あの子だれ?
佐々井 サイジ
第1話
先生の声が耳に入ってくるが文字が耳の穴に上手く入らずに零れていくようだった。駿斗はまた後ろを振り返った。駿斗より後ろに座る同級生が数人、彼を注目するが駿斗は教室の一番後ろ、ロッカーの前に立つ少女を確認した。
入学式の日、駿斗は同じ保育園上がりで仲の良かった友達が同じクラスにおらず、席で一人座っていたときに初めて少女を見た。そのときから少女は一人で教室の後ろに立っており、誰にも話しかけられる様子はなかった。自分と同じ状況だったからか駿斗は話しかけようと席を立った。しかし、結局そのまま自分の席に座り込んでしまった。少女は俯き加減で顔が見えず、肌が異様に白かったので話しかける勇気が出なかったのだ。
入学式から一ヶ月が経ち、ゴールデンウィークが明けるころには、席の近いクラスメイトが話しかけてくれ、休み時間も一緒に話せるようになった。対照的に少女はずっと教室の後ろで立ったままで誰にも話しかけてもらえていない様子だった。
あの子も僕と一緒なのかな。自分と一緒で仲の良い友達がおらず話しかける勇気がないのであれば、今度は僕が勇気を出す番なのではないか。駿斗は鼓動が大きくなっていることに気づいた。話しかけることに緊張していることもそうだが、真っ白な肌に長い前髪のせいで目が見えず、不気味な雰囲気が漂っていた。
「ね、ねえ」
駿斗は少女も横に立って声をかけたが、少女は全くの無反応だった。
「名前、なんていうの? 僕は峰岸駿斗。西保育園の子?」
駿斗は次々に質問を振ってみるが変わらず女の子は振り向こうとしない。そのうちチャイムが鳴って駿斗は自分の席に戻った。少女はチャイムの音にすら反応せずに突っ立ったままだった。
「ねえ、あの子、保育園にいた?」
席替えして隣の席になった蓮に話しかけた。
「だれのこと?」
「あの子だよ」
駿斗は廊下を見て先生がまだ来ないことを確認してから、少女を指差した。
「だれ指差してんの?」
「あの子だって、ほら」
駿斗は女の子を必死に指差すが、蓮は一向に女の子を見つけられない。
「どこ刺してんだよ。あっ先生来た」
連の言葉でとっさに腕を机の下にしまい込んだ。蓮には見えていないのだろうか。
駿斗は蓮だけでなく、同じ班の四人にも少女のことを聞いた。しかし、誰もその少女に焦点が合わず、しだいに駿斗はクラスメイトから奇異な目で見られるようになった。
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