page.11 生徒会という肩書

「楽しそうだな……」


お店を転々としてゲームセンターにやってきた一行。

ただ、怜はゲームセンターの外にある椅子に座って三人の様子を眺めていた。


三人がゲームをして楽しんでいるのを見ているだけでも十分に怜も楽しめている――というのは口実で、本当の理由は今朝の夢を思い出していたからだ。


(なんで今になってあの時の夢見たんだろうな……しかも母さんの。あの時の言葉、まだ引きずってんのか俺……)


怜が家から離れて一人別の場所で生活を始めるより前のこと、怜は初めて親と喧嘩した。

他愛もないことだった。

全てを投げ捨てて出て行った父に負い目を感じ、自分がすべて悪いかのように言う母親に思ってもないことを言ってしまった。初めてのことだった。

あの時の母親の顔をずっと覚えていて、何もできず、謝る事すらできなかった自分からその記憶を消そうとして奥底に思い出さないようにしまい込んだ。


(母さんが今何を思って俺の生活を支えてくれてるのか考えもしてないな。あれ以来顔を見ることもためらってるし……)


あんなに好きだった母親に今になって顔を合わせることすら躊躇ってしまう自分に呆れてしまう。

自堕落な生活を繰り返してきたせいか精神的にも自堕落になってしまったようだ。


「なんで笑ってるの?」


「え?」


葵に言われてから気づく。自分が笑っていることに。


(いつの間に……いやこれ楽しいからとかじゃないな。多分呆れから来るものだ……)


内心で呆れていると無意識のうちに笑みを浮かべていたようで、それを休憩で戻ってきた葵に見つかったということだ。


「楽しかったか?」


「うん。姉さんも玲奈さんも優しくて、景品とか色んなもの取ってくれたよ」


「そっか。懐いなぁゲーセン来るの」


「最近は来てないの?」


「ん? あぁ……クレーンゲーム極めすぎてほとんどのゲーセン出禁になったからな」


「マジ? まぁこの前のゲームプレイ能力見てたら相当だったもんね」


「だからほとんど行かなくなったんだよ。出来ん食らう訳にはいかないからな 」


美少女三人が楽しそうにゲームをしてるのを見るのも案外楽しかったりするのだが、怜からすれば自分らしくないから口には出さない。


ただの付き添いとか言われて何となくでついてきていたが自分でもこの時間を楽しんでいた。


「あ、そういえばそろそろ文化祭のだよね?」


「あー再来月だったな」


青薔薇学園の文化祭は準備の時間も考慮して他校より遅れて開催する。

二学期に入ってから2ヶ月の期間は準備期間に突入する。


「忙しくなりそうだなぁ……」


「まぁ、生徒会は文化祭のクラス展計画資料の確認と調整、予算管理、その他諸々生徒会が動かないと準備できないものが多いな」


「うぐっ……考えるだけで嫌になりそう……」


「まぁがんばれ。忙しいって言っても基本的には玲奈中心で動いていくことになるから仕事の調整も玲奈が決めてくれるはずだぞ」


「君は手伝わないの?」


「俺は生徒会メンバーじゃないからな」


「入ればいいのに」


「前にも言ったろ? 入る気はないって」


以前副会長として地位を持っていた怜はその大変さやめんどくさいことをそつなくこなさなければならない苦痛も怜は知っている。


それに怜が中学時代に生徒会副会長に就任するのになったのはある人物からの勧誘があったからだ。


それが無ければわざわざ自ら望んでなろうなどと思わない。


「俺は裏方に徹して玲奈や薫先輩を支えてる陰になってる方が似合う」


「学園の裏アカウントを1人で潰せる人が?」


「知ってたのか」


「神崎さんから聞いたんだ。というよりそのアカウントがあるって噂はちょこちょこ耳にしてたし、生徒会も目をつけてたのは君も知ってるでしょ?」


「さぁな。少なくとも渚は知ってたかもしれないけど、俺は何も知らない。神崎に言われて初めて知ったくらいだ」


「そういえばそのことで一つ疑問に思ってたことがあるんだけど」


「なんだ」


「その裏アカウントの情報を何で神崎さんは知っていたのかってこと」


現在裏アカウントは生徒会の掲示板として神崎が運営をしている。

閲覧するためには生徒会から配布されるコードを入力してアンケートに答えたのちにログインが可能だ。投稿を出来るのは生徒会のメンバーと一部の教師、もしくは部活動の部長のみとなっており、それ以外の生徒が書き込みを行うことは不可能。


だが、それ以前の裏アカウントは学園内で陰に隠れて悪さを働いていた一部の生徒にて運営されていた。ログインするためにはパスコードを運営元から聞き出す必要があるのだが、生徒会役員である神崎はそれを知ることは不可能。

つまりは裏アカウントの情報を生徒会で得ていたとしても中身を確認する方法はない。


「いくら神崎さんでも生徒会の役員である以上はログインをすることは不可能じゃない?」


「そうね~だから楓ちゃんには裏技を教えたのよ~」


「裏技? ゲームの話か何かですか?」


丁度ゲームをやり終えた玲奈と薫が合流をして葵の今の一言を聞いただけでどんな話をしていたのかを即座に理解した。


「あの時、俺がサーバーを覗いて驚いたのが教師のアカウントが生徒のアカウントとしてログインしていた。俺は名簿を見た時点で青薔薇の生徒じゃないことは一目瞭然だったが、三人の先生が理事長の作ったウイルスを持ったスマホでログインしていたことでサーバーががら空きになってたんだよ。あとはパスコードを抜き取って神崎がそれを使ってログインすればお終い」


「てことはあの裏アカウントに入ってた先生たちは理事長先生から頼まれてはいってったてこと?」


「そういうことよ。私たちもそのアカウントのことは注意しての。それを青葉さんに相談したら早急に手を打ってくれたの」


全体的な攻略法はまず生徒会長である玲奈と薫が裏アカウントが存在しているという噂をクラスメイトから聞いたことが始まりとなる。

それが事実ということが証明された後に二人はこの件を理事長である青葉に話した。その際に青葉の方で事前策として教師数名にウイルス(怜の父作成したもの)を仕込んだスマホでログインをさせる。

そして時間が経つにつれて誰も気づかないうちに裏アカウントの情報が青葉のもとに抜き出される。そこから裏ルートでの侵入できるように回路を製作。これにより神崎のログインをスムーズに行う。


そしてそこで得た情報を怜と渚に流して二人に協力を仰ぐ。

アカウントの削除をすれば終わるはずが二人が掲示板化してしまったため、思ったよりもいい方向に進んだため一石二鳥となった。


「あとは葵ちゃんの知る通りね~怜くんたちのおかげで悪意のある噂は消えたの」


「そうなんですね……」


「何か疑問か?」


「あ、いや……疑問とかじゃないんだけどさ、そこまで見越したうえで意図も容易く解決に導ける君が何で生徒会の役員を拒むのか気になって」


「葵ちゃん。怜くんはね、表舞台に立つのが大の苦手なの。いつも裏から私たちを支えてくれてる。私たちはそれがすごく助かってるの。葵ちゃんの言いたいことも分かるし、私もそうならいいなとは思うの。でもね、怜くんが生徒会役員になっちゃったら怜くんは自分を押し殺さなきゃいけなくなっちゃうもの」


現生徒会は玲奈の働きはもちろん怜が陰ながら支えていることが何よりも原動力になっている。

玲奈たちが手の回せない仕事を生徒会長の名目で片付け、バランスを取り持っているからこそ玲奈たちは大きな問題を起こすことなく生徒会を回すことが出来ている。


一概に怜が参加していないというわけではない。陰ながらも生徒会の一員のような仕事をしているのだ。


「ほら、今日は学校の話じゃなくてたくさん遊びましょ」


「ですね。野暮なこと聞いてすみませんでした」

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