七階のレストラン街では、十店舗ほどの食事処が営業している。その中からわたしたちが選んだのは、よく家族で来ていたレストラン「CASA」だった。


 店内は祖母の狙い通り、客足はまだまばらで、すんなりと席に案内された。座席に腰かけ、一息つく。店員さんがお冷とおしぼりを二つ持って来て置いた。


「何食べる?」

 おしぼりで軽く手を拭いた祖母は、さっそくメニュー表を開けている。「何でも好きなん頼みや」


 メニュー表の中には、数ページにわたって、オムライスにハンバーグ、スパゲッティー、デザートのパフェなど、見るだけでよだれが溢れ出しそうな料理の写真が掲載されている。優柔不断な性格のわたしは、レストランに来ると、いつもメニュー表としばらくにらめっこしてしまう。だが、今日はまだ手にとってすらいない。


 ——料理を決める前に、明らかにしておかなければならないことがあったから。


「なあ、おばあちゃん」

 わたしは背筋をまっすぐ伸ばし、祖母の顔を真剣なまなざしで見つめた。「いい加減、教えてや。何で、わたしを誘って西武に来たんかを」


 付き添いをお願いされて以来、その訳を祖母は一切教えてくれなかった。それどころか、「おじいちゃんとかには内緒やで」約束までつけ加えられたのだ。


 メニュー表から顔を上げ、わたしを見た祖母は、少し困ったような表情をした。だが、すぐに、

「そうやな。もうそろそろ言わんとあかんよな」

 微笑み、そっとメニュー表を閉じた。


「それで、おばあちゃんは、一体ここで何するつもりなん?」

 すかさず問いを投げかける。知りたいと思う気持ちが、絶頂に達していて、我慢できなかった。


「そんなたいそうなことやないで」

 と、祖母は照れ笑いを浮かべながら右手を横に振る。そして、一つ間を置いてから、意外な答えを口にした。


「プレゼント、よ」

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