51話 お見舞い(春香、愛、沙羅)

「ふわぁー」


 香織さんが帰ってからいつの間にか寝ちゃってたな。

 もうほとんど熱は無くなってるな。


「香織さんには感謝しないとな」


 (ピコン)

 LIMEが鳴った。


『悪琉、起きてる?』

『あぁ、起きてるぞ』

『何か欲しい物ある?』

『あー、飲み物を買って来てくれたら嬉しいかな』

『おっけー、後家に着いたら鍵開けて入っても大丈夫?』

『あぁ、その為に鍵をあげたんだからな』

『分かった』


「寝てる間に汗かいたし、シャワーだけ浴びるか」


 俺はシャワーを浴びて部屋に戻った。


「悪琉ー来たよー」


 そのタイミングで下の階から春香の声が聞こえた。

 相変わらず元気だな…春香は。


 (ガチャ)

 ドアが開いた。


「悪琉元気?」

「あぁ、かなり良くなったぞ」

「顔色は悪くないわね」

「熱ももう無いし明日には学校に行けそうだな」

「良かったわ」


 なんか沙羅が元気ないな…何かあったのか?


「なぁ、沙羅?元気無いけど大丈夫か?」

「え、あ、うん大丈夫だよ」


 沙羅は明らかに無理して笑顔を作ってそう言った。


「えっと、沙羅?悪琉に話してもいい?」

「う、うん」

「それじゃあ、私から説明するわね」


 そう言って愛は話し始めた。


「なるほど…それで沙羅は落ち込んでいるのか……」

「そうなの、だからさ、悪琉に沙羅ちを慰めて欲しいの」

「私達は少し席を外すから」

「え?席を外す意味はないんじゃ……」


 春香がウィンクをして愛と部屋から出て行った。

 俺と沙羅だけになった部屋は凄く静かになった。


「大丈夫か?沙羅」

「うん」


 沙羅は座りながら俯いてそう言った。

 

「思っている事を言って良いんだぞ?気を遣かわないで良いから」


 俺がそう言うと、沙羅は鼻水を吸いながら小さい声で話し始めた。


「こ、怖かった」

「怖かったのか?」

「うん…最近分からないの」


 沙羅が思い詰める事と言えば傑関係の事かな?


「分からないって…傑の事だな?」

「うん、傑君がなんで優しく無くなったのか…昔は凄く優しかったのに」


 沙羅はそう言った後、更に泣き始めた。


「……っ、昔との違いにっっっ戸惑うばっかりでっ……どっ……どうしたらいいか分からないのっ……」


 なるほど、優し過ぎる沙羅だからこそ、いや、傑の事を一番好きで憧れていた沙羅だからこそ、その憧れていた時との違いに困惑していたのか……

 きっと怖いんだろうな…昔の思い出が崩れるのが……

 正直難しい話だな……


「そっか…それで辛い思いをしていたんだな……その感情が今日の傑の行動で爆発しちゃったんだな……」

「う、うんっ…今日の傑君の声がっ……顔がっ……すっ……凄く怖かったのっ……」


 そう言った沙羅が隣に座っていた俺の胸に寄りかかって来た。

 俺はそっと頭を撫でながら抱きしめた。


「大丈夫だよ沙羅…俺が、俺達がずっと一緒に居るから…春香や愛だってずっと沙羅の味方だからさ……」

「うっ……ぅぅ……」

「怖い時や不安な時、困った時、いつでも話を聞くから…助けるから」

「……っっ」

「大丈夫だよ」


 俺はその後も沙羅の頭を撫で続けた。

 数分経って沙羅は泣き止んだ。


「ごめんね、悪琉君」

「大丈夫だぞ、泣きたい時は泣いた方が良い」

「いつも悪琉君には助けられてばっかだね……」

「そうか?でも俺は自分がしたいからしてるだけだしな…あんまそんな感じしないけどな」

「ふふ、謙虚な所も悪琉君らしいね」

「そ、そうか」


 沙羅が笑顔でそう言って来た。

 さっきまで泣いていたせいか凄く色っぽくて少し驚いてしまった。


「ねぇ、悪琉君」


 笑顔だった沙羅の顔が急に真剣な顔になった。

 

「どうした?」

「さっきずっと一緒に居てくれるって言ったよね」

「あぁ、言ったぞ」

「じゃあ、証拠が欲しい……」

「証拠?」

「うん、そう」


 そう言って沙羅は顔をこっちに近づけて目を閉じた。

 傑の事もあり、今の沙羅は冷静じゃない……

 キスを求められてるのは明らかだけど……


 いや、だからといって拒否する事も無いか……

 沙羅が求めてくれるなら俺は受けるだけだ。


 俺はそんな事を思い沙羅に口付けをした。

 その後、沙羅に押し倒されて唇が離れ目が合った。

 沙羅の顔は真っ赤になっていた。


 凄く勇気を出してくれたんだろうな……

 俺はそのまま沙羅を抱きしめた後に再び唇を重ねた。

 数分間舌を交わらせ続けた。


 唇を離して再び目を合わせた。


「なぁ、沙羅」

「はい」

「順番は逆になったけど、俺達付き合おう…何があっても絶対に守るよ」


 俺がそう言うと沙羅は笑顔になって涙を軽く流して答えた。


「はい、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 俺達がそんな会話をしていたら廊下から大きな音がした。

 

「なぁ、沙羅…多分あの2人ずっと聞いてたな……」

「そ、そうだね…多分聞いてたかな……」


 沙羅は聞かれていた事に気付いて急に恥ずかしくなったのか、すごい勢いで俺から離れた。

 俺は起き上がってドアを開けた。


「なぁ、2人共?何してるんだ?」


 俺は少し呆れた顔でそう言った。


「いや、あの、えっと」

「な、何もしてないわよ」


 春香も愛も狼狽えていた。


「はぁ、まぁ良いけど、早く入って来い」

「「はい」」


「いやーそれにしても沙羅ち元気になったんだね」

「うん、もう大丈夫」

「良かったわ…ほんとに」

「ありがとね、春香ちゃんも愛ちゃんも、そ、それに悪琉君も」


 先程の事を思い出したのか、沙羅は俺の名前を呼ぶときに凄く照れていた。


「そんなの大丈夫だよ」

「そうよいつでも頼りなさい」

「うん!そうするよ」


 良かったな元気になって。

 あっ、てか俺病み上がりじゃん…風邪移って無いよな……

 流石に雰囲気壊れるから言えないけど……


「いやー遂にこの時が来ましたね」

 

 春香が急にそんな事を言い出した。


「この時って?」

「私達3人が悪琉の彼女になる時だよ、私はずっとこの日を待っていました」

「てか、何よその喋り方」

「特に意味はありません、ただ嬉しくてこの喋り方になっただけです」

 

 俺は3人の会話を笑顔で聞いていた。


「どうしたのよ悪琉、そんなニコニコして」

「いや、3人共俺には勿体ない位可愛いなって思ってさ」

 

 俺がそう言うと、沙羅と愛は驚いて顔を赤くした。

 春香はずっと笑顔だ。


「全く、あなたって平気でそういう事言うわよね…こっちの身が持たないわ」

「ほんとにね…心臓がバクバクしちゃうよ」

「ははは、2人とも可愛いー」

「逆に春香は何で平気なのよ……」

「え?だって私はもう…ね、エッチな事もしてるし、その時に可愛いって何回も何回も言われてるし……」


 春香は照れながらそんな事を暴露をした。

 俺は思わず頬が引きつった。

 そんな事を聞いて愛は顔を赤くしながら怪訝そうにじーとこっちを見てきて、沙羅は相変わらず顔が真っ赤だな。


 ちょっと春香!この空気どうにかしてくれよー、て感じの目で春香を見たら春香はそれに気付いて話し始めた。

 

「えっと、ほら!愛と沙羅だってこれからいっぱい言ってもらえるよ」

「「っっ」」


 春香なりに空気を変えようとしたのだろう、でもそれは絶対にかける言葉を間違えてるよ。

 ほら、愛が口をパクパクさせて言葉を失ってるし、沙羅に至っては目がぐるぐるしちゃってるよ……


「あっ、そ、そうだ愛ちゃん、沙羅ち、悪琉はまだ病み上がりだし、そろそろ私達は帰ろっか」


 春香は自分のミスに気付いたのか、そう言いだした。


「そ、そうね、それが良さそうね……」

「う、うん、あ、悪琉君もまだ休みたいだろうしね……」

「あ、あぁ、そうだな…じゃあそうして貰おうかな」

「そ、それじゃあ、明日は学校にきてね」

「絶対行くよ」

「じゃ、じゃあ帰るわね、また明日」

「あ、悪琉君、ま、また明日ね」

「また明日、悪琉」

「また明日な3人共来てくれてありがとな」


 そう言って3人は帰って行ったが、帰り際に春香は両手を合わせて「ごめん」と言ってきた。

 うん、ほんとびっくりしたよ。

 まぁ、いいんだけどね……


 そういえば鍵も渡せてなかったな……

 明日愛と沙羅に渡さないとな……

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