67話 愛との一夜

 俺と愛は玄関で啓二さんと恵さんに見送りしてもらっていた。


「それじゃ、ありがとうございました」

「うん、またいつでも来ていいからな」

「はい!また来ますね!」

「悪琉君、ちょっと良い」


 恵さんが手招きをしてそう言って来たので俺は恵さんに近づいた。

 近づいたら恵さんは俺の耳元で小さく呟いた。


「ちゃんと避妊はするようにね」


 それを聞いた俺はピクんと体が跳ねて、後退った後に恵さんの顔を見たら、からかってるとかじゃ無くてとても真剣な表情だった。

 それを見た俺は小さい声で「勿論分かってますよ……」と恵さんに伝えた。


 俺がそう伝えると恵さんは「そう、なら大丈夫ね」と言って送り出してくれた。


 その後愛に何を話していたのか聞かれたが、何となく恥ずかしくなったので適当に誤魔化した。




 俺と愛は家に着いたので、隣に座って話していた。


「それにしても、ホント良く今日泊まる事を許されたよな……俺的にはもう少し後になると思ってたよ」

「そうね……お母さんは話して分かると思うけど、厳しい所もあるけど私の意見を尊重してくれる人だからね……」

「確かに厳しそうだけど、愛の事を大切にしてるんだって感じ取れたしな」

「お父さんに関しては……あんな感じだけど、まぁ、お兄ちゃんが悪琉の事を気に入ってるっていうのも含めて、今日話して私を任せても大丈夫だって思ったって言ってたわよ……」

「そういえば拓海さんってさぁ、俺達の関係って知ってるのか?」

「え?お兄ちゃん?それだったらとっくに……何なら一番最初に話しているけど……それがどうかしたのかしら?」

「いや、そういえば拓海さんから愛の事を聞かれた事無いなって思ってな」

「まぁ、お兄ちゃんだからね……結構陽気な性格だけどそういった話は意外と陰から見守るタイプなのよ……それでもちゃんと私達の事は応援してくれているから大丈夫よ……」


 それは意外だな……拓海さんだったら揶揄って来ると思ってたんだけどな……

 でも応援してくれてるし、今度ちゃんと話さないとな。


「そうなんだな……今度ちゃんと話さないとな」

「そうね……」


 少し静かな時間が続いた後。


「ねぇ、悪琉?」

「どうした?」

「その……私ってそう言った知識がほとんどないのよね……」


 愛が少し頬を染めながらそう言って来た。


「えっと、それって……やっぱり……」

「悪琉が思っている事で合ってると思うわ……気になっていてもどうしても恥ずかしくてね……調べたりもした事無いの……春香達に話は聞いてるけど……」

「そうなんだな……まぁ、何の問題もないぞ?」

「だから、その……春香や沙羅みたいに上手く出来ないからさ……」


 えっと、もしかして春香や沙羅と比べられると思ってるのか?

 そんな事絶対にあり得ないんだけどな……

 大体上手さなんて気にならないし……


「愛が何を気にしているのか大体分かるけどさ……気にしなくて大丈夫だぞ?」

「そう……」

「大体初めてなんだから上手くなくてもおかしくなんてないぞ?ていうか俺に任せてくれていいし……初めてなんだからさ……」


 俺がそう言うと、愛は顔をさっきより赤くて立ち上がって、照れくさそうに慌てて言った。


「わっ、分かったわ……そっ、それじゃあ、お風呂に入って良いかしら?」

「あぁ、さっき沸かしておいたから大丈夫だぞ」

「なら行ってくるわね……」


 そう言って愛は風呂に向かった。



 暫くして愛が帰って来たのだが……滅茶苦茶顔が真っ赤になっていた。

 

「えっと、愛?大丈夫か?」

「な、何がかしら」

「顔真っ赤だぞ?のぼせたか?」

「そっ、そんなんじゃ無いから大丈夫よ……ほら悪琉も早くお風呂に行って」


 そう言って愛に背中を押されて部屋から出された。


 シャワーを浴び終えて服を着ながら俺は考えていた。


「愛があんな事を考えていたとはな……」


 初めてなんだから、余計な事を気にしないで任せてくれていいのに。

 まぁ、愛は自分より春香や沙羅を優先する性格だし、俺の事をよく考えてくれていたんだろうな……


 風呂から帰って来た時も顔が真っ赤だったし……もしかしたら滅茶苦茶緊張してるのかな……

 確かにのぼせるほど時間も経って無かったしな……


 でも、沙羅の時もそうだったし……改めて大丈夫って聞くのは野暮だったかな?

 

 俺はそんな事を考えながら部屋に帰って来た。


 部屋に入ると愛はこちらに背を向けてスマホをいじっていた。


「愛?あがったぞ?」


 俺がそう声をかけたら体がビクっと動いて慌ててこちらを向いた。


「えっと、なにかあったのか?」

「い、いえ、なっ、何もないわよ」


 スマホを慌てて隠したし……何も無い事は無いと思うが……


「そうか?だったらいいけど」


 その後愛は深呼吸をして言った。


「悪琉……正直に言うと今私……いままでにないくらい心臓がバクバクしててちょっと苦しいの……落ち着かせようとしても無理なの……」

「あっ、あぁ」

「だからさ……その……早く……は、始めましょう……」


 愛は顔を真っ赤にしてそう言って来た。


「えっと、もういいのか?」

「うん……いいと言うか……そうしないと心臓がね……始めてしまえば、緊張も無くなるって聞いたから……」


 さっきまでスマホをいじっていたのはその事でかな?

 愛の為にももう少しゆっくりと始めようと思ってたけど……その必要はなさそうだな……


「そっか……なら始めよっか……」


 俺がそう言うと愛は何も言わずに軽く頷いたのでそのまま唇を奪って押し倒した。



「ふわぁーー」


 俺が朝になって目覚めると愛はベッドに居なかった。

 どこに行ったのかと思って探してみたら、お風呂に入っている様だった。

 ご飯はどうするか聞こうと思ったがやっぱり上がるのを待ってからにしようと思い、部屋に戻った。


 それにしても愛はとにかく声がエロかったな……

 深くは語らないが……動きこそ大人しかった、というよりはずっと俺がリードしていたんだが……声がエロ過ぎて凄く興奮しちゃったな……


 そんな事を考えながら部屋で待っていると愛が帰って来た。


「おっ、愛おはよ」


 俺が笑顔で挨拶をしたら、愛は凄く動揺して顔を赤くしながら俯いて言った。


「おっ、おはよう……」

「えっと……大丈夫か?」

「なっ、何がよ……」

「何か凄くよそよそしくなってるぞ?」

「そっ、そんな事……」

「じゃあ、顔見せてよ?」

「えぇ、でも少しはっ、恥ずかしくて……」

「そっか……じゃあ」


 俺は恥ずかしがっている愛の手を取って抱きしめた。


「これで顔を見なくても大丈夫だぞ?落ち着けるまでこうしてていいか?」

「えぇ……ありがとう……」


 俺は衝動的に抱きしめてしまっていたが……良く考えたら今パンツしか履いて無い上に、風呂にも入っていなかった事を思い出した。

 汗臭くないかとか思っていたけど、愛が抱きしめる力が強くなったのでそのまま続けた。


 暫くして愛が力を緩めて離れて言った。


「もう、大丈夫よ……大分……いやかなり落ち着けたわ」


 そう言う愛はいつも通りの愛だった。


「そっか……だったら良かったよ……それより……折角風呂に入ったのに抱きしめちゃって大丈夫だったか?」

「そんな事気にしなくて良いから……それより悪琉も早くお風呂に行って来なさいよ……」

「あぁ、じゃあそうするな……あっ、その前にご飯はどうする?俺が作ろうか?」

「悪琉も疲れてるだろうし……」

「んー俺は大丈夫だけど……それじゃあ出前でも取るか?」

「そうね……そうしましょうか」

「愛は何が良い?」

「私は何でも大丈夫よ……悪琉が食べたいので良いわ」

「んー、じゃあ寿司で良いか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「んじゃ、頼んでから風呂に入るな」

「分かったわ」


 そう言って俺は出前を頼んでから風呂に向かった。



 お寿司を二人で楽しく食べた後、俺達は駄弁っていた。


「なー、愛?」

「何かしら?」

「今度二人でデートに行こうぜ……今日でもいいけど、どうせだったら改めてちゃんとしたいしな」

「そう言えば付き合ってからデートをした事無かったわね……」

「あぁ、だからさ、ちゃんとデートしたいしな」

「そうね……私的には皆で遊ぶのも楽しいけど、確かに二人でデートもいいわね」

「あぁ」

「ねぇ、悪琉?これからは私からも誘っても大丈夫よね?……」

「当たり前だし……愛はもっと甘えてくれていいし、頼ってくれて良いんだぞ?、前よりはかなり良くなったけどさぁ、やっぱりまだ遠慮してる所があるよな?俺はもっと愛に甘えられたいし、頼られたいからさ……」

「そうね……私ももっと自分に素直になってみるわ……」

「あぁ、それが良いよ」


 俺がそう言うと愛が動き出して俺にキスをして来た。

 その後愛は照れながら言って来た。


「そう言えば私から悪琉にキスした事はなったわよね……これは自分に素直になる一歩としてよ……」


 確かにそうだな……

 昨夜は例外として考えてみたら毎回俺からだったな……

 

「そう言えばそうだな、これからは愛の方からもどんどんしてくれて良いからな……ていうかそうしてくれたら俺も嬉しいよ」

「そ、そう……分かったわ……楽しみにしててよね……」


 俺の言葉に照れてしまいながらも強気にそう言って来る愛がとても愛おしく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る