46話 婚約者とのディナー

★矢野愛(side)


 愛、春香、沙羅のグループ通話で今日あった事を話していた。


『はぁぁぁぁーーー!!何それ????????』

『ちょっと余りにも酷いね……』

『うん、流石に私も怒っちゃって大声を出しちゃった。』

『当たり前だよ!!!折角の時間を台無しにされたんだかから!!!』


 春香が私の事を自分の事の様に怒ってくれていて少し気分が晴れた。


『それでそんな事があったから2人も注意した方が良いかも……』

『うーん、そうだね…その感じだと私と愛ちゃんより沙羅ちが心配かもね……』

『え?私?』

『そうね…私と春香はもう悪琉と付き合ってるって分かったと思うからまだフリーの沙羅にどんな行動を起こすか想像できないわね』

『え?そんな…私どうすれば……』

『んーまぁ、明日明後日は休みだし、月曜日に確認して考えてもいいかもね』


 正直心配ではあるけど何かしてくるって決まった訳では無いからそうするしかないわね……

 でも出来るだけ注意しておかないとね。


『そうね、でも何か不安に感じた事があればすぐに教えてね。』

『う、うん、分かったよ』


 悪琉にも相談した方が良いのだと思うけど正直傑の事は私達だけで解決したい。

 親同士の関係もあるし余計ないざこざに悪琉を巻き込みたくない…

 それに傑の両親は凄く良い人で余り困った顔を見たくない思いもある……

 でも沙羅や春香の事を考えるならそんな事も言ってられないのかな……

 私がそんな事を考えていたら沙羅が言い出した。


『ねぇ、春香ちゃん…愛ちゃん…』

『どうしたの?沙羅ち?』

『傑君の事なんだけどさ…私達だけで解決できないかな…悪琉君も傑君の事で苦労してるしさ

『悪琉ならそんな事気にしないと思うけど…まぁ、確かに悪琉って傑の事になると何か辛そうというか怒ってるっていうか不思議な表情で少し心配になる事あるからね……』


 その事は少し私も思っていた……

 悪琉が傑の事を見ている時、何処か理解出来ない、何でそうなるんだ、みたいな感じで自分の知ってる傑と乖離している、そんな表情だった。

 そんな表情をした後に何かを考えだす、明らかに悩んでいるはずなのに私達には相談しようとしない…悪琉の事だから相談出来ない理由があるのだろうから私は聞かないけど、やっぱり心配にはなる。


『そうだね、実際私達の問題だし、それに悪琉は明後日婚約者に会うから心配だろうしね……』

『確かにそうだね、そう考えると少なくとも今は私達でどうにかしないとだね』

『うん、悪琉君に余計な心配かけない為にも頑張らないとね』

『そうね、まとめると、月曜日の傑の行動を見る、沙羅は何かあれば直ぐに知らせる、勿論私と春香も何かあれば連絡ね、そして傑の行動を見て私達は動く、こんな感じで良い?』

『そんな感じかなーとりあえずね』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


★悪琉(side)


 今日は神宮寺と会う約束の日だ。

 デートと言うよりは顔合わせ見たいな感じで一緒にディナーをして解散するだけだ。


「頼むから良い人であってくれ」


 俺はそんな事を考えながら約束の場所に向かっていた。

 集合場所に着いたのは約束の30分前だったが、人が多い中で凄く視線を集めている人がいた。

 母親がイギリス人と聞いていたから一目で分かった。

 

 風で靡いて輝く銀髪、蒼色で美しく綺麗で優しそうな目、スラっとしていてスタイルが良く身長は170cm位、完璧と言ってもいいほどに整った顔。

 春香達と同じ位美人な女性が優雅に立っていた。

 俺が見入っていたら神宮寺が俺に気付いて笑顔で手を振って走って来た。

 

「悪琉さんですよね?」

 

 神宮寺が笑顔で軽く首を傾げてそう聞いて来た。


「あぁ、えっと、神宮寺真理さんであってるよな?」

「はい!そうです!真理って呼んでください悪琉さん」

「そうか、分かったよ真理、よろしくな」

「はい!よろしくお願いします!それじゃ行きましょう♪」


 そう言って俺の腕に抱き着いてきた。

 もっと大人しい感じだと思ってたけど、意外とグイグイ来る人だった。


「それじゃ、何か私について知りたい事はありますか?」


 ディナーが始まり真理が聞いて来た。


「んー、じゃあ、何で俺と婚約したいと思ったんだ?」


 いきなりだが俺は思った事を聞いた。


「ふふ、シンプルに一目惚れですよ♪」


 俺の質問に真理は笑顔でそう返してきた。

 俺は少し怪訝に思ったが、その笑顔に嘘は無いように感じた。


「えっと?会った事あるっけ?」

「会ったかどうかは置いといて、悪琉さんなら雑誌で見ましたよ♪その時心に響いて来たんです」

「雑誌を見て婚約したいと思ったって事?」

「まぁ、それもありますけど…お父さんに悪琉さんの事を聞いてみたんですよ。そしたら知り合いの息子でどんな子か聞いたら調査してくれて、凄く良い人って知ったからです」

「調べたんだったら俺の噂とかも聞いてるだろ?」

「そうですね…でも悪琉さんの両親にも私のお父さんが話を聞いてて今はそんな人じゃ無いって事も知ってますよ」

「ほら、でもそんな過去がある時点で信用出来ないんじゃないか?」

「ははは」


 俺がそう言うと真理が何故か笑った。


「どうしたんだ?」

「良い人じゃ無かったらそんな事一々言わないですよ、その辺から良い人って伝わって来ちゃってますよ」

「そうなのか?」

「そうです、悪琉さんはカッコよくて、優しくて、いつでも輝いていますよ。少し道を外しちゃった事もあるかも知れませんが今はそんな事無いじゃないですか」


 初対面なのにやけに褒めてくれるな…それにさっきから喋ってると時々何か懐かしむような表情になるのは何故なんだ?

 やっぱり会った事があるのか?

 記憶が引き続がれて居るとは言え昔の事は悪琉自身の記憶にも余りないんだよな…まぁ、あれだけ荒れていれば昔の事なんて覚えてないよな……


「そうなのか…それで本当に俺で良いのか?」

「と言いますと?」

「婚約の話だよ」

「はい!悪琉さんで良いじゃ無くて、悪琉さんが良いです!」

「知ってると思うけど俺は好きな人が4人もいて付き合っている人もいるんだぞ?」

「勿論知ってますよ!悪琉さんが好きになる人なんだから凄く素敵な人なんだと思います、だったら私も仲良くなりたいです」


 そう言って来る真理は目を輝かせている

 何を言っても肯定してくれそうだなこの感じだと……

 何でこんなに好かれているんだ……

 やっぱり会った事があるんじゃ……


「なぁ、俺達ってやっぱり昔会った事あるのか?」


 俺がそう聞くと真理は少し考えてから話し出した。


「うーん、過去に会ったかどうかは今は大事な事じゃ無いんですよね…仮に会った事あったとしても私は今の私を見て欲しいです♪」


 真理は笑顔でそう言って来る。

 俺はそんな言葉を聞いて少し戸惑ったが、一旦過去の事を考える事を止めて今の真理を見ようと思った。


「そうか…真理がそう言うなら今は気にしない事にするよ」

「はい!それで良いです。寧ろそうしてください。それで、悪琉さんの好きな子達ってどんな子なんですか?」

「んー、春香は元気で楽しい性格で優しく可愛い子で、愛は真面目で頭が良く甘え下手な可愛い子で、沙羅はおっとりしていて優しく恥ずかしがり屋で可愛い子で、香織さんは春香の親なんだけど一緒に居ると落ち着くし甘えたくなるような人かな?」

「ふーん、それって…やっぱり皆見た目は可愛いんですか?」

「そうだな、正直に言って皆滅茶苦茶可愛いと思うな」


 それを聞いた真理は何故かニヤニヤしていた。


「私もいずれ会いたいです、その子達にも」

「あぁ、そうだな、近いうちに予定立てると思うから仲良くしてくれよ?」

「勿論♪私って可愛い子が大好きだから大丈夫ですよ♪」

「え?」


 俺は意外な発言にびっくりした。

 可愛いが好きって…… 


「あっ、一応言っておくと恋愛的な意味じゃ無いですよ?確かにイチャイチャしたいとは思いますけど、程よくですからね?エッチな事したいとかでは無いですからね?好きなのは悪琉さんだけですよ」


 いや、そこまで心配はしていないのだが……

 でも言葉通りなら案外4人とも上手くやれるのか?


「そ、そうか、まぁ、仲良くなれそうなら良かったよ」

「ふふっ、食事も終わった事だしそろそろ外に出ましょうか」

「そうだな」


 そうして俺たちはお店から出た。


「真理は帰りに誰か迎えに来てくれたりするのか?」

「そうですね、どんな事が起きても対処出来るように基本常に近くに人が待機してるので普段はその方達に送迎とかしてもらってますね」

「やっぱお嬢様って凄いんだな…て事は今も近くに待機してるって事か?」

「はい、そうですよ、でも帰る前にもう少し話したいから少しだけ一緒に歩きませんか?」

「あぁ、そうするか」


 そうして俺と真理は少し歩く事にした。


「今日はありがとうございました」

「いや、俺の方こそありがとう、楽しかったよ」

「ふふ、なら良かったです。私も凄く楽しかったですよ」


 少し無言の時間を挟んだ後


「あの、悪琉さん」


 真理は今日常に笑顔だった。

 そんな真理が今は凄く真面目な顔で見上げて来た。


「どうした?」

「悪琉さんは今私に疑問を沢山抱いていると思います」


 正直に言ったらそうだ。

 でも、少なくとも彼女が悪い子じゃないと言う事は何となくだけど分かった。


「そうだな…知りたい事はまだいっぱいあるな……」

「はい…でもこれだけは知っておいて下さい」


 そう言って隣にいた真理は2歩前に歩いて振り向いて言った。


「私はずっと悪琉さんの事が大好きですから…今までもこれからも…では今日はこれで失礼します」

「あ、あぁ」


 真理が満面の笑みでそう言い去っていった。

 でもその笑顔の中に少し不安があるように感じた。

 俺はそんな顔を見て素っ気ない返事になってしまった。



「これから知って行くしかないか……」


 俺は家に帰って来て考えていた。

 真理は俺の心配とは裏腹に凄く良い子だった。

 正直に言うとかなり好印象だ。

 でも分からない点が多すぎる……


 雑誌で見て気になってわざわざ調査までするのか?

 真理だったらもっと良い人でも言い寄ってくるのでは?

 いくら考えても分からない事が多すぎる……


 それに恐らく過去に会った事があるのだろう……

 俺が転生してくる前の悪琉がその事を全く覚えていないのは何故か……

 可能性はいくつかある。

 1つ目悪琉からしたらどうでも良い事だった。

 2つ目今の彼女と過去の彼女が全然違う。

 3つ目心が荒んでいた時期に昔の事をほとんど忘れた。


 1つ目だったら正直お手上げだ…そうだったら今後思い出す事は無いのだろう……

 2つ目か3つ目だったら何らかのきっかけさえあれば思い出す可能性はあると思う。

 

「ダメだ、思い出せない……」


 これ以上考えても頭が痛くなるだけだな……

 とりあえず今は真理が言ってた様に今の彼女と真剣に向き合おう。

 それから春香達にも伝えないとな。


 俺はそんな事を考えながら眠りに着いた。

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