84話 神谷傑の崩壊

★神谷傑(side)


「くそ!!放せよお前ら!!!何であいつらの味方をするんだよ!!!どこでも鬱陶しくイチャイチャしてる奴がいたらお前らもウザいだろうが!!!」


 俺がそう言うとクラスメイト達が話し出した。


「は?あんた頭可笑しいよ?大体男女関係で嘘つくような男がまともな訳ないけどさ、あの四人がイチャイチャしてようが本人たちの勝手でしょ?」

「私もそう思うよ?それに私達は四人が凄くお似合いだと思うけど?誰が見ても美男美女の四人でむしろ目の保養になってる位だよ?」

「ははは、それに比べて神谷は最低な事ばっかり言ってるし、行動が気持ち悪いよ?」

「ほんとだよね、それだけでもヤバいのにあんたは色々やり過ぎだよ?」

「はぁ、俺達も最初はお前の言葉を信じてたけどさ、今のお前は信用ゼロだぞ?もう諦めて大人しくしろよ?」


 な、なんでなんだよ……

 何で皆ずっとそんな目で見るんだよ……

 俺はふと佐藤と坂口の方に目をやった。


「佐藤……坂口……」


 俺が名前を呼ぶと二人は今までにない位に嫌悪感をあらわにして睨んできた。


「はぁ、もう友達じゃ無いんだから呼ばないでくれる?お前がやってきたことは最低の域を超えてるんだぞ?」

「本当はお前と話したくも無いんだよ……お前と友達だったってだけで周りから冷たい目で見られることも最近ではあったんだぞ?」

「いや、でもそれは佐野が……」

「佐野佐野っていい加減にしろよ?佐野は何もしてないだろ?」

「本当だよ、あの三人を見ていても明らかに佐野にべた惚れじゃん、あれは明らかにお前が言ってる無理矢理とかじゃないぞ?クラスメイト全員がそう思ってるぞ?」

「そ、そんな訳……」


 俺がそう言うといつも強気な女子が呆れたように口を開いた。


「お前いい加減にしろよ?私は三人から話しを聞いてんだよ!おまえは単純に佐野に負けたんだよ」

「え……」

「いいか良く聞け!人として、男としてお前は佐野より劣ってるんだよ!!!三人はそこまで言って無かったけど話を聞いた女子は全員そう思ってるぞ?全員お前に軽蔑してんだよ」


 そう言われて俺はクラスの女子達に目を向けた。

 

 そしてその言葉が本当だと一瞬で理解出来た。

 

 女子達の目は嫌いの域を超えて、まるでゴミを見る様な目だった。

 なんで今まで気づかなかったのか……


 俺がそう思ってると女子は話をつづけた。


「それにさ、三人曰くあんたとは一生関わりたく無いんだってさ、もう幼馴染だと思われて無いぞおまえ」


 噓……だろ……

 幼馴染なんだぞ……そんな簡単に……


「言っておくがお前に関してはこのクラスだけじゃなくて他のクラスまで広まってるから、間違いなくこの学校にお前の味方はいないからな?」


 味方……が……いない?

 何でだよ……


「はぁ、ここまで言っても理解出来てないみたいだな……ならもうハッキリ言うぞ?皆お前に佐野やあの三人の邪魔すんなって言ってんだよ?もう諦めて一人で大人しく生活してろって事だよ!」


 女子がそう言うと、クラスメイト達がぽつぽつとそうだそうだ!と言い始めた。


 俺はその瞬間前進と力が抜けて気付けば涙がぽつぽつ流れていた。


 俺が間違ってたのか……

 春香は、愛は、沙羅は……もう俺の傍には……

 俺はこの時に本当の意味で一人になった事を理解した。

 

 俺はただただその場で泣く事しかできなかった。

 三人との思い出が頭をぐるぐる回っていた。


 どこで間違ったのか……

 いつから狂っていったのか……


 もう頼れる人はいないのか……


 大切なものを多く失った俺は泣き続けた後、ふらふらしながら歩いて帰っていた。


 ――俺は次の日は休もうかとも思ったけど何とか学校に登校した。


 何かの間違いだと思って話しかけても相手にされない。

 ただただゴミを見る様な目で見られるだけ。


 女子生徒は勿論、男子生徒、他クラスで友達だった人達、誰に話しかけても同じだった。


 春香と愛と沙羅に至っては俺の事を全く見ないでいないものとしている。


 それどころか様々な所で俺の事をゴミだとか最低な奴とか悪口を言われていた。

 俺はだんだん周りの人達が怖くなってきていた。


 いつも通り佐野と三人はイチャイチャしてる……今日は皆の前でキスまでしてる……

 皆はそれをキャーキャー言って盛り上がっている。

 吐きそう……帰りたい……


 そんな生活が数日続いた俺は次の月曜日からは学校どころか家から出れなくなった。


「なんでだよ、なんで皆俺の悪口を言うんだよ……」


 学校の生徒は勿論、近所の親御さんや子供、すれ違う人達、全ての人から悪口を言われてる気がする。

 

「怖い怖い怖い……外に出るのが怖い……何でこんなことに……」

 

 布団を被りながら震えてそう言った。

 自分以外の全ての人が怖い。

 両親ですら信じられない。

 表向きは心配していてもどうせ心の中では悪口を言ってるはずだ。


「くそっ、くそーーーー!!!」


 どうしてこうなったんだよ……


「お……俺はっ……俺はただっ……さっ、三人……と……っ三人と幸せになりたかった……たっ……っただそれだけ……なのにっ……」


 学校でも家でも居場所がない……

 俺はどうすれば……


 俺はふと三人との思い出もアルバムが目に入った。


 春香と一緒にプールに行ったり、バーベキューを家族でして笑い合っている写真。


 愛と一緒に本を読んだり勉強を教えて貰って幸せそうにしている写真。


 泣いている沙羅を励ましている俺や一緒に笑顔で手を繋いで歩いている写真。


 見れば見るほど楽しそうな俺の表情や三人の表情。


「は、ははは」


 俺は思わず乾ききった笑い声が出た。


「そう言えば、三人の笑顔が俺に向けられてなかったな……ずっと」


 高校に入ってから直ぐに俺に笑顔を向ける事は無くなっていた。

 今更その事に気付いた。


 俺に向けられていた笑顔は全部佐野に向けていたのか……

 かなり前から三人の中に俺は居なかったのか……


 俺が全部三人と結ばれたくてやってた事なのに、逆効果だったのか……

 

「はは、はははは」


 終わりだ、もう終わりだ。

 俺の中で三人が全てだったんだ……

 三人が居ないなんてどう生きて行けばいいんだよ……


「くそっ……何で……」


 もう俺には何も残っていない……

 そう思うと更に苦しくなって来た。


「はっ……春香ぁ"……あい"ぃぃ……沙羅"っ、帰って来てくれよぉぉぉ……」

 

 戻りたい、仲が良かった頃に戻りたい。

 やり直して幸せになりたい。

 

 俺はそう思いながら昔の写真を見ながら眠りに着いた。

 昔の……四人で幸せだった頃の事を考えながら……


 起きたら全部なかった事になっている事を祈って……

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