第2話

「駿斗、ちょっと来なさい」

 年子の弟と最近買ってもらったゲームに興じているときに、母が言った。母の声色は尖っていて、何か怒られる前兆を察し、ゲームの画面を暗くしてテーブルに置いた。

「駿斗、学校でいろんな子にいたずらしてるって先生から聞いたけど本当?」

 駿斗は首を振った。思い当たる節がない。そもそもお母さんと先生はいつ喋ったのだろう。そういえば最近、家庭訪問で先生が家に来ていた気がする。

「本当のことを言いなさい。そしたら怒らないから」

「本当に何もしてないもん」

「いい加減にしなさい! 先生がね、『誰もいないところを指差してみんなを怖がらせてる』って教えてくれたんだから。何でそんな意地悪するの?」

「誰もいないところ?」駿斗は目の奥から涙がこみ上げてくるのを感じながら疑問が口に出た。

「そう。あんたいっつも教室の後ろを見たり指差して『あの子誰?』って言ってるらしいね。何でそんなことするの」

「だって、ずっと後ろに立ってる女の子がいるんだもん」

「お母さんにまでそんなこと言うの?」

「ほんとだよ。ほんとにほんとだよ」

「もういい! もうあんたとは喋りたくない! ゲームばっかするからそんな変なこと言うようになるんだ」

 母はその場の空気を一気に重たくするような声を張り上げた。駿斗の目にはみるみる涙が溜まっていき、ぼたぼたと滴が落ちた。

「なんで友達に嫌がらせするの? せっかく新しい友達ができたばっかだよね。友達は大切にしなさいって毎日言ってるよね? それなのにあんたは」

「本当に本当だもん」

「もういい。そんなに謝れないならゲーム取り上げる」

 母は覗いていた弟を素通りしてゲーム機を持ち上げ、そのまま鞄にしまった。駿斗と弟が母に縋っても何もしゃべってくれなかった。

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