page.7 友達への軌跡ラスト

「あっ! 待って待って!」


――バンッ!


画面にデカデカと表示される【𝐆𝐚𝐦𝐞 𝐨𝐯𝐞𝐫】文字。

ゲームを始めてからかれこれ20試合はやったが、葵は未だに怜に勝てていない。


「もう1回!」


「まだやるのかよ……」


「だって、悔しいもん……」


今2人がいる場所は怜の家で、今2人がやっているゲームは新作のゲーム【LAST:TITAN 2】で、新モードをかれこれずっとやっているのだが、あいにくゲームの経歴は怜が上手で、葵はどうしても勝てずに拗ねている状態である。


とはいえなぜ怜の家でゲームをすることになったのか、それは学校終わりに葵のゴリ押しによって一緒に帰ることになり、その結果あれよあれよいう間に一緒にゲームをすることになってしまったのだ。


それからもう数試合続けたのだが、結果は変わらず、最終的には拗ねに拗ねまくった葵が涙目になって睨んできたのもあって対戦ゲームはお開きになった。


「はいコーヒー」


「ありがと」


「お前も諦め悪いよな。あそこまでボコられて挙句の果てに拗ねるって」


「負けず嫌いなんだからしょうがないでしょ」


「まぁ俺も負けず嫌いなところはあるからな」


コーヒーを1口飲んでため息をつく。


「キミが負けず嫌いってあんまり想像つかないけど」


「だろうな。普段の生活態度見たらそんな事思う人なんているわけないし」


ゲームをやっている限り、何か勝負をしなければならなくなってしまうことは確かで、負けたら勝つまでやり続けるのは怜も同じところがあるため、共感してしまう。


「でも……なんか久しぶりだなぁ……こうやって誰かとゲームするの」


「……なぁ、本当の目的はなんだ? 姫野の性格からしてそう易々と男子の家に上がるとは思えないんだけど」


怜が問いかけると机の上に――コトッとマグカップを置いた葵は怜と向き合って怜の鼻先と数センチの間を空けて指を指した。


「答えはシンプル。ボクがキミに興味を持ったからだよ」


「俺に?」


「そ。夜狼くんも知ってると思うけどボクは学園では三大美姫とか言われて人気者になってる。それ故にルックスを求めて近寄ってくる下心丸出しの男子が多いわけ」


葵は学園の中でもそれなりの人気があって、付き合いたい、彼女にしたいランキングでは堂々の2位に入っている。(ちなみに1位は玲奈である)


ただ、近寄ってくるのは葵のルックスや発育の良い体を求めてくる下心丸出しの男子たちばかりなのである。


「でもキミだけは違った。たとえボクがどれだけルックスが良くても、発育が発達していても、下心なんてないっていうのが初めて会った時に分かった。あくまでクラスメイトの1人として見てくれてた」


元より怜の近くには葵以上の―――何かとは言わないが、大きなものを持っている美少女がいるわけで、ルックスで言えば葵を優に越している存在がいるのに、今更葵に下心を出すなどおかしな話であって、怜の中でルックスはどうでもいいと思っている。


だからこそ葵は不思議に思った。

これまでの男とは明らかに違う存在だったから。知らない存在だったから。


「だからキミに興味が出てきたんだよね。キミなら信頼出来るし、何より一緒にいて落ち着く感じがする」


「人を見る目はあるみたいだな」


「まぁね。これまでの経験からかな」


(信頼、か……)


他人から信頼されたことがなかった怜にとって、葵が2人目の信頼を置いてくれる存在なのは確かである。


「だから、キミにお願い、いい?」


「なに?」


再び怜の鼻先に指を指して葵は少し深呼吸をする。


「……ボクと、友達になってくれますか?」


「……」


本来なら自分から言わなきゃ行けなかったことだが、まさかの葵の方からお願いされるとは思っておらず、怜の思考はほんの数秒停止した。


ただ、答えは既に――


「まさか姫野の方から言われるとは思ってなかったけど、こっちからも頼むよ」


「喜んで」


友達の証として握手を交わして、正式に2人は友達となった。


友達というのは互いにそれぞれが友達だと思っていないと成り立たない。

どちらか片方が友達思い込んでいたらそれは本当に友達とは言わないだろう。

だからこそ判断が難しい。

相手は本当に自分のことを友達と思ってくれているのか、もし思っていなかったら、などと考えてしまうのが普通だ。


だが、今それすら正しいと思ってしまう。


お互いに友達になりたいと認識していた。それによってこの関係になれたのは間違いは無い。


―――――――――――――――――――――


「なんとか友達にはなれました。まぁ、こっちからじゃなくて姫野の方からでしたけどね」


『それでも構いません。葵、これまでに落ち着けるような友達がいなくて、一人でいることも多かったので』


「あー、あいつも言ってましたね。落ち着ける存在だって」


葵が帰ってから怜は薫に連絡を取ることにした。

元はと言えば薫から頼まれたことが今回の結果に至っているわけで、報告をするのは当たり前なのだが――葵としては純粋に友達になりたいと思っているのだと怜は予想している。


『これからも葵のことをよろしくお願いしますね?』


「妹思いなんですね。薫先輩って」


『ふふっ、玲奈と同じく家族が大好きなんですよ。葵は私の大事な妹ですから』


「なら、1つお聞きしてもいいですか?」


『はい? なんでしょうか』


「2週間前、雨降ってたの覚えてますか?」


『……覚えていますよ』


「葵と何かありましたか?」


率直な質問だ。

二人の間に割って入りたくないのは山々だが、あの日の葵を見た怜はそんなことを言ってる場合じゃないと思っていた。


あの時の葵は失望と悔しさを瞳に宿していた。

まるで昔の自分を見ているように思えたから放っておけなかったのだ。


『怜さんは鋭いですね……確かに何も無かったと言えば嘘になります。あまりお話したくないのですが……怜さんにならお話しても良さそうですね』


それから薫は話し始めた。

あの日に葵と喧嘩してしまって、その結果葵に酷いことを言ってしまったこと、それからずっと引きずってしまっていること、全部話した。


「なるほど。それで俺に頼ったってことですね?」


「はい。わがままを聞いてもらってすみません」


「大丈夫ですよ。先輩にはお世話になっているので、お安い御用です」


「ありがとうございます」


「まぁ、ぼちぼち友達として付き合っていくつもりなのでご心配なく。というより、先輩の方から話しかけた方がいいかもですね」


「近いうちにそうします」


それからもう一度薫からお礼を言われてから通話を終了した。

学園三大美姫の一人、姫野葵との友達関係が始まる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

よかった……

シリアス展開で終わらずに済んだ。やっとこさ葵と友達になれた怜、これから二人のお隣付き合いを書いていくのでお楽しみに。


最近なかなか執筆が進んでないので投稿が不定期ですが、出来る限り早めに投稿できるように努力します。


ではpage.8でお会いしましょう。

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