第2話 私の友達

 満開というにはすこし遅かったさくらを横目に私、水瀬紗耶香は自転車を押していた。

 新入生たちはあたりをきょきょろして2年生3年生は久しぶりの友達に笑顔を咲かせている。

 朝礼にはまだ時間があるので自転車を置いて焦らず教室に向かう。


 「おはよう、紗耶香」

 

 校舎の入り口で不意に声を掛けられ体がかたまった。


 「ごめん、驚かした?」


 心配そうな顔をして私を覗き込んだのは三木良太、いつメンの一人だ。


 「んーん。おはよ」

 

 それだけ言って良太と私は校舎に入る。

 良太と私はお互い口数が多い方ではないからか二人になると無言の時間が多くなる。

 でも、嫌いじゃない。


 私と良太が教室に入ると数人の女子と目が合い、おはようと言われたので私も良太もおはようと返して黒板の座席表を見に行く。


 「お、ちゃんと唯もいるな」

 「当然でしょ。私たちがどれだけ勉強教えたか……」

 「唯、あんときは泣きながら勉強してたからなぁ」

 「うちの学校成績でクラス分けだからね。なんやかんや唯も一番上のクラスだし」

 「こんどほめてやらなきゃな」

 「適度にね」

 

 そんなことを言いつつ私は自分の座席を確認し、ついでに横の席も確認する

 南波あき

 私の席の横に書いてある名前。

 

 「よかった」


 無意識にそんな言葉が漏れた。

 小さい、本当に小さい声で。

 自分にも聞こえない声。

 

 「紗耶香? 顔こわばってるよ?」


 良太がまた私を心配な顔で覗き込む。


 「ん?席いこっか」

 「うん。だね」


 机に荷物をおろしてゆっくりと座る。

 昨日読んでいた本でも朝礼まで読もうと思い鞄に手を伸ばすと、


 「おっはよー!!」


 元気な声が教室中に響く。

 うん、いったん無視しよう。本読みたいし。


 「紗耶香、おっはよー!!」

 「おはよ。まず鞄置いてきな、唯」


 元気な声の持ち主、清水唯は、はーいといいながら鞄を席に置きに行く。


 「おはよう、紗耶香さん」

 「おはよ、太一」


 唯とは対照的におちついてかつ、すこしはずかしいような声の持ち主は寺下太一。

 たぶん入ってきたせいで恐らく誰も気づいていない。

 どんまいかな。


 「これでいつメン大体そろったな」

 

 自分の席休んでいた良太がすこし笑いながら言った。


 「大体ね」

 「あ、良太おっはー! もう一人たんないよ?」

 「紗耶香さんの隣がいないね」

 「こいつはまあもうそろそろ……。あぁあそこ」


 良太が窓の外の一人の男子生徒を指さす。


 「あき今日もちこくギリギリ~? ほんとに世話のかかる子供だよねー」

 「唯、君も同じだ」

「えーそんなことないよ!?ねえ、太一?」

「えぇ……えぇっと……」

「そこは否定してぇぇぇ」


 唯の天然と良太のツッコミとそれに付き合わされる太一。

 なんかいいかも。

 それに引き換え遅刻ギリギリ男って……。

 

 ガラガラ


 「間に合ったぁぁぁ」

 

 最後のいつメン、南波あきが教室に入り倒れこむ。

 ほんとにこの男はギリギリ以外で来ることができないんだろうか。

 いや、ギリギリでもきてくれるんだもんなこの人は。あの時からずっと。

 すこし高揚した気持ちを抑えて冷静な声で私は言った、

 

 「また寝坊したんでしょ。聞かなくてもしってる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る