喧噪 02
再び都営地下鉄を使い新宿に戻った。電車内で康平はリュックの脇ポケットからペンを取り出して胸ポケットに刺した。小型カメラ付のペンだ。
例のペットショップ前を通ることになる。俺は「コバヤシ」という声を聞き逃さなかった。なんといっても猫の可聴域は「25Hz(ヘルツ)~6万5千Hz・最大10万Hz」、犬の1.5倍近くまで聞き取れるし、20m先にいるネズミの鳴き声や足音もきっちり聞いている。ただし聞こえているからといって反応するかどうかはまた、別の話だ。
ペットショップの入ったビルの前に黒い服の男性が二人とスーツ姿の男性がいた。黒い服の男性の一人はポケットやボタンホールから銀色のチェーンを巡らせている。チェーン男は怯えたように康平を見た。その視線を追ってスーツ男が康平を見る。嫌な視線だ、と俺は思った。狡猾で残忍そうな気配を感じさせる。
俺にとっては幸いなことに康平はペットショップに向かった。
「ご苦労様です」
チェーン男が康平に向かって呟いた。「こんばんは」と挨拶を返して康平はビルに入っていく。もちろん、康平の背中は俺が守っている。階段下ではスーツ男がチェーン男に確認していた。
「アイツか?」
「そうッス。
「出口か」
小声で交わされる会話を気にすることなく、康平がリュックを下ろしてから2階の店舗に入っていく。まだ夕方なので仔犬、仔猫が展示されている。その反対側には「爬虫類コーナー」とポップがつけられた一角がある。康平はそこにも入っていく。退屈そうな顔をしたトカゲ達が空調の効いた水槽内で思い思いに過ごしている。トゲトゲした顔の者、尻尾の先まで豹のような模様に覆われた者、カエルみたいな顔をした者などトカゲにも色々いるものだ、と感心していた。
「いらっしゃいませ」
レジの脇で電話を受けていた店員が電話を終えるとすぐに康平に近づいてきた。
「冷やかしですかぁ? やめていただけますかねぇ」
「ああ、すいません。興味があったものですから」
康平は素直に店を出た。階段を降りたところにはチェーン男ともう一人の黒服がいた。わざわざビル内に入って康平を待っていたのか? と思ったが二人とも何もしてくる気配もなく、俺たちは無事に路上に出た。
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