Page.5 先輩のお願いとはいえハードル高い

『生徒会の手伝い頼めない?』


放課後、教室で帰宅の準備を進めていた怜のスマホに一件のメッセージが届いた。

依頼主は玲奈からだった。


玲奈は時折生徒会の手伝いを怜にお願いしてくる。

人手が足りない以上、怜も致し方なく了承している。本心としては新しい役員を入れればいいのになどと思うが、現状の生徒会に入れる生徒なんてこの学園にはいないわけで。


『今から行く』


それだけ送り、怜は荷物をまとめて生徒会室に向かった。


生徒会室に繋がる校舎間の廊下を歩いていると、担任の先生である楠紗良に偶然であった。

生徒会室のある校舎には職員室と、理事長室などと各クラスのとは別に設けられている。


「あら、これから生徒会室に行くの?」


「相変わらず察しがいいようで……」


「担任ですから、生徒の行動の意図をしっかり見てますよ」


「生徒からしたらたまったものじゃないですけどね」


「ふふ。そうですね」


怜のクラスの担任は美人教師として学園では有名で、清楚系の生徒思いの教師という点で人気がある。


話やすい分、生徒からの信頼も厚く、中には狙っている生徒もいるとかいないとか噂が流れている。


「私は……君なら生徒会に加入しても何も問題ないように思うのだけれど?」


「……信頼、してくれるのはありがたいですけど、俺には生徒会に加入して何かを成し遂げたいとか言う野心はないですよ」


「あら、残念。二年の玲奈ちゃんも喜ぶと思うけどね~」


「あいつは俺が加入してなくてもいるだけで喜ぶので」


「あらあら、お互いのことをよく分かっているようね~」


「一応は幼馴染なので」


「幼馴染の枠を超えてそうで少し面白そうだけど?」


「漫画の見過ぎですよ先生」


「漫画いいわよ~」


「まぁ、それは否定しないです。てか、そろそろ行かないと怒られるような気がするので、俺はこれで」


「頑張ってね~」


軽めに一礼だけして怜は生徒会室に急いだ。


――生徒会室


「悪い、担任と話してた」


「やっと来た~」


怜が生徒会室に顔を出すやいなや抱き着いてくる玲奈に呆れつつ、前を見るとそこにはいつもなら見かけない生徒が立っていた。


「あれ、薫先輩がいるって珍しくないですか?」


「お久しぶりですね。怜さん」


いつもなら部活に行ってしまい、なかなか顔を出さない薫が今日は生徒会室にはいた。


本来なら今日は部活動があるはずなのにいるということは何か別の目的があると怜は踏んだ。


「もしかして今日呼んだのって雑務じゃない?」


「そうなの。今日用事があるのは薫ちゃんの方」


玲奈に話を振られた薫は真剣な表情をして怜に近づいてくる。


「率直に言います。葵と友達になってくれませんか?」


「大雑把に区切りましたね」


「すみません……話の大部分を省いてしまって」


「いえ、大丈夫です。それより、姫野と友達になってほしい理由って?」


「つい数日前に葵と喧嘩してしまって……それ以来話し合いすらできていないんです」


姫野葵と姫野薫の美人姉妹は学園の中でもかなり有名な話で、互いに仲がとてもいいと言うのは周知の事実なのだが、まさかの喧嘩していたとは思わなかった。


後もう1つは、あの日、葵が雨の中で公園にいたのは深刻な理由ではないということだけ分かって安心した。


「つまり先輩は俺に仲介なくを頼みたいってことですか?」


「えぇ、そうなりますね。本来なら私が謝りに行かなければ行けないのですが……今の状態ではあってくれそうになくて……」


「なるほど、それで俺が友達の関係になれば、それ伝いに喧嘩の仲介に入れると」


「面倒くさいお願いをしてしまったのは申し訳ないです」


「いいですよ。俺としても先輩にはいつも世話になってるので、軽めの恩返しってことで」


「ありがとうございます」


―――――――――――――――――――――


(――とか言って軽く引き受けたけど、俺渚以外とまともに話したことないし、友達になるなんてまず無理だし……)


怜は昔から人間関係を上手く掴むのが苦手で、渚以外と友達という関係になったことがない。しかも話したことすらない。


話しても一言二言言っておしまいっていうのが怜の中で通常になっている。


つまり葵と友達になるにはまずまともに話さないと始まらなかったりする。


「どうすっかねぇ……」


そんなことを考えながら最寄りのゲーム専門店に訪れて新発売のコーナーを見ることにした。


新発売のゲームソフトを手に取って裏表紙を見ては棚に戻してを繰り返す。

それが怜の週終わり、金曜日の日課になっていた。


気に入ったゲームソフトは買って、早速家でやるのが当たり前となっている訳だが、そんなゲームソフトを買うお金はどこから湧くのかなんて野暮な質問は怜の頭の中には無い。


「これ……あのゲームの続編だ……!」


手に取ったゲームソフトのパッケージには「LAST:TITAN 2」

と書かれていて、ゲーム界隈では非常に人気な作品の続編だった。


怜も第1弾をやったことがあったのだが、想像以上に世界観にハマってしまったため、1週間やりこんでクリアタイム世界記録に足を踏み入れたことがあるほど好きな作品でもある。


「3年ぶり、か……」


前作が発売されたのは怜が中学一年生の頃だったため、約3年ぶりの新作だ。


1度棚に戻してから公式のホームページを眺めている怜だが、あまりの集中に周りの人に気づいていない。


「何見てんのさ」


「うぉ!?」


「あははっ、驚きすぎ」


振り向くとそこには制服姿の葵が立っていた。

制服にメガネを掛けていて、一件葵だと言われても一瞬だが疑ってしまう。


「なんでお前がここにいるんだよ……」


「なんでって、女子高生がいても問題はなくない? というか気づくの遅すぎ」


「それはそうだけどさ……それよりこっちもというかって言いたいんだが?」


「というと?」


葵が小首を傾げると怜はスッと葵の顔の前で指を指した。


「その眼鏡、変装か?」


「あぁ、これね。まぁ、変装っていうのもあるけど、単純にボク目が悪いんだよ」


葵はメガネを外してから苦笑した。

学校では基本的に眼鏡を外して裸眼で授業を受けているが、実際のところは黒板が見えずに時折目を細めたりしている。


「だからか、時折目を細めて顔を顰めてるのは」


「そういうこと。でも、学校でそうしてないと印象って大分変わっちゃうかさ〜今の人気にさらに上乗せする気は無いよ」


「確かに、普段イケメンで王子様気質のお前が眼鏡なんかして清楚担当になったら人気はうなぎ登りになるだろうな」


普段の学校での葵は圧倒的王子様気質のクール美女だ。

男子からだけでなく、一部の女子からの人気も相当ある。


ただでさえイケメン要素を持っている葵が眼鏡をかけて清楚兼イケメンとして学園に名が広まれば、これまで以上に人気になるのは免れない。


「つまり〜? 私生活で眼鏡をかけるのは変装でもあり、自分の視力のせいでもあるのでーす」


「へぇー」


「ちょ、反応薄くない?」


「なんだ、眼鏡付けてる方が似合ってるとか言われたいのか?」


「べ、別にそんなんじゃないけど……」


「そうか」


怜は端的に告げるとソフトのケースを持って会計に向かった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


葵もそのあとをついて行く。

何食わぬ表情で会計を済ませた怜は早々に店を出た。


「ねぇ〜今から帰ってそのゲームやるのー?」


「……」


「ねぇねぇー聞いてるー?」


「……」


怜の後ろをぴったりとくっついてくる学園のマドンナがやたらちょっかいをかけてくるので、だんだんと怜はいい加減イラッときていた。


「だぁー! 俺になんの用だよ!?」


「……!? ごめんて、そんなに大きな声出さんといてよォ〜」


思わず大きな声で叫んでしまって慌てて口元を抑えるが、葵は肩を竦めて何やらうねうねしている。


なんだこの可愛い生き物はとか思ったりしてないと自分に言い聞かせて納得するのは怜の癖である。


「ボクは単に君と話したいだけだよ。ほら、青薔薇学園の裏アカウトを止めてくれたの君だったから、お礼も兼ねてね?」


「あぁ……そういう……」


恐ろしく情報伝達が早い。

昨日の今日で怜と渚が裏アカウトを削除したって言う情報を得ていたのかと、純粋に感心した。


「あ、楓ちゃんからの通達だからね」


「……」


怜は後から聞いた話だが、葵と楓は小学校の頃からの幼なじみで、ずっと一緒にいるらしく、互いに苗字にさん付けで呼んでいるものの仲はいい。


あれほどまでに元気娘の神崎と親友レベルで付き合えるなとか怜は無粋な考え方をしたのだが、普段葵と楓が話している様子を見ていて、葵が満更でもないように笑って話しているため、本当に仲がいいのは見ればわかる。


「まさか君にそんな才能があったなんてね〜」


「親の影響だな」


「夜狼くんの親ってそういう仕事してるの?」


「別にハッカーじゃない。単にゲーム関係のプログラマーってだけで、プログラムの書き換えとかをやってるんだよ」


「おぉーなんかそれだけ聞くと凄いね」


「まぁ、普通ならそう思うよな」


怜の実の父親は大手ゲーム会社のプログラマーを務めており、ありとあらゆるプログラムの書き換えや制作をしており、業界でもかなり有名な人物となっている。


それからお互いに沈黙を続けてから家に着いた。


結局、話を切り出すチャンスだったのだが、怜は何も言えないまま家の前まで来てしまった。


「今日はありがとね。色々と話せてよかったよ」


「そうか……」


「? どうかした?」


「あ、いや……なんでもない。また学校で」


「うん。またね」


葵は軽く手を振ってから家の中に入っていった。

怜も小さく手を振って葵が家に入ってから自分も家に入った。


「はぁ……言いそびれた……」


怜が葵に話を切り出せるときは来るのだろうか。


―――――――――――――――――――――

【あとがき】

お久しぶりです。

1ヶ月近く空いてしまってすみません。

最新話、お楽しみいただけましたでしょうか?

1ヶ月近く空いているので熱が冷めるかもしれないので、最初から読み返すのもありかもですね。

というわけで、最新話は薫が大きく関わってきましたね。

怜は葵に友達になることを切り出せるのか、葵の答えはどうなるのか、乞うご期待です。

というわけで、僕は徹夜をしたために眠いので少し夏眠をしてきます。

第6話でお会いしましょう。

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