page.4 たった1回の裏アカン撲滅委員会設立
「怜、そろそろ行こ」
「そうだな」
昼休み、生徒たちのほとんどは学食を食べに食堂に集まる。
あまりの人の多さに行くだけ行ってみた結果、何もできずに教室で渋々購買で買ったパンを生徒がちらほらいたりする。
中には学食を諦めて弁当を持ってきている生徒も少なくはない。
「この時間帯が一番空いてるからね」
「まぁ、昼休みギリギリだけどな」
「それは言わないで……」
怜と渚は一番食堂が混雑する時間を入学した当日に玲奈から聞いていたため、一番空いている時間なども把握している。食堂は完全に生徒がいなくなるまでは閉まらないことも知っているため、ギリギリの時間を攻めているのだ。
ただ、今日はそう上手くいかないわけで――
「やぁやぁ諸君」
「なんかようか、神埼」
「あれ、そこは普通『お前は……っ!?』ってなるところじゃないの?」
「あいにく俺と渚はそういったオタク思考を持ち合わせてないからな」
「ねぇ~そういうところだよ〜? 君が学年でノリが悪いって言われるの〜」
「悪かったな」
「ところで、ここで話すのもなんだと思うから食堂で話さない?」
「そうだな」
「やった夜狼くんの奢りだ」
「誰もそんな事は言ってない」
いつも通りテンションの高い楓に呆れながらも早々と食堂に向かう。
いつものように食券を買って席につく。
「それで、話ってなんだよ」
「ん〜? そんなの一つに決まってるじゃあないかい?」
「姫野の件か?」
「そそ、話を察してくれて助かるよ」
楓が話しかけてきた時点で大体の把握はできていた。
ただ、渚のいる前でその話を持ち出してくるとは思っていなかったため、疑っていたのだが、楓の反応で確信を得た。
「誰に話してないんでしょ?」
「まぁな。話すような内容でもないし」
「もしかして姫野さんまた告白とかされたの?」
「あれ、君も察しが良いのねぇ」
「姫野さんのことって言ったら告白されたとか、成績関係とか、そういった事が多いからね」
「それで、その話を持ちかけたってことは俺になにか聞きたいことでもあるんだろ?」
「そ、君予想通りだよ」
楓はそう言うと箸を止めて自分のスマホを取り出す。
怜と渚も箸止めて手渡された楓のスマホを見る。
「これは?」
「この学園の裏アカウント。そこには学園の噂とか、裏情報が時折流されたりしてるんだ」
「なるほどな。広報担当のお前だから把握しているってわけか」
「そゆこと。悪い噂から面白半分に拡散された噂とか、いろんな噂が日々飛び交ってる。さすがの私でも管理しきれてないんだけどね」
「ふーん……」
楓の説明を聴きながらその裏アカに記載されている内容を見ていく。
ちらほら知っているような内容が書き込まれているが、中には全く知らない内容までもが記載されている。
「これって外部の人でも閲覧できるの?」
「いいや、外部の人のアクセスは完全に切ってあるから、入れるのはこの学園の生徒全員と、一部の教職員だけだよ。それでも入るにはパスワードが必要なんだけどね」
「待って、教師も閲覧できるの?」
「うん。裏技を使えば教師なら入ることはできるよ」
「裏技って……ゲームじゃないんだから、教師がこんなのを見過ごすなんて……」
「いや、神崎の言ってることは本当だな」
「え?」
怜は裏アカのメンバー表を見せた。
そこには誰がいつログインしたか、このアカウントにいつ参加したかのかなどが事細かに記載されていた。
「よく見てみろ、名簿の中に知ってる教師の名前があるだろ?」
「本当だ……」
「約3名、このアカウントに載ったウワサを秘密裏に閲覧してる奴がいる」
「まさかそんな……」
それからしばし沈黙が流れる。
「今の時代、こうやってSNSを通じて学校の中での悪い噂とかを流して、それを見て楽しむ生徒は大勢いる」
「一概に全ての生徒が学校の方針を気に入ってるわけじゃないってことだな」
「うん。私もこんなのがあるって聞いた時は驚きで言葉を失ったよ……まさか、この学園にそんな闇があるなんて思わなかったからね」
「1年の何人かもこのアカウントにログインしてるな……」
「私も広報担当として全てを把握していたとしても、対策は取れないんだよ……ここのことを理事長にでも話したとしてもまた新しいアカウントが作られて、負の連鎖は続いていく……」
1度表にバレでもしたら確実にアカウント削除は免れないだろう。
だが、それでも諦めの悪い人は新しいアカウントを作り、さらにはその制限を厳しくするだろう。
そうなれば楓でさえ対処することは出来なくなってしまう。
「それで、このサーバーの中に姫野の情報が漏洩したと」
「そ、まぁ噂を流した張本人は特定済みだから、後は学校側に頼んでそれなりの罰は与えてもらうつもり」
「別の要求があるみたいだな」
「そゆこと。私は君を信頼してるし、頼りにもしてる。だからこそのお願いさ」
「先に言っておくが俺でも対処出来るかは危ういぞ」
「分かってるよ。ある程度で構わないから、お力をお貸しくだされ」
両手を合わせて頭を下げられては断るにも断れなくなってしまうのだが、怜としても葵の立場を守りたいという思いはある。
「善処する」
「僕も協力するよ」
渚の協力も得たため、怜たちは楓のスマホからアカウントのデータを一時的に借りてその日のうちに作業に取りかかった。
あいにくにもサーバー自体のセキュリティがガバガバ状態だったのもあり、侵入するのは容易かった。
怜の父から教わったゲームプログラムの知識を活かして次から次へとサーバーのデータを破壊していった。
やってることはハッカーと遜色ないのだが、これも葵と学園のためでもある。
あれから数日経って、理事長に全てを話した結果、約100名近くの生徒が定額を食らう事態になったが、学校としては大きな支障は来たしていない。
一部の保護者から講義の電話が鳴り止まなかったが、全てハイスペック理事長によって成敗されていった。
学園にはこのことは伏せられていて、一部で生徒が消えたことについて話題になったが、元々このサーバーを使っていたのは学園の中でもんだいじとかしていた生徒だったのもあり、あまり大きな話題にもならなかった。
「いや〜、ありがとね。君を信頼してて良かったよ」
「サーバーのセキュリティのプログラムを書き換えただけなんだけどな」
「サーバー自体は無くなってないよ」
「え、マジ?」
「うん。サーバーのプログラムを書き換えて表向きのアカウントにしたんだ」
「表向き?」
怜はスマホを取り出して楓に見せた。
「青薔薇掲示板?」
「うん。悪い噂とかが書き込まれててそれを改善した上でもっと新しい、みんなが見てもいいようなサーバーにしたんだ」
「なるほどね。これなら正しい情報と噂の区別を見分けることができると」
「まだ完全にとは言いきれないけどね」
怜と渚がやったのは裏サーバーのセキュリティプログラムの破壊と再構築で、サーバー自体を真新しいサーバーへと変更した。
青薔薇学園内にある面白い噂を一括にまとめることの出来るリストの作成、生徒会からのお知らせの掲示板代わり、青薔薇学園内で使える裏技などの紹介などと言った様々な用途に使用することができるようになった。
「これなら青薔薇学園の評判を下げるための方法が無くなるし、このサーバーの管理は生徒会と理事長の元でやっていけば、何も問題は無いはずだ」
「てっきり私は君たちが言われた通りにサーバーを削除したり、なにか対策とって終わりにするかと思ってたけど、まさか掲示板にしちゃうとはね」
「これなら来年の生徒会からでも使っていけるからね」
「ありがとさん、お二方」
黒に染ったタイルを白に変えるのは何より重要なことである。怜は単にそれをやっただけに過ぎないわけで、本人は何も思っていなかったりする。
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