第3話 変態先輩と自意識過剰後輩
いつめんと昼ご飯を食べ終わり俺、南波あきは一人教室にいた。
良太、唯、紗耶香は部活の集まりらしいし太一は先生によばれて行ってしまった。
「暇だなぁ」
教室に居ても暇だし購買や食堂付近は人が多いので人が少ない本館の方に歩く。
本館というのは校舎の1つだが教室はない。事務室や面談室や職員室などがあるところだ。
うちのクラスは一部のがレベル別になっていてトップのクラスは本館の小さい部屋で行われたりもする。
今は昼休み、たまにすれ違うのは教師しかいない。
節電らしいが明るい間は本館廊下の電気は消してあることもあり、よりその静けさが際立つ。
俺は3階まであがり目的の場所、図書室の扉を開く。
ガラガラ
「こんにちは」
いつものおばちゃんが優しい笑顔を向けてくれたので俺もすこしだけ声のトーンを上げて、
「こんにちは。また来ました」
「来てくれてうれしいわ。昼休みなんて試験中以外ほとんど誰も来ないから」
「ですよね。でも、静かで好きですよ」
「よかったわ。ゆっくりして言ってちょうだい」
「はい。ありがとうございます」
「あ、でも今南波くんの定位置あいてないかも……」
「え?」
俺の定位置は図書室の隅の壁だ。そんなところほとんど誰もつかわない。
「まあ、今もいるだろうし直接話してみたら?」
「は、はぁ」
とりあえず俺はいつもの場所に向かう。
小説コーナーを曲がりいつもの定位置をみると……
「だれもいない?」
誰もいない。おばちゃんの話では誰かいるらしいんだが帰ったのだろうか。
いや、そういえば靴棚に1つだけあったような気もする。
いや、まさか……
俺は1つの考えが浮かび奥へ進むと、
「ふんふんふーん」
小さな鼻歌が聞こえてきた。
おいおい嘘だろ。
図書館の一番奥の棚だけなぜか短く、柱と棚に1人分のスペースがある。
そこにいた。いや、そんなことはどうでもいい。
その俺の定位置にいる子が……
めっちゃかわいいいいいいい
いや、え?可愛すぎない?いやね、紗耶香も唯もかわいい方だとは思うんけどそれを超えている。
まあ、個人の趣味だとは思うんだけど俺のめっちゃタイプ。
黒髪ポニーテールのすこし身長は低め。まじタイプ!!
「あの、いつまで人の鼻歌きいてるんですか? 変態ですか?」
「え?」
俺は急に声を掛けられ、いや後ろの言葉の方に驚いて固まる。
いま、変態っていった?え、この子初めましてだよね?
本棚と柱の間に座っていたその女の子は立ち上がって俺の方を見つめてくる。
「変態さん、何か私にようですか?」
面と向かって初対面の人に変態と言われるとさすがに腹立つんですが?
いや、美少女に言われるのはご褒美……?
だめだ、ここはガツンと言ってやろう。
「自意識過剰女さん、初めまして。どこかであったかな?」
「さあ、会いましたかね?」
こいつむかつくな!
かわいいけど!
「で、なにか私に用事ですか?」
「いや、用事とかじゃなくて君が座ってる積俺の定位置」
「ここ、ですか?」
美少女は自分の座っていた場所に目線を下ろす。
「そうそこ。俺の定位置」
「そうなんですかぁ。知りませんでした。でも、今日から私の定位置ですね」
「はぁ!?そこ俺の場所なんだけど??」
「先輩、列に割り込んできてここ俺並んでたしとかい言うタイプでしょ」
「言わねえよ!? というか席使えよ!?」
「いいじゃないですかどこ座っても! 狭いところが落ち着くんですよ」
「みために似合わず根暗?」
「根暗ですよー根暗で悪かったですね」
「ごめ、ごめんごめん」
笑いが吹き出してしまう。
「先輩笑うな!?」
「ごめんって。ってか上履き脱いでるのに年上ってよくわかったね」
俺が聞いた瞬間、女の子の顔がびくっとした。
「え、えっと……勘ですかね……?」
「勘ね」
絶対違うと思うけどまあ、そういうことにしとこうかな。
「ねえ、君さ昼休みここに居るの?」
「え、いや、今日学校初日なのでわからないですけど……。入学前の学校探検でここしって気に入ったので……」
「そっかー。まあ、おれよく昼休みとか放課後いるから来なよ」
「は、はい!あ、でもここはもう私の定位置ですよ?」
「はいはい。お邪魔するよ」
キーンコーンカーンコーン
昼休み修了5分前のチャイムが鳴る。
「じゃあ、私クラスに戻りますね」
「うん。じゃあね」
その美少女が図書室を出た後、俺はあることに気づいた。
「あ、名前聞いてねぇ」
ただ、なんかしゃべったことある気がするんだよなぁ。
――――――――――――――――
ガラガラ
図書室のドアを閉めた後私は薄暗い廊下をゆっくりと歩く。
「はぁ。絶対先輩私って気づいてないよね……」
気づくはずがない。そんなの知ってる。
でも、期待しちゃった。
気づいてほしかった。
私は目線を隠すような大きな眼鏡をかけてポニーテールをほどいて長い髪でできるだけ自分の顔に光が当たらないようにする。
すこしの喜びと溢れ出す寂しさと悲しみを胸に閉じ込めながら。
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