52話 3人目

★相沢沙羅(side)


「悪琉君……」


 私は枕に顔を埋めながら悪琉君の事を考えていた。

 傑君の事があって感傷的になっていたとはいえ、流石にやりすぎだよ私……

 自分からキスを求めたし…それだけじゃ無くて押し倒しちゃうなんて……


「うぅー、恥ずかしい……」


 私あの時どんな顔していたんだろう……

 絶対真っ赤な顔だったよね……


 それに春香ちゃんと愛ちゃんに聞かれるなんて……

 帰り道なんて春香ちゃんの発言もあってまともに目も合わせられなかったし……

 

「私…悪琉君と恋人になったんだ……」


 嬉しい……

 恥ずかしいけど勇気だして良かった。

 春香ちゃんや愛ちゃんも一緒だし。

 悪琉君に出会えて本当に良かった。

 

 それにしてもキスってあんなにドキドキするんだね……

 暖かかったな……

 一回しちゃったんだし…これからはもっとキスしても大丈夫だよね……

 恥ずかしいけど…それ以上に頑張りたい。

 あの温もりを感じたい。


「それにしても悪琉君ってなんでか私達の事凄く良く理解しているんだよね…それこそ幼馴染の傑君よりも……」


 今回だって私がなんで悲しんでるのか分かっててくれたし。

 いつも欲しい言葉をくれる。

 気付けば私達を助けてくれている。

 だから安心するし一緒に居たいって思える。

 それにどんな事があっても守ってくれるし。

 気を遣えて、凄くカッコいいし……


 考えれば考えるほど悪琉君の良い所が浮かんでくるな……


「ほんとに不思議な人だよね…悪琉君って」


 私は今日、悪琉君の事を大切にしたいと改めて思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その夜、俺は報告出来ていなかった事をLIMEで皆に伝える事にした。


『皆、神宮寺真理の事を話したいんだけどいいか?』

『うん!私は聞きたい』

『勿論大丈夫よ』

『私も聞きたい』

『それじゃディナーに行った時の事を説明するな』


 俺は3人に神宮寺真理とのディナーについて話した


『なるほど、まぁ、気になる事は色々とあるけど…とりあえず神宮寺さんって可愛かったの?』

『え?そんな事気になるのか?』

『寧ろそれが1番気になるよ…ね?愛ちゃん沙羅ち』

『そうね気になる…かな』

『そうだね、凄く可愛いって有名だし……』

『えっと、正直に言ったら凄く可愛かったと思う……』


 下手に嘘をつきたく無いから俺は素直に答えた。


『ふーん、それってやっぱり私達よりも?』

『いやいや、そんな事はないよ!3人と同じ位可愛かったよ!』


 大丈夫かな?3人と同じ位って言い方余り良くなかったか?


『神宮寺さんと同じ位可愛いっていうのもちょっと失礼な気がしちゃうけど…ありがとう』

『そうね、見た事は無いけれど、神宮寺真理っていえば凄く人気のある人だからね』

『ふーん、じゃあもう1つ聞いて良い?悪琉的には神宮寺さんの事…好きになれそう?』


 好きになれそうか……

 初対面の印象は凄く良かったから、何も考えないで良いのであれば恐らく好きになれると思う……

 

 しかし考える事が多い今は即答は出来ない……

 

『正直好印象ではある…けどまだ分からない……』

『そっか、でも私達に遠慮とかは要らないからね…悪琉が好きになれるなら大丈夫だからね』

『そうだな、でも俺は3人と香織さんにも真理に会ってもらってから考えたい』


 俺がそう言うと少し無言が続いた。


『そうだ!悪琉君、神宮寺さんって私達と会いたいって言ってくれてるんだよね?』

『そう言ってたな』

『私も会ってみたいなー、そういえばお嬢様って感じだったの?』

『お嬢様と言えばお嬢様っぽかったかもな。でも傲慢さとか嫌な感じは0だったな。寧ろかなり話しやすかった』

『そっかーそれなら私達も仲良くなれそうだねー』

『私はちょっと楽しみだな、神宮寺さんに会えるって』

『普通に生きてたら話す事すらあり得ない人だものね』


 改めてそう言われたらそうなんだよな……

 俺の家ですらお父さんが知り合いじゃなかったら話す事が難しい立場だしな。


『まぁ、気楽で大丈夫だと思うぞ?真理は立場とか気にしなそうだったし』

『ならいいけど…緊張はしちゃうわね』

『そうだね……』

『えー?何で緊張するの?』

『春香は流石と言って良いのかしら』

『はは、春香ちゃんらしいね』


 春香はいつでも春香だな。

 でも今回は凄く頼もしいな。


『悪琉は次いつ会うの?神宮寺さんと』

『えっと、今週の土曜日だな』

『神宮寺さんがどんな子かは大体聞いたけど、神宮寺さんといる時は私達の事よりも神宮寺さんとちゃんと向き合ってあげてね』

『そうよ、神宮寺さんの事しっかり見てあげなさいよ』

『頑張ってね悪琉君!私達に気なんか使わないでね』


 そうだよな…春香と愛と沙羅と香織さんを言い訳に真理としっかり正面から向き合えて無かったな……

 そんなんじゃ真理に失礼過ぎるよな……


『そうだな、ありがとう春香、愛、沙羅』


 俺はもっと前向きに真理と関わって行く事を心に決めた。




 それからあっという間に数日が過ぎて土曜日の朝になった。


 ここ数日は傑が隙あれば沙羅に絡みに行ってたらしい。

 どうやら何回も遊びに誘われたり、夏休みになったら海に行こうと言われたり、昔みたいに花火に行こうと言って来ていたらしい。

 しかし沙羅は俺と付き合う事になったから前よりもしっかりと断れるようになったらしい。


 それでも引かない傑に愛と春香が会話に割り込んで終わらせる。

 そんなやり取りが何回もあったらしい。

 

 だから愛と春香が常に沙羅と一緒にいるようにしていた。

 それからの傑は近づきたくても近づけなかった。

 でも視線はずっと沙羅の方にやっていてかなりうざかったらしい。


 それでも金曜日に愛や春香が一緒に居ても話しかけるようになって来たから、傑に沙羅と俺が付き合い始めた事を教えたらしい。

 3人はその時の傑の顔は見ないで立ち去ったらしいから、どんな顔をしていたのか分からないらしいけどまぁ、想像しやすいよな。

 その後は声をかけて来なかったらしい。

 沙羅まで俺と付き合い始めちゃったら傑がどんな行動してくるか分からない。

 暴走しなきゃいいけど……


 形としては傑から3人を奪ったみたいだけど、傑より絶対に俺の方が3人を幸せにできる。

 それに選んだのは3人だし、そもそも傑じゃ3人を守れないだろう。

 俺は少し罪悪感を感じる事があったが、今じゃこの選択が絶対に正しかったと思っている。

 まぁ、なんだかんだ言っても俺が3人の事を心の底から愛してるから渡したく無いっていうのもあるんだけどね。


 もう少しで夏休みだし何も無いように注意しないとな……


 でも今は真理の事に集中しないとだな。

 

「よし!準備するか」

 

 俺は真理とのデートに向けて準備を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


★神谷傑(side)


「はぁ?沙羅が佐野と付き合い始めた…だと……」


 どうなってるんだよ……

 なんでだよ……

 いつの間に……


「半年前までは皆、俺の隣に居たのに……」


 俺が何したって言うんだよ……

 沙羅と愛は佐野と何処までしたんだ……

 もしかして春香の様に……

 ふざけるなよ……


「――くそがーーーふざけるなよおぉぉーーーー!!!」


 俺はベッドの上で叫んだ。

 春香も愛も沙羅も始めては全部俺が貰うはずだったのに。

 何で全部あいつに奪われなきゃいけないんだよ


「な、何でっ……っくそ……」


 涙が止まらない――


「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーひぐっ……何でっ……っ愛……春香っ……沙羅っ……くそっ……っ絶対取り返してやるっ……」


 1時間かけて泣き続けてやっと泣き止んだ。


 泣き止んだ傑の目は完全に諦めた目では無かった。

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