第2話 掌編SF・『納豆』



 M710惑星帯は、通称が、「納豆星団」だった。


 発見された時の、天体写真が、たくさんの「納豆」がグジャグジャと糸を引いているように、なんだかそういうわりと「お下劣な?」ニュアンスに見えたかららしい。


 その後、「納豆星団」は、無数の小惑星が、複雑な相互作用と均衡を保ちつつ共存している、かなり特殊な存在形態の、ソーラーシステムであることがわかってきた。


 そうして、無数の小惑星は、一種のユニークな精神的昇華を遂げた”生命体”であることも明らかになってきた。「生きている星」?そうして”群棲”をなしている?


 そうすれば、その”納豆の群れ”は、たとえば卵かけのネギ納豆が、かき混ぜられているうちに美味しくなるように?なんらかのメタモルフォーゼを遂げてでもいるのだろうか?…新奇で複雑な相互作用の結果、いったいどういう進化とか革命を遂げて…現実にはどういう様相を呈しているのだろうか?


 「レムの『ソラリス』にも「生きている星」ていうアイデアはあったっけ。ユングも、空への、宇宙への救済願望の投影が”空飛ぶ円盤”現象だと言った。科学はもはや”堕ちた偶像”なんだろうか?諸刃の剣なのは確かだ。だから人間というのはひとつの病の隠喩なんだ。救われない罪業…」


 「納豆星団」の探索と、調査報告を任命された、「ディープパープル」号の女船長である糸引ハコは、黙想にふけっていた。「糸引きハッコ(発酵)」というのが昔のあだ名で、やはり納豆との縁の糸が切れないのかな?と苦笑した。


 「目標の星図座標に接近しつつあります。あと5分で遠隔同定と精細な調査、識別、その他の作業が可能になります」


 マイクでAIがしゃべった。船長といいつつ、乗組員はハコだけで、他にはすべてのアクションをコンピューター制御するためのシステムとそうした機械やアンドロイドの乗務員の作業チームがあるだけだった。


 「これが、「納豆星団」の再現映像です。今、合成可能になりました」


 涼やかな声とともに、前面のスクリーンがぱっと明るくなり、巨大な、鮮明な

映像が現れた。


<続く> 





 

 

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