気づかない内にマドンナから好意を持たれていた件

八雲玲夜

page.0 二人は出会った

私立青薔薇学園、自由な校風と選考の多様さで有名なこの高校には、各都道府県からも様々な人が集まる。

日本有数の難関学校で、通常の進学校よりも大差の偏差値を誇るこの学校に易々と入学するのは至難の技とされている。


それでもなお入学希望者数は、ダントツで一位を獲得している。

それほどまでに人気の高校なのだ。


その理由は青薔薇学園という名前が日本全土で広まり、その校風と偏差値の高さからこれまでに幾度となく優秀な人材を排出してきた。


将来有望とされる生徒の集まること学園は、就職に困らないためには、程なく入学したい高校なのだ。


ただ、レベルの高さ故に、入学したあとも続いていける生徒、なんか踏ん張っても結果を残せず除籍処分になってしまう生徒もそう少なくはない。


いたし方ない、という言葉を使うのには申し分ないほどには仕方のないことではあるのだ。


そんな学園に通う一人の男子生徒、夜狼怜は入試テストを成績上位で入学した優秀生徒の一人だ。


ある雨の日、怜は初めて彼女――姫野葵と話した。


姫野葵、入学してからわずか三週間で告白された回数は20回を超える人気のある女子生徒で、黒色と藍色のグラデーションカラーのボブヘアに青色に近いような瞳を持ち、成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗の才色兼備を持ち合わせている学園三大美姫の1人だ。


同学年はもちろん、先輩からの人気も高い。


ただ、どんな告白ですら次から次に断っていることから、学園内では『理想が高いから』『タイプではないから』などと色々な噂が広がり、挙句の果てには『孤高のお姫様』と言われている。


そんな人物が、今、公園のベンチでぽつりと傘をささずに座り込んで、空を見上げている。


ちょうど学校帰りだった怜は葵を見つけて、公園の前で立ち止まった。


この時怜は、ベンチに座っているのが姫野葵だとは判断できなかった。

ただ、通う高校の制服を着ているため、何をしているのだろうと言った感じで見ていた。


雨の日にたった一人で、こんなところで何をしているのか気になったが、むやみやたらに関わるものじゃないと思った怜は、家の方向に向き直って歩き出そうとしたのだが――


(話くらいは聞くか……)


なぜそう思ったのか自分でも理解できないのだが、自分の中でお節介だとしても話しかけろという結論に至った。


「何してるんだ?」


「……?」


怜が話しかけると葵はゆっくりと視線を下ろして怜を見た。


「……夜狼くん、ボクに何か用でも?」


「用事っていうか、一人でこんな雨の日に座り込んでたらなんとなく気になったからな」


「そう……気遣いどうも。でも、ボクはこうしたくてこうしているから、気にされても困るんだけど……」


「そうか……」


雨に濡れていたのと、辺りが暗くなっていたのもあって識別できなかったが、口調などから目の前にいるのがが葵だと怜は気づいた。


本人が一人でいたいと望んでいる、ならそれを尊重するのが普通だが、これだけの雨が降っている中で傘もささずにいるのは風邪をひく可能性だってある。


ならやらなければいけないことはひとつだろう。


「傘、使うか?」


「え?」


「傘持ってないみたいだしな。濡れて風邪でも引かれたら親も心配するだろうし」


「……ボクに心配してくれる人はいない、から。借りる必要も無いよ……」


おもむろに俯き、儚げな表情で告げる葵に怜は頭を搔いたが、結局のところ自分の自己満足でやっている事だ。


例え葵がそれを拒んでいたとしても、何かしらの理由があったとしても、葵の見に害が生じるのは自身の良心が痛む。


「なら、俺が心配するってことにして受け取っとけ、返さなくてもいいから」


「え、ちょ!?」


半ば押し付けるようにして傘を渡すと怜は足早に家に帰った。


当の葵は混乱していたのだが、怜がわざと気遣って言ってくれたのだと確信して微笑んだ。


「俺が心配だから、か……初めて心配されたな……」


それが嘘なのかもしれないが、葵からしてみれば嬉しいと思ってしまう言葉だった。


―――――――――――――――――――――


『遅かったじゃん。10分遅刻って』


「ちょっと風呂入ってた」


『珍しいね、家帰ったらすぐゲームやってたじゃん』


「んー、ちょっと雨に濡れてな」


『あれ? 今日傘持ってなかったっけ?』


「色々と事情があったんだよ」


『へー』


葵に傘を貸して足早に帰った怜は本来友達とゲームする時間を10分遅らせてお風呂に入った。

体が濡れて冷えている場合は家に帰ったら風呂に入ること、と親に言われていたため、時間を遅らせてまでも風呂に入ったのだ。


10分やそこらなら特に支障はないため、怜と友達はすぐにゲームを始めた。


「なぁ、もし雨の日に傘持ってない女の子が、公園のベンチに座ってたらお前ならどうする?」


『なに? 急にどうしたの?』


「いや、なんとなく気になってな」


突然質問したのもあって返答が曖昧になってしまうのは覚悟のうえだったので、怜もはぐらかしたのだが――


『少なくとも、警戒をされる可能性もあるだろうし、例え同じ学校の人でも少しは躊躇うかな』


「……普通はそうか」


『でも珍しいね、怜がそんなこと聞いてくるなんて。なんかいい出会いでもあった?』


「なんもねえよ」


『そう?』


怜にとって普通というものは分からないものだった。


人にとっての普通と、怜にとっての普通は違うもので、周りの人の考える普通が、怜の中では普通ではなくなってしまうという経験を、高校生になるまでに何度もしてきた。


普通とはなにか、怜の中では分からないことだった。


葵に傘を貸したのは普通では無いのか。

葵が泣きそうな表情で空を見上げていたことに、怜は何を思ったのか声をかけた。


それですら普通では無いのかもしれないと思ってしまう。


ただ、自分の考えは自分で持っているからこそ誇れるものだと、怜はそう考えている。


『明日も学校だから寝坊しないでよ?』


「しねえよ。いつも通り行くさ」


『ならいいけど』


「あ、敵いる」


『了解』


今日も今日とてゲームの連続チャンピオンを狙う二人。


これは、一人の少年がたった一人の少女の心を救い、お互いの気持ちの変化を感じ取っていく物語である。


―――――――――――――――――――――

【あとがき】

純粋で、面白い小説を書きたいと、心から思う。

読者の皆様、こんにちは、またはこんばんは、八雲玲夜です。

前作の『気づかない内にマドンナから好意を持たれていた件』を打ち切って、一から書き直す今回の挑戦。

いかがでしょうか、少しは面白くなっているでしょうか?

まだね、第1話、すみませんpage0でしたね。

まだコメディ要素もないですし、前作と変わっていない箇所が多いと思いますが、これから話を重ねて行く事にどんどん変化していくと思うのでよろしくお願いします。

というわけでこれから最新作をよろしくお願いします。

八雲玲夜でした。

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