと素材が取れないから、俺に支援魔法をかけるようにしてくれないか」

「うん、分かった」


 シルヴィは少し恥ずかしそうに頷いた。


「これからは気をつけるね」


 シルヴィはしっとりとした上目遣いでこ俺を見つめてきた。こんな女に男としての何かが反応することは絶対に認めない。


 そうして俺たちはなんやかんややりながら、先に進んだ。周囲を警戒しながら、効率的に探索を進めていく。俺の装備品がチャージ式である以上、雑魚相手であっても無駄な行動は避けるべきなのだ。


 途中、床に仕掛けられた罠を発見。俺は罠探知のアクセサリーが反応するのを感じた。

 俺は慎重に近づき、罠の仕組みを観察した。この罠は、踏むと床が抜けて下の階に落ちる仕掛けだった。しかし、単に下の階に落ちるだけではなく、その先には更に危険なトラップが待ち構えている。安易に下層に降りる選択肢に含めてはならない。


 トラップといっても、冒険者が仕掛けたのでないものは、ほとんど生き物に近い。ダンジョンの意思によって生み出された魔物の一つのようなもので、そうした仕掛けには魔力の流れを止めるピックを打ち込むのが鉄則だ。


 ダンジョンテーラリングスキル『ダンジョンストラテジスト』を使ってアイテムに情報を流し込むと、罠の仕組みを解析し、安全に解除するための道具へと変貌する。中級ダンジョンなんかはこんなものだが、上級ダンジョンともなるとトラップを踏んだ瞬間に全空間が隙間なく水で満たされるなんてこともあり、対策なしだと死ぬしかないことになる。


 数階層を下った後、俺はまた立ち止まった。素材の整理が必要になっていた。『ポータブル鍛冶台』を取り出し、クラフトを始めた。次元の指輪は生物を転送することはできない。モンスターを倒して採取した素材であっても、アイテムとして処理しなければ送れないのだ。


「シルヴィ……そろそろ、このあたりで一眠りしないか」


 素材を集めながらなので思っていたより進みが悪い。仮にC級ダンジョンなら、今の俺たちの実力なら3日もかからず踏破できるはずだったのだが。丸二日近くをかけて進んできたここは、雰囲気的にまだ中腹にさえ来ていない様子だった。


「賛成。ご飯食べて寝よ。私も携帯食料ばっかりで飽きちゃった」


 勢いというか、流れでここまでやってきてしまったけど、少し長い探索になりそうだ。物件の問題もあるし、途中で帰ることも考えないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る