73話 神谷両親との話し合い

★矢野愛(side)


 今頃悪琉と真理ちゃんは楽しんでいる頃だろうか……


 私と沙羅と春香は香織さんと一緒に傑の両親と待ち合わせている場所に向かっている。

 場所の提供は真理ちゃんがしてくれたので、傑にバレる事はまずない。


 春香は……気合入ってるな……

 沙羅は少し不安そうだ……

 それにしても意外なのが香織さんだ……沙羅より緊張しているわね……


「香織さん……大丈夫ですか?」

「え、えぇ、ただ少し心配だなって思ってね」

「心配?ですか……」

「傑君とは1年位会って無いし……傑君のご両親とは仲が良いから余計気まずいのもあってね……」


 香織さんは少し困った様に微笑んだ。


「大丈夫ですよ……傑の事は私達が話すので香織さんは聞いていて思った事を言うだけで大丈夫ですよ。春香も沙羅もそれで大丈夫かしら?」

「そうだよ、おかーさん!おかーさんは別に当事者という訳でも無いからそこまで気負う必要無いよ!」

「うん、私もそう思いますよ」

「そっか……そうね、私は私の出来る事をするわ……」


 そう言う香織さんの顔から不安が消えたみたいだった。


 そんなこんなで待ち合わせ場所に着いた。

 そこは神宮寺家が経営しているカフェの一つらしく、今日は貸し切りだ。

 相変わらず凄いわね……


 中に入るとそこには傑の両親がすでにいた。

 父親が神谷学(かみやまなぶ)で母親が神谷燈子(かみやとうこ)だ。

 どちらも傑を凄く可愛がっていて凄く良心的な心の持ち主だ。

 勿論私達もお世話になっていた。


 私達は一通り挨拶を済ませて席に着いた。


「それじゃあ、話しましょうか……先ずは燈子さんや学さんの思って居る事や何があったかを聞かせて下さい」


 香織さんが珍しく凄く真剣な表情でそう言った。


「そうですね……私達も正直な所、良く分かって無いんです……」


 燈子さんがそう言うと続けて学さんが口を開いた。


「夏休み前から少し可笑しいなって思って居たんだが……夏休みに入って直ぐに急に金髪になったんだ……そしてどうやら不良とつるんでいると近所の方に聞いて酷く驚いたよ……」


 やっぱりほとんど何も分かっていない状況だったのね……


 春香は説明が上手く無いし……沙羅は見た感じ落ち着いて説明できそうに無い……

 香織さんに頼むのも良いが、香織さんは当事者じゃ無いから私が話した方が確実かしら……


「それについての原因の一端は分かると思います……」

「そうなのか!!!」

「愛ちゃん!是非教えて頂戴!!!」」

「少しショックな話かも知れませんが大丈夫ですか?」

 

 私がそう言うと二人はゴクッと唾を飲み込んで頷いた。


「まず私達が違和感を感じ始めたのは中学生の頃からです……」


 私は中学生の終わり頃から少し束縛?だったり性格が変わった事を話した。


「これに関しては理由は全く分かりません……そしてこれから話すのは高校に入ってからの話です……」


 そう言って私は傑が男子に私達の事を勝手に婚約者と言ったり、性行為をしたと言いふらしていた事を教えた。

 学さんは凄く青白な顔になって、燈子さんは「そんな……」と言って酷く落ち込んでる。


「そして傑が大きく変わった理由ですが……恐らく私達にあります……」

「え?愛ちゃん達に?一体それは……」

「少し言い憎いのですが……私達に彼氏が出来たからです……」

「「え?」」


 二人は凄く驚いている……

 

「それって……いや……なるほど……」


 学さんがそう言って俯いたあとに燈子さんが口を開いた。


「えっと、それじゃあ……幼馴染の愛ちゃん達が取られてぐれたって事?」

「私達の考えではそうなります……婚約者だと吹聴する位ですし……」

「そう……なのね……でも三人は少なからず傑に好意を持っていたんじゃ……」

「そうですね……はっきり言うと私も春香も沙羅も傑に好意は有りました……ですがあんな酷い噂を吹聴されて好きで居続けられると思いますか?」


 本当はそれだけが理由じゃない……私は別に好きだった訳では無いが好意はあった。

 それに傑に対しての想いが冷めるような事はもっとあったが、これ以上追い打ちは掛けられない……


「そうね……女性の立場から言わせてもらうと……絶対に許せないかな……」


 燈子さんは肩を落としてそう言った。


「それでは、傑を元に戻す方法は無いって事なのか……」


 学さんは恐らく今日で解決の糸口がつかめると思ったのだろう……

 それなのに解決出来ないと言ったようなものだ……落ち込むのも無理は無い……

 言ってしまえば私達が傑と付き合えば簡単に解決出来るのだろう……

 でもそれは絶対にあり得ない……悪琉という男に出会ってしまったら悪琉以外の男と付き合うなんて想像もしたくない……

 それは春香と沙羅も絶対に同じ気持ちなはずだ……


「お二人は最近……傑と会話を出来ていますか?」

「いや、全然だ……口を聞こうとすらしないな……」

「私の方もおなじね……」


 分かってはいたがかなり大変そうだな……


 その後空気が重くなり皆が無言になってしまった……

 そして暫くして香織さんが話し出した。


「燈子さんや学さんが悩んでいる事は分かりますが……ですが今はお二人が傑君の事を注意深く見張っていて欲しいんです……」

「そうですね……」

「私も元通りの傑君に戻って欲しいとは思っていますが……今すぐは難しいと思うので今は皆で見張って、チャンスがあれば説得をする形にしましょう……」

「そうするしかなさそうですね……」


 まぁ、そうなるわよね……

 正直私達が現実的に取れる解決方法なんて無いし……

 今の傑は話したところで全く聞かないだろうしね……

 

 何か気の利いた声は掛けてあげたいけど、二人からしたら気休めにしかならない言葉しか浮かばない……


「お二人とも……すいませんでした」


 私はそう言って頭を下げた。

 そうすると私が頭を下げた理由を沙羅と春香は気付いたらしく続いて頭を下げた。


「え?何で三人が謝るんだ……」

「そうですよ……三人は全く悪く無いじゃないですか……」


 二人は困惑している様だった。

 私達も謝る必要はない事は分かっている……

 でも少なからず傑がああなってしまったのは私達に原因がある。

 

 いわばこれは私達の罪悪感から来る謝罪だ……


「そうですか……私達もタイミングがあれば傑と話して見ます……」


 そんな時が来るかは分からないが、もしその時が来たらしっかりと話そう……

 

「「ありがとう……」」


 傑のご両親が力なく笑ってそう言った。



 私達は解散した後歩きながら話していた。


「愛ちゃん……ごめんね……私何を話せば良いか分からなくなって愛ちゃんに全部任せっちゃったよ……」

「私も同じだよ……気合い入れて挑んだは良いけど、いざとなると考えがまとまらなかったから……」

「私もごめんなさいね……結果として愛ちゃんに任せっきりになっちゃって……大人なのに……」


 二人ともそんな事を気にしなくていいのに……

 それに香織さんまで……


「大丈夫よ……私達は助け合って行こうって前に決めたんだからね……春香も沙羅も香織さんもこんな事位でそんなに落ち込まないでよね……」


 私は自分で言って少し気恥ずかしくなって、顔を反らしてそう言った。


 そんな私を見て三人はクスッと笑って言った。


「そっか、そうだよね……ならごめんねじゃなくてありがとうだね!愛ちゃん」

「そうだね、ありがとう愛ちゃん」

「凄く助かったわ、ありがとう愛ちゃん」

「え、えぇ……この位当然よ」


 三人が元気になってくれて良かった……


 それにしても、傑を元に戻す方法は結局分からなかったな……

 傑のご両親は凄く辛そうだったし……

 何とか出来れば良いんだけど……私達に出来る事は無いのよね……


 ほどんどあり得ないとは思うけど。時間が解決してくれるといいのだけど……


 私はそんな事を思いながら家に帰って行った。

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