page.1 学園三大美姫の一人『姫野葵』
「ねぇ〜、れい〜?」
「なに?」
「なんでボーッとしてるの〜?」
「ちょっと考え事してた」
昨日、葵と初めて話してから怜はずっと考えていた。
なぜあの場所に葵がいたのか、それをずっと考えていた。
姫野葵、学園の三大美姫の一人。
そんな彼女が一人公園のベンチで座り込んで、あろうことか涙を流していたなど、怜からしても信じられないものだった。
「もしかして姫野さんの事が気になるの?」
「まぁな……入学してもう3か月は経とうとしてるけど、今になって思うとよく分からないことだらけだな」
「分からないこと?」
「今、あいつの周りに集まっている人って姫野の事を孤高のお姫様としてとらえてるだろ?」
「確かにそうだね。いかにも孤高って感じがするよね」
「でも、それって表向きなものでしかないように思う……」
怜は人間観察を小さいころからよくしていたため、人を観察すると、その人が抱いている感情や、その人の表裏までも分かる部分は分かってしまう。
そのため、昨日のようなことがあって、怜は葵の事を普通の生徒として見ることが出来なくなってしまった。
あくまで観察対象としてだ。そこに恋愛感情なんてものは一切存在しない。
「怜には見えて、周りの人には見えない裏の顔か……」
「確証はないけどな」
「これから観察を続けるの?」
「怪しまれない程度にはな」
「頑張ってね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の放課後、渚は部活があるため怜は一人で帰ろうと思ったが、教室に忘れ物をしたため、取りに戻ると後ろから首根っこをつかまれた。
「ちょいちょい、何しようとしてるのさ」
「誰……」
「あぁ、ごめんごめん。見つからないように小声で話すけど、あたしは4組の神崎楓。バスケ部に所属してるんだ」
「あぁ、4組の……」
神崎楓。
1年4組のムードメーカーで、男子からの人気もそこそこ高い女子生徒で、バスケ部1年エースである。
そんな彼女がなぜ怜の教室の前にいるのか――それに、同じクラスの女子だろうか、あと二人ほど楓の後ろで見張っている。
「夜狼くんは何をしに教室へ?」
「それはこっちのセリフでもあるんだが……忘れ物を取りに来たんだよ。お前は?」
「あたしの目的は……」
楓に目で合図されてドアの窓から少しだけ顔を出すと、教室に誰かいることに気づく。
藍色のグラデーションカラーが施された髪――そして一年生、葵だ。
「姫野のやつ、何してんだ?」
「その奥、もう一人いるでしょ?」
「もう一人……?」
ドアの冊子が邪魔でよく見えないため、少し移動して斜めから見るとそこにはもう一人、男子生徒らしき人影が見えた。ネクタイの色からして先輩だとはっきりわかった。
「もしかして告白されてるのか?」
「そ。校舎裏とかじゃなくていつ誰が来てもおかしくない教室で堂々と告白されてるの、あ、もちろん姫野さんがね」
「相当自信があるんだな。というか、あの先輩って陸部のエースだよな?」
「そうだよ。あの先輩、今日を含めてもう4回くらい姫野さんに告白してるんだよ」
「諦め悪いな」
「ユー素直だね。姫野さんも可哀そうだよね、断っても迫ってくるんだから」
「見たらわかる。あからさまに目を反らして、目を合わせよとしてない時点でめんどくさいと思ってる証拠だしな」
ドアについている窓から楓と並んで中を見ているが、わずか数分で怜は告白相手が誰なのか、葵の返事と態度から、先輩の事をどう思っているのかを見抜いた。
「あの先輩、女癖が悪いって噂があってね。前の彼女もつまらないとか言って別れたらしいんだ」
「相も変わらずイケメンだと勘違いしてるやつってそういうやつ多いよな」
「漫画の世界だけにしてほしいけどね~」
現実世界にまでそんなクズ男がいられたらたまったもんじゃないが、あいにくいるときはいる様だ。
現在進行形で葵の目の前にいる陸部の先輩がその人だ。想像通りのクズっぷりで怜は安心していた。
「入っていい?」
「いいよ? このまま引き延ばされるとあの先輩何するか分からないし」
「じゃ、遠慮なく」
楓の許可が下りたため、怜は何のためらいもなく教室の中に入っていった。
いきなり教室のドアが開いたことで姫野と陸部の先輩は驚いた。
怜の後ろに並ぶように楓たちも教室に入る。
楓の後ろからはスマホを取り出し、二人で先輩の写真を撮り、今の状況の写真を撮る。
「な、なにしてるんだお前ら!」
「何してるんだって、こっちのセリフですけど? 何みんなの教室で堂々と告白してるんですか、しかも4回目」
「なっ!? お前には関係ないだろ!?」
「関係ないですね。てか、どうでもいいです。告白するなら勝手にやってください。でもな、場所を考えろ」
鋭い目つきで怜が先輩を睨むと先輩は歯を食いしばって教室から出て行った。
「一昨日きやがれ!」
「かえで~、ちゃんと撮っておいたよ~」
「お~ナイス~」
楓の取り巻きらしき二人は楓に撮った動画やら写真を見せあって、何やら使えそうな素材を探していた。
おそらく何らかの方法を使ってあの先輩を陥れる策を考えているのだろうと怜はすぐに察した。
「や、夜狼くん!? な、ななな、何でここに!?」
「忘れ物取りに来ただけだ。そしたら絶賛修羅ばってたんでな、神崎に止められて観察させてもらってた」
「え、ええええ……⁉」
おそらく告白のことは神崎だけが知っていたのだろう。そのため、怜がこの場にいることは想定外で、混乱している。
怜はそん葵をさておき、自分のロッカーから忘れ物を取り出して鞄に入れると、黙って帰ろうとした――のだが。
「ちょいちょいちょいちょい!!」
「なんだよ」
「なんだよじゃねえわ! あんたも目撃したんだから少しは協力しなさいよ!?」
「俺は何も見てないし知らない。あとは黙秘権を行使する」
「黙秘権だぁ!? おうおうてめぇ! 姫野様の告白されているのを目撃して黙秘権が通じるとでも思ってんのかぁ!?」
「お前はどこぞのヤンキーか」
絡み方がもはや不良のカツアゲと同じなため、ジト目を向けておくと、楓の後ろから更に鋭い目つきで睨まれているため、どうしようもなくなってしまった。
葵は苦笑して教室から顔だけを出している。
「で、俺は何をすればいいんだよ」
「なぁに、簡単な話さ。今回の姫野さんが告白された件を誰に言いふらさなけばいいだけさ。姫野さんは噂話を嫌う傾向にあってね、こういったうわさが流れるとまた学校中で姫野さんを囲むかいなんてものが発足しかねないからね」
姫野さんを囲む会とかいうパワーワードに怜は少し引いてしまう。
とはいえ変な噂が立つのを嫌い、その噂を問い詰められるのを避けたいというのは怜としては同感してしまう。
ちょっとしたことでも囲まれて、それに答えるだけでも骨が折れるだろう。
「わかったよ。俺はそこまで口は軽くないから無駄な心配はしなくていい。てか、もし言ったらどうする気だ?」
「んー? その時はあんたの脳みそ取り除いてダチョウの脳みそ詰めるから」
「罰の方が怖えよ」
「そのくらいしないと、姫野さんの人気には釣り合わんよ」
「人気ねぇ……」
正直に言うと自分の脳みそがダチョウの脳みそになるのだけは絶対に避けたい。
となれば何も言わないし、忘れるのが最善の方法だろう。
実際に怜は噂に興味はないため、姫野の噂を怜が流しても何も得しないのは分かっているため、何も言うつもりは微塵もないのだが、万が一もあるために楓とは連絡先を交換しておいた。
ついでに分かったのは、さすがは学年で一番元気のある女子生徒だと思ったのと、こうでもしないとムードメーカーになれないということだ。
―――――――――――――――――――――
【あとがき】
いやどんな終わり方!?
こんにちは、またはこんばんは、八雲玲夜です。
本日より再投稿となりまーす。
毎週水曜日午後5時投稿を目安に投稿していくので、よろしくお願いします。
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