page.12 白崎渚①
「あはよ怜」
「おー三日ぶりだな渚」
「そうだね。休み中は部活の遠征だったからゲームもしてなかったし」
「圧勝だったか?」
「もち。100点差だったよ」
「さすが渚。てか相手強豪校だったんだろ?」
「そうそう。全国常連のチームだけど隙が多かった。そこばっか狙ってたらスリーしか入らんかったよ」
「煽るなよ。案外青薔薇なめられてるから」
「なら煽る権利はあるよね? なめてた相手に負けるなんてね」
青薔薇学園の運動部は実力は知られていないもののかなりの強豪だ。実力を相手側に見抜かれないようにするのは青葉の教えた一つの戦法だ。あの手のこの手で相手を翻弄し、時には弱く見せてからの逆転を狙い、時には最初の一手で相手をひるませるなどと、様々な戦法で実力の底を見せない。
だからこそ青薔薇が恐れられる原因でもある。
「青葉さんも考え方すごいよな。弱く見せる戦法も極めておけって」
「ね。部員のほとんど演技苦手で苦戦してたよ」
「だろうな。渚とかならまだしも――」
「あ、あの!」
「「?」」
怜と渚が二人で話しているところに横やりが入った――というよりも入るタイミングを見計らっていたと二人同時に思った。
「えっと……その……た、大会、優勝おめでとうございます!」
「……ふふっ。ありがとう嬉しいよ」
「は、はいっ! そ、それだけ伝えたかっただけなので!」
それだけ言うと一人の女子生徒は深々と頭を下げてすたこらさっさと去っていった。
二人だけになった怜と渚は顔を見合わせて苦笑した。
「お前も大変だな」
「そうだね。大会優勝したの僕だけじゃないのになーんでボクの所ばっか来るのかね」
「お前がかっこいいからじゃないか?」
「そう? 僕はポイントカードだけどほかのメンバーも活躍はしてたよ?」
「女子はお前にしか興味ないんだよ」
「よく分からないな……」
「無自覚キラーだな」
「怜も同じでは? 案外怜の事気にしてる女子多いみたいだよ?」
「は?」
学園の中で男子と女子の割合は半分より少し女子が多めだ。
渚が女子から人気があるのはもちろんだが、その隣にいつもいる怜も女子たちの間からはそれなりに有名になっている。
「僕と仲良くなれば女子と話せるのではと思って近づいてくる男子とか結構いるけど、まぁ、それは僕が近づくなアピールして無視してるけど、怜は別だよ? かれこれ小学校の頃から一緒だし」
「今思えば渚との付き合い長いよな」
「だね。基本的に僕が怜に付いていってるだけだけど」
――ガラガラッ
「はーい席ついてーホームルーム始めるわよー」
タイミング悪く担任の先生が入って来て話はいったんお開きになった。
――昼休み
「怜、昼どうする?」
「あー弁当作れてないから学食行く」
「りょーかい。早速行こ」
少しだけ背伸びをしてから立ち上がると二人並んで食堂に向かうと――
黄色い歓声が上がっている。
その中心にいるのは身長高めの藍色のグラデーションヘアーの女子生徒。
「姫野さん、食堂でも人気なようで……」
「あいつどこにいても囲まれてるな」
「まぁしょうがないよね。イケメン女子だから女子からの人気も高いんだよ」
優しそうな表情で笑顔を振りまいている葵に周りの女子はキャーキャーと高めの声で歓声を上げている。
何人かが一斉に質問しているがそれを聞き返すことなく全部さばいている。
流石は学年成績一位常連の葵だと思ってしまう。
「――うん。今度見てみるよ。教えてくれてありがとう。ん? あーそっちも面白そうだねってちょっといい? はい、取れたよ」
「あ、ありがとう……ございます……」
「ふふっ。可愛い反応するね」
「あいつ、よく平気であんなこと出来るな。渚もできるんじゃないか?」
「僕がやったら男子から嫉妬されるからやらないよ」
「だろうな」
券売機で食券を購入して料理を買いながら席に着く。
葵は女子だから平然と誰にでも髪に触れてゴミを取ることが出来るが、それを男子がはたまた渚がやったらどうだろうか。
無論女子は嬉しさのあまり全思考は停止して声は出なくなるだろう。ただ、それを学園一の渚がやるとなると当然男子は嫉妬で狂うこと間違いなし。
「白崎君が何をやったら男子が嫉妬するって?」
「盗み聞きしてんなよな」
「しょうがないじゃん? 二人が偶然ボクの近くの席で話してたら嫌でも聞こえてくるんだし、まぁ嫌じゃないけど」
「お前は聖徳太子か何かか」
「ボクは怪物じゃないです~」
「姫野さんは昼ご飯食べた?」
「まだだよ。……学食で食べようとしたらあの状態だから」
先程まで集まっていた女子生徒たちに聞こえないように怜と渚に小声で伝えると軽くひらひらと手を振りながら券売機に向かった。
「姫野さんも僕みたく大変そうだね」
「あいつの場合は同姓だから困ることないだろうが、男相手ならめんどくさいとか思ってるだろ普通は」
「まぁ、そうだろうね。前も先輩にダル絡みされて困り果ててたし」
「お姫様とそこに群がる下僕」
「ふふっしんらつ~」
「事実だろ」
「そうだけどさ~」
――ガタッ
「隣失礼」
「さらっと座るなさらっと」
「気にしないでというか意地悪しないでよ。ほかのところ男子か女子だけで集まってるから入りづらいんだよね」
怜がめんどくさそうな表情をしているのを気にせずに麺をすする葵に渚は怜に苦笑した。怜はジト目を向けて残りのカレーを食べ終えてスマホを取り出すと何件かメッセージが届いているに気づく。
「あー悪い渚、玲奈からメール来てた」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
「ういー」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「白崎君って夜狼くんと本当に仲いいよね。あ、変な意味じゃないからね?」
「わかってるよ。まぁ、怜とは昔からの付き合いだし、僕も信頼してるから」
「うーん……よく分からないんだよね……」
「分からない?」
「うん。白崎君と夜狼くんって性格制反対じゃない? 白崎君が夜狼くんと楽しそうに話してるその理由が知りたいんだよね」
「周りから見たらそう思うよね。僕も時々分からなくなるよ? なんで僕は怜と親友をやってるんだろうって」
「……あ、ごめん。なんか重い空気になっちゃったね。無神経だったね」
「別に気にしないよ。怜の方が無神経だから」
「親友に対して辛辣過ぎない?」
「らしくないかな? 僕も王子様とか言われてるから友達想いとか、優しいとか言われるけど、もともとこんな感じの性格だよ?」
「え、そうなの!?」
「うん。まぁ怜の前でしか見せたことないけどね」
学園の中で渚はまさに漫画のイケメン男子を体現したキャラクターのような存在で、女子からしたらかっこいいと思わないわけがない。
だが、元の渚は王子様のような性格ではなかった。
「馴れ初めとか聞いてもいい? めっちゃ気になる」
「うーん……怜には言わないでよ? あいつ、過去の事思い出したくない人だから」
「一つ言っておくと……ボクと夜狼くん、秘密の友達なんだ」
「あーなるほどね。だから怜抵抗なく話してたんだ」
「え、夜狼くんって仲良くない人と話すの抵抗あるの?」
「ふふっうん、そうだよ。人見知りだからね」
「そうなんだ」
「昼休みあともう少しで終わるから手短に話すけど、もともと僕不良生徒だったんだ」
渚は淡々と語り始める。
昼休み残り10分の内の5分をかけて。
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