バー Smoke & Spirits 02
その男性は
一方、竹内氏の名刺は康平の名刺よりも高級そうな厚い紙に「MIS 合同会社」という会社名と「最高経営責任者」という肩書が銘打たれており、住所もビジネス街として有名な地域だ。康平よりも金のかかっていそうな服を着ているのは社長さんだからなのか、俺は妙に納得した。猫ってのは素直な生き物だからね。おっと、康平と竹内氏の会話は続いている。
「フーン、他の友達は地元にしかいないらしいし、そこまで頻繁に会っている様子もないから、ねえ?」
竹内氏は康平の含みに気分を害した様子だったが、なんといってもあのマスターに紹介されてしまっている、何が何でも康平に依頼しなくちゃ今夜は帰れない気分だろう。可哀そうに。
「正直、何か、気になる他の男がいるんじゃないか、とも感じるんだ」
「別れりゃいいじゃないか」
「そんなことができるか!」
気分を害したのだろう、思わず大声になった竹内氏はすぐに恥ずかしそうに周囲を見回した。
「すまなかった」
竹内氏は誰にともなく言った。
「とにかく、栞理のためになんとかして欲しい。彼女が幸せに結婚にすすめるように、だ」
康平は肩をすくめた。あまり働きたくないらしいが、諦めて依頼を受けることにしたようだ。康平は再びリュックに屈みこんで一枚の紙を取り出し、依頼内容の欄に手書きで記入し、その紙を回して竹内氏の方へ向けた。
――契約内容:依頼人の婚約者のマリッジブルーへの対処方法の発見
「契約書はこれだ。発見できるかどうかはわからない、つまり結果は保証しない、それでもサインするかい?」
竹内氏が胸ポケットから金属製の美しいペンを取り出した。俺はスッと立ち上がって契約書を片脚で抑えた。よく考えろよ、オッサン。ここで契約するってことはマスターの思惑通りってことだぞ?
竹内氏には俺の言いたいことは伝わらなかったようだ。俺の脚をそっと押しのけ、流れるような動作で契約書にサインすると竹内氏は康平と握手を求めた。
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