62話 神谷傑の変化

★矢野愛(side)


 夏祭りから2日経った今日、春香に誘われて春香と沙羅と私でカフェに来ていた。

 ちなみに香織さんは仕事で真理ちゃんは家庭での用事があるとの事だった。


「それで、今日はどうしたの春香?」

「んー私は定期的に女子会したいなーって思って、皆で遊びたくなって誘ったんだー」

「そうだね、定期的に遊ぶのは私も賛成だな」

「でも、皆で遊ぼっておかーさんに行っても年が離れてるからちょっと困った顔になるから悩んでるんだよね」


 確かに娘と同い年の子達と遊ぶとなると、気を遣っちゃうわね……

 私達がそんな事を思わなくても良いと思っていても、私が香織さんの立場だったらそうなるものね……

 これは私の考えなのだが、香織さんからしたら同じ恋人を持ったとしても春香は自分の子供だ。

 それに私と沙羅も小さい頃からお世話になっていたから、その感情も合わさって尚更そう思うのだろう……


「そうね……でも香織さんはしっかりとした大人だから、遊ぶと言っても困るのは当然かもね……」

「私もそう思うかも……香織さんを見て感じてたんだけど、香織さんは私達の事を一つ後ろから見守りたいんじゃないのかな?」

「んーやっぱ皆もそう思うんだねー、実際それとなく聞いた時にそんな風に言ってたんだよね……悪琉とイチャイチャしないの?って聞いたら高校卒業後って言ってたし」

「まぁ、香織さんがそう言ってるなら私達はそれを尊重するべきかもね……」

「春香ちゃん的には香織さんは私達に気を遣ってそう言ってるように感じた?」

「んー、正直そんな感じじゃなくて本心からだったかも」


 私達だけで話してもしょうがないかもね……

 結局の所香織さん次第だし……


「私達だけで考えても仕方ないかもね……今度ちゃんと真理ちゃんも呼んで香織さんと5人で女子会を開いて話し合いましょ……」

「うん、そうだよね……」

「んーまぁ、いい機会だしね……そうしよっか」

「そうね」


「所で愛ちゃん、明日はどうするのかな?」


 春香は急にニヤニヤし出してそう言った。

 正直両親は認めてくれると思う。

 というか悪琉の事は定期的に話しているから、既に認めているかのかも……

 

 どうすると言われたら、それはまぁ……

 だけどその前に話すのはちょっと、いや、かなり恥ずかしいわね……


「後日ちゃんと話すから今は許して頂戴……」

「ははは、分かったよ愛ちゃん、頑張ってね!」

「愛ちゃん、悪琉君に任せてればなんとかなるから気楽にね!」

「そ、そうね」


 私は少し乱れた気持ちを落ちつかせる為にコーヒーを口に入れて、窓から外を見た。

 その瞬間私の視界に凄いものが見えて思わずコーヒーを吹き出しそうになった。


「ゴホッゴホッ」

「え?どうしたの愛ちゃん?そんなに慌てて」

「何かあったの?」


 私は言葉に出来なかったので指を指した。


「何?外に何か……」

「「え?」」


 外を見た春香と沙羅は驚きの余り口が塞がってない……

 それもそのはずだ……だって窓の外には不良グループが歩いていた。

 しかもその中に私達には見慣れた人物がいたのだ……

 髪の毛を染めた傑が……


 夏休みに入って一週間……この期間で何があったのか……

 以前から関りがあったとは思えない……だって傑は不良を特に嫌っていたから……


 様子を見るにまだ完全に馴染んでいる訳ではなさそうだ。

 しかし夏休み前よりも明らかに目つきが鋭い……


 傑達が見えなくなっても私達は暫く無言だった。


 暫くして春香が話し出した。


「二人はどう思う?」

「正直言って分からないわ……」

「私も……」

「そうだよね……」


 当たり前だ、正直に言って今の傑は前とは別人と言っても良い位だ。

 分からない事が多すぎて考えがまとまらない。


「ていうかさ……もしかしたら別に不良グループじゃ無いって事は……」

「無いわね……あのリーダーっぽい人はここらじゃちょっと有名じゃない……」

「まぁ、そうだよね……聞いてみただけだよ……」

「悪琉君も割と有名だったけどあの人も結構だよね……中学生の頃、私達と同じクラスの男の子がカツアゲされたって言ってたし……」

「そう言えば、悪琉って喧嘩はあったけどいじめやカツアゲみたいな噂は一つもなかったわね……」

「今は悪琉の話は止めよ……今の悪琉は不良なんかじゃないし……」

「それもそうね……」

「「「はぁー」」」


 私達は三人で大きくため息をついた。


「傑のご両親は大丈夫かしら……」


 私はふと思いそう言った。

 傑のご両親は凄く優しい方達で、私達の事も可愛がってくれていた。


「そうだね……やっぱり私達のせいなのかな……」

「いや、でも私達より先に変わったのは傑だよ?沙羅ち?」

「そうね、確かに傑のご両親の事を考えると思う所が無い訳では無いけど、だからと言って私達が我慢するのは違うわね」

「そうだね……」

「でも、近いうちに傑のご両親と話す機会を作った方が良さそうね」

「うん、多分一番混乱しているのは傑の親だろうしね」

「でもさ、傑君にばれたら大変な事になりそうじゃない?」

「勿論傑には内緒で会うわよ……私達の誰かの親に協力してもらってね」

「その役は私のおかーさんが良いね、何ならおかーさんも関係者だしね……」

「そうね、悪琉と香織さんの関係は話さなくても良いと思うけど、それが一番スムーズに行きそうね」

「まぁ、後でグループチャットか何かして話す必要があるね」

「今日はもう遊ぶ雰囲気じゃ無さそうだね……」

「そうね……」


 そう言って私達は解散した。



★神谷傑(side)


「クソッ!!!」


 俺は夏休みになって一人で歩いていた。

 どうにかして3人を自分の物にしたいのだが、どうしても方法が思いつかない。


 力づくでとか、襲っちゃう、とかも思い浮かんだがそれはギリギリで思い止まった。

 流石に犯罪に手を染める勇気は無い……


 そんな訳で俺はイライラしながら歩いていた。


(ドンッ!)


 俺は誰かにぶつかった。


「チッ」


 舌打ちをして上を見上げたら。

 ここらじゃちょっと有名な不良の斎藤原斗(さいとうはらと)だった。

 俺は冷や汗が凄かった……


「おい!」

「は、はい……なんでしょうか……」

「お前ゲームは得意か?」


 え?ゲーム?何でゲーム?

 ゲームは佐藤や坂口に誘われて時々するけど……

 2人曰く才能はあるって言ってたけど俺的にはゲームの才能とかどうでも良いと思っていた。


 そう言えば中学生の頃沙羅にも誘われたが、興味無かったからパスした事もあったな……

 って今はそんな事考えてる場合じゃない……


「えっと、ある程度は……」

「そうか、なら付いて来い」

「どこにですか?」

「ゲームをするんだからゲーセンしかないだろ?」


 マジで言ってんのか?

 何で俺が……

 まぁ、断れる訳無いが……


 俺は斎藤に連れられてゲーセンに着いた。


「えっと、何で俺を……」

「ん?たまたまゲームを一緒に出来そうな奴を探していた所でお前がいたからだ」


 そんな理由で誘わないで欲しい……

 

 その後俺は一緒にゲームをやらされたのだが、斎藤は意外と不良っぽくなくちょっと楽しかった。


「お前ゲーム上手いんだな、何て名前だ?」

「えっと、神谷傑です……」

「傑か、付いて来い」


 そう言って連れられたのは斎藤達の溜まり場だった。

 明らかに不良グループって感じでチャラい男しか居なかった……

 何で連れて来られたんだ?


「こいつは傑で今日から仲間な」


 は?

 仲間?

 俺は断りたくても断れなくてそのまま1週間が経った。


 不良グループと一緒に居て分かった事がいくつかある。

 

 このグループはまず女遊びをしまくっている。

 無理矢理したり薬とかを使うって訳では無いけど、遊びまくっている。

 それぞれ女子は自分で捕まえているらしい。


 次に、喧嘩やカツアゲを良くしていた。

 気に食わないやつは殴ってカツアゲをする、そんな感じだった。


 俺は流石にこの二つの事には全く参加はしなかった。

 寧ろ最初は恐怖を覚えた。


 しかし彼らは仲間にはかなり優しかった。

 そんな事もあり7日が経った今はもう恐怖心は無かった。


 寧ろ金髪に染めて少し馴染んでいた。

 そして斎藤達と一緒にいたら失いつつあった自信を取り戻していた。


 俺は密かに欲望が湧いて来ていた……

 斎藤達を利用して沙羅達を取り戻せるんじゃないかと……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る