喫茶店 カイシャマエ 02
「岡部さんは通り魔に遭われたと伺っています。あなたのせいでも自殺でもないようですが?」
「それはわかっています。でも、実際、竹内と梨緒が付き合っていたのは事実ですし」
「実際に岡部さんから竹内さんを」
「私、そんなことしてません!」
栞理嬢は康平の言葉を遮るように大きな声を上げた。店内のざわめきが静まり返る。おっと、康平のピンチだ。俺の出番だな。
「ぅにゃーあ?」
俺が高めの声で鳴くと一気に場が和み、再び店内にざわめきが戻った。そんな中、一人だけ栞理嬢の元に近寄って来た。ショートヘアの若い女性だ。
「堀さん、大丈夫?」
「
おいおい、康平は事実確認をしょうとしただけだろう。それに栞理嬢の声には怒りの成分は含まれていなかったハズだが、どうなってるんだ?
「えー、ヒドくない? 堀さん、よく岡部さんの分の仕事も押し付けられて残業までしてたのに」
「でも、あの日もしも断ってたら、梨緒が残業をして私が帰っていれば、あんなことにはならなかったかもしれないし」
なんだってハンカチなんか取り出して口元を覆うんだ、その上俯いたりしたら聞き取りにくいじゃないか。占部婦人は栞理嬢の肩に手をかけた。
「そんなの、堀さんのせいじゃ無いわよ」
「10月2日、岡部さんの事件があった日は堀さんは残業されていたんですか」
お年頃女子二人に責め立てられるのは慣れていない康平にはキツいのではなかろうか、もう一声鳴くべきだろうか、と俺がタイミングを計っているというのに康平は業務確認でもするかの如くにさらりと訊いた。
「ええ、残業して、遅くなったのでエキナカのレストランで食事をして帰りました。警察の
「ちょっと探偵さん、堀さんは岡部さんとは親友なんですよ、疑うって言うんですか?」
「あ、すいません、ちょっと気になったものですから」
康平はそう言うと笑顔を見せた。占部婦人は毒気を抜かれたような顔をして「お昼休み、終わっちゃうよ」と栞理嬢を促すと軽く一礼して去って行った。おそらく何も企めそうもない康平の笑顔を見て、この男は見た目通り脳みそも筋肉で構成されているので怒っても無駄、と判断したのであろう。うむ、概ね間違ってないぞ。
その証拠に二人が店を去るとすぐに康平は俺に向かってまたどこから出しているのかわからない声で話しかけてきた。
「怖かったでしゅかー?ごめんね、ぎんちゃん。帰りましょうね」
「にゃーん」
そうか、やっぱりオマエも怖かったのか、康平、わかるぞ、雌は怒らせないに限るぞ。俺に同情されて元気を取り戻したであろう康平は喫茶店を出るとそのまま地下鉄へ向かった。
「探偵さん」
康平を呼び止めたのは占部婦人だ。リュック型キャリーに入って康平の背中を守る俺には目もくれずに康平の腕を掴むと地下鉄への階段を下りて行った。
「さっきはごめんなさいね。びっくりしちゃったから」
歩きながら話し始める。階段とはいえ、駅の階段というものはなかなか騒音が多い。まぁ他の人間に聞かれる心配はないだろう。
「探偵さん、もしかして岡部さんの事件のこと、調べてるんじゃない?」
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