77話 神谷傑と斎藤原斗

★神谷傑(side)


 俺は佐野の野郎たちが車に乗って何処かに行った後、斎藤の下に向かっていた。

 もう少し待ってから計画を実行しようと思っていたが、流石にもう我慢の限界だ。

 三人を奪われたショックがあの女の子に出会ってから少し和らいだのに、あんな事があったら我慢出来る訳が無い。


 幸いあの家には佐野と書いてあったからあいつの家は特定できた。

 あとは上手く斎藤達を誘導するだけだ。


 もう少しだ……もう少し……待っててくれ皆……



 俺は斎藤達の溜まり場に来た。


「ん?傑か……」

「あぁ」

「珍しいな、連絡も無しで来るなんて」

「忘れてたわ、すまん」

「別にいいぞ……それで、何か言いたいことでもあるのか?ちょっといつも以上に様子が変だぞ」


 斎藤は怪訝そうにそう聞いて来た。


「そうだな……」

「また彼女の事か?」

「あぁ」

「良く分からんが詳しく話せない理由でもあるのか?いつまでもそんなんじゃ俺達も空気が悪くなって困るんだけど……新しい人でも探せばいいじゃん」

「それは無理だ……だって彼女たちは幼馴染だから」

「幼馴染?それに何か問題でもあったのか?」

「うん、実はその幼馴染達がクソ野郎に奪われたんだ……」

「奪われた?それって無理矢理?それとも彼女達も合意の上?」

「絶対に無理矢理だ……恐らく何か弱みを握られて脅されていたんだろう……」

「弱み?ちなみに傑は彼女たちの弱みに心当たりはあるのか?」


 やっぱり女性の事になると慎重だな……めんどくさい……


「いや、正直無いが……その男は彼女たちが最も嫌うタイプの人間だ……だから彼女達から好きになるなんて事はありえない」

「そうか……まぁ、とりあえず分かった、それでどうするんだ?傑は」

「俺は彼女たちを取り戻して救いたい……でもその男は凄く強いんだ……」

「強いって、格闘技でもやってんのか?」

「いやそれは分からないけど、恐らく喧嘩を沢山して来たんだと思う……」

「ふーん、てことは不良って事か」

「そうだな……」

「面白そうだな……よし分かった俺がそいつと戦ってやろう」

「え?いいのか?」

「あぁ、だって彼女を奪われたんだろ?だったらそんな奴はぶっ潰さないとな」

「まじか!ありがとう!!」


 計画通りだ、このまま斎藤に佐野をぶっ潰して貰おう。

 ヤバい、思わずニヤけそうだ。


「んで、そいつをぶっ潰せば傑の幼馴染彼女達は帰って来るのか?」

「あたりまえだ」

「そうか、ならいい……それでそいつは何処で潰せばいいんだ?」

「それなら丁度今日そいつの家を見つけたんだ、だからそこで待ってれば絶対に会えるはずだ」

「なら、明日だな……この後俺は用事あるし」

「なぁ、原斗?それって俺達も行った方が良いか?」


 そう言ってその場にいた他の不良四人が斎藤を見ている。


「んー、相手は一人だろ?大丈夫じゃないか?俺一人で」

「まぁ、そうだよな、原斗が負ける訳無いか、今まで一人にしか負けて無いしな」

「あー、あいつか……アレは別格だよ……一対一だったら普通にプロ格闘家にも負けないだろアレ」


 そんな強い奴がいたのか……でもクソどうでも良いってそんな事は。


「あっそう言えばそいつって金持ちか?」

「確かかなり金持ちだったな……」

「そうか、なら尚更ラッキーだ……人の彼女を奪うようなクズだったら金を大量に奪ってもいいだろう」

「その辺は好きにしていい、俺はあいつさえどうにかなればそれ以外はどうでもいい」

「いやー良かったよ、最近金を巻き上げても良さそうなクソ野郎が全然居なかったから少しピンチだったんだよな」


 先週10万円巻き上げたって言ってただろ……

 何言ってるんだよ……


「それじゃあ、明日で良いか?」

「あぁ、まぁいいけど、留守だったりしないか?」

「それは……分からない……」

「まぁ、知ってる訳も無いか……仕方ない、折角大金を稼ぐチャンスだし朝から張り込んでみるか……」

「いいのか?」

「あぁ、どうせ俺はスマホでゲームしてるだけだしな、見張るのは傑だぞ」

「あぁ、その位はするよ」


 思ったより都合が良すぎる、余りにも上手く行きすぎだ。

 ラッキーとしか言いようがないな。


「一応言っておくけど、もし嘘とかついてたらその時は覚悟しておけよ」

「え?嘘?」

「あぁ、彼女たちが無理矢理じゃ無くて自分からそいつの所に行っているとか、本当は彼女や幼馴染じゃないとかな」

 

 どうせバレないだろ、佐野の野郎をボコして貰ってその後の事は適当に誤魔化せばいいよな。


「勿論、全部本当だよ……」

「なら大丈夫だ、任せておけ」

「あぁ、頼むよ……」

「それじゃあ、メッセージでそいつの家の住所を送っておいてくれ、明日の朝から行くぞ」

「分かった」

「じゃ、俺はそろそろ用事に行くわ」

「あぁ、じゃあな」


 そんな感じで俺もその場から離れた。


「フハハハハハ!!!!!」


 上手く行った……いや行き過ぎた。

 こんなに上手く行くとはな……

 ついに明日だ……

 とうとうこの時が来た……


 佐野の野郎がボコボコにされてる姿を想像するだけで、興奮する……


「フハハ……フハハハハハ!!!!!」


 俺は余りの嬉しさに周りを気にせず高笑いをしていた。

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