第9話 僕の声は僕にしか聞こえなかった。
「久しぶり」
「お久しぶりです。良太先輩」
俺、三木良太は部活の休憩中にバスケ部のマネージャー体験として来ていた西野朱里のもとに行った。
「よくおれのこと覚えていたな」
「あんな出会いしたんですから忘れられませんよ?」
「俺が中3の時だから2年も前のことだけどな」
「まだ2年ですよ?」
「というか君、バスケ部のマネージャー志望なんだ」
「先輩のマネージャーしたかったので?」
西野は小悪魔のような笑みを浮かべる。
「いや、君は」
君は吹奏楽をしないの?と聞こうとしたところで俺はとどまった。
あそこまで必死にやっていた吹奏楽をやめてバスケ部のマネージャーをしようとしている。
なにかやめなければならなかった、続けることができなかった理由があるのは明白。
「ごめん、なんでもない。で、君は本当はなぜバスケ部に?」
「先輩のマネージャーをするためですよ?あと、君じゃないです!西野朱里です!朱里って呼んでください?良太先輩」
「まあ、そういうことにしとくね。朱里ちゃん」
「はい!」
本当にそうかもしれないし違うかもしれない。
そんなこと俺にはわからないし、たった一回中学の時話した俺には聞く権利もない。
だから、
「朱里ちゃん、先輩を頼るんだよ?」
「はい!!」
あのことよりすこし成長したその女の子は俺にはすこしまぶしすぎた。
――――――――――――
「で、君はいつ帰るの?」
俺、南波あきの目の前にいる女の子はなにもしゃべらない。
はぁ……めんどくさいんだか?
「風香はいつかえるの?」
「えー先輩が帰るなら帰りますよ?」
「俺はもうすこし居る」
「じゃあ私もいますね」
そう言ってまた俺たちは本を読み始める。
30分?1時間?ほどたっただろうか。窓の外がすこし暗い。
まだ下校時間ではないが校内の生徒はだいぶ少なくなっている気がする。
「なあ」
「はい?」
「友達いないの?」
「せ、先輩!」
「あ、図星」
「その容姿ならすぐできると思うけどなぁ」
「いつもは顔髪の毛でほぼ隠してますし眼鏡もしてますもん」
「まあ、そうか」
「かわいい後輩とられますよ?」
「うぬぼれんな」
「きゃーこわいですぅ」
風香のこの容姿なら人は集まってくるだろう。
ただ風香の容姿を求めて。
でも……
「そんなことはさせないから安心しろ」
「せ、……」
「ん?」
「急にびっくりさせないでください」
なんだよそれかわいな。
「せ、先輩、外の空気吸いに行きますよ!」
「お、おい!急に手を引っ張るな」
「いいからいきますよ」
「は、はい……」
俺先輩なんだけどなぁ。
――――――――――――――
「頑張れ、唯ちゃん」
僕、寺下太一は自転車を押しながらテニスコートをゆっくりと横切る。
テニスコートは駐輪場と真逆だし正直家にはと周りだけどそれでも僕はこの道を通る。
良太くんやあきくんのようにかっこよくも、なにかできるわけでもないけど僕は君を応援してます。
「おーい、太一~!!」
唯ちゃんが僕をみつけて手を振ってくれる。
僕は小さく振り返す。
「じゃーねーまた明日だよ!太一~」
太陽のような唯ちゃんの笑顔にすこし目を細めながら、たとえあなたが僕を見てなくても僕は君の見てるから。
頑張ってね、また明日
僕の声は僕にしか聞こえなかった。
あの子を好きな君に恋をしてしまった。 @himenoaki
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