45話 傑と愛の想い

★神谷傑(side)


「クッソクソクソクソ!!!!!」


 俺は愛と佐野のクソ野郎がキスしていた事を思い出して家で叫んでいた。

 1階にいる母が何かを言って来ているけど全く耳に入らない。


「クソがぁーー!!」


 俺はベッドの上で枕を滅茶苦茶殴っていた。

 落ち着こうとしてもイライラが収まらない。

 考えれば考えるほどムカつく。


「春香の次は愛かよ!!!!」


 春香は見事に俺からあの不良に鞍替えしやがった。

 小さい頃は一番俺にべったりだったくせにだ。

 でも春香は俺の知らない所でビッチになっていやがった。

 そんな事は幼馴染として裏切られたも同然だ。


 俺はその事実を知って絶望した。

 だがそれで何故か逆に冷静になれた。

 それから俺は少し愛たちから距離をとり観察する事にした。

 2.3週間じっくりと観察して気づいた事がある。


 まず初めに春香の事だが…あれはもう完全に駄目だ。

 人目も気にせずに佐野とイチャイチャしやがってる。

 誰の目から見てもから見てもカップルだ。

 そのくせに佐野の野郎は真面目振りやがって…春香がキスしようとしたら人目が多いからそれは駄目とか言って拒否ってやがる。

 まぁ、目の前でキスなんてされたら殴りたくなるからその点は助かってるが……


 周りの男子は皆俺に春香と別れたのかって聞いてきやがるし、自分で言いふらしたとは言えマジで鬱陶しい。

 そっとしておくとか出来ないのかよ。


 次に愛だ、愛は見た感じ佐野の野郎に好意を持っているのか微妙なラインだった。

 話はするけどボディータッチがある訳でも、春香見たいに表情を変える事も無い。

 男と話す事すら無い愛が佐野と話すって事は悪いイメージは無いはずだ。

 それらから俺は愛は春香経由で佐野と話すようになっただけで恋愛感情はあまり無いと感じた。


 そして沙羅だ、沙羅は他2人と違って佐野と2人っきりになる事は全く無かった。

 4人で一緒に居ても佐野の隣は春香と愛で沙羅は1度も佐野の隣には行って無かった。

 それを見るに恐らく春香や愛より関係値は全然低く、好意は持って無い。

 ただ春香の為にしかたなく一緒に居ると言う事だ。

 それを証拠に、時々佐野と目が合ったら直ぐ反らして俯いている。

 あれは恐らく佐野にビビッてるけど言えないでいるのだろう。

 春香や愛も酷いよな、気付いている癖に何もしないんだからな。


 それに最近佐野の噂を全く聞かなくなってる。

 愛たちが一緒に居るからってのもあるだろうけど、佐野は実はそんなに悪い奴じゃないなんて言われ始めている。

 どうやら、掃除をちゃんとやってたり、重い物を代わりに持ってあげたり、何より勉強が出来たりとかでそう思われ始めてるらしい。

 

「ふざけやがって!!!」


 不良が少し良い事をしたら一気に評価が上がる何て事が実際にあってたまるか!

 皆簡単に佐野に騙されやがって!俺は絶対に騙されるものか!!!


「ふぅー落ち着け俺」


 それらが観察して気付いた事だ。

 まとめると、春香は現状手の付けようがない。

 愛はこれから気を付ければ大丈夫そう。

 沙羅は焦る必要はない。

 この結論に至ったのが昨日。


 そして今日から愛の好感度を上げて行く予定だった。

 それなのに!

 キス現場に遭遇して思わず狼狽えてしまった。

 俺は直ぐに我に返って止めに入った。


 俺の目からは佐野の野郎が愛を壁際に追いやって無理矢理キスをしている様に見えた。

 正直ラッキーだと思った。

 愛のファーストキスが奪われたのは悔しいが、とうとう佐野が問題を起こしたと思ってチャンスだと思った。

 無理矢理女子を襲った、この事実だけで退学に追いやるには十分だった。

 その上愛を助ける事で好感度も上がる、おれは思わぬ僥倖だと思った。


 でも実際は違った。

 蓋を開けてみれば愛と佐野は付き合ってるらしい……

 全く素振りも無かったのに……


「いつからなんだクソが!!!」


 春香に続き愛にも裏切られた。

 愛はいままで男に興味無さそうにしていて、視線が鬱陶しいとか言ってたくせに裏では佐野とキスまでしていたとは……

 愛も俺をだましていたのか!

 

 佐野なんてどうせろくな人間じゃないはずだ、春香も愛もその内どうせ後悔するだろう。

 こうなったら沙羅だけは絶対に守らければ…佐野には絶対に奪わせる訳には行かない。

 そうだ…明日からは沙羅の事だけ見よう……


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★矢野愛(side)


「きゃーーー」


 私は柄にもなく自分の部屋で喜んでいた。

 今まで生きていた中で一番幸せと言っていいだろう。

 そのくらい悪琉と結ばれたのが嬉しかった。


「キスしちゃったな……」


 今でも悪琉の唇や舌の感触を思い出せる。

 ファーストキスがあんなに激しい物になるなんて……

 思い出したら体温が上がるのが分かる。


 それに悪琉の告白は凄く嬉しかった。

 私の好きな所を言ってくれた時に、一つも私の容姿についての事が無かったし、ちゃんと私の中身を見ていてくれた。

 思えば悪琉は常に私の心に話しかけてくれていた気がする。

 だからこんな性格な私が悪琉の前だと正直になれたんだと思う。

 そんな悪琉といると私は無理しなくて良い、甘えて良い、1人で抱え込まなくて良い、そんな意識が悪琉に対して生まれてきていた。

 私は次第と悪琉に安心感と温かさを感じていて一緒に居ると心地よくなっていった。

 そんな積み重ねがあり、少しずつ悪琉の事が好きな気持ちが大きくなっていったのだろう。

 今まで私に告白してきた奴らなんて口を開けば可愛いだのスタイルがいいだので、たまに中身に触れてくれたと思ったら、薄っぺらい事ばっかで全然話した事無いのに何言ってんだって感じだった。


 でも悪琉は違った、本当に私の中身を見てそこを好きになってくれたんだと、あの真っすぐな目を見れば嘘じゃ無いってはっきり分かった。

 勿論私の見た目も好きな理由には入っているのだろう…でも悪琉にそう思ってもらえるなら初めて良い見た目に生まれて来た事を嬉しく思える。


「それにしても悪琉はキスなんて何とも思わないと思っていたのにあんなにドキドキしててくれたんだ♪」


 キスした後、抱き合った時に気付いた。

 私もそうだけど悪琉も凄く心臓がバクバクしていて、どっちの心臓の音か分からない位だった。

 私は悪琉もドキドキしてくれた事が凄く嬉しかった。


「はぁー、それにしても折角の思い出が……」


 私は今日が一生の思い出になると思って楽しみにしていた。

 事実結果的には凄く良い思い出にはなった…でも本当はもっともっと良い思い出に出来たはずだ。

 傑が邪魔さえしなければ……。

 私は傑に悪琉とのキスを見られても特に何も思わなかったから別に動揺とかはしなかった。


 寧ろ冷静に何でそんなに怒ってるんだろうと思った。

 その次に傑が言った言葉は本当に意味分からなかった。

 だって急に悪琉にクズと言って、こっちに来いとか言って来た。

 それを聞いて私は、何て言うかもはや感情を失って心の底から傑に対してどうでもいいって思った。


 傑はそれから無理矢理キスしたとか言い出してもう滅茶苦茶だっだ。

 それから悪琉を悪く言い続ける傑に対して次第に怒りがわいて来て私は珍しく大声で言い争いをした。

 恋人を悪く言われるのが凄く気分が悪かった。

 別に私の事ならあそこまで怒る事は無かったのだろう、しかし悪琉の事を言われたら物凄く嫌な気分になった。


 それに裏切ったって何なのよ?

 私もって事はもしかしたら春香の事も言ってるのかしら?

 どうしてあんなにも性格が悪くなってしまったのか……

 悪琉が原因と思ったけどそうでもない気がする…確かに悪琉と私達が関わってから加速した感じはある。


 でも違和感を感じたのは、中学卒業位だった。

 あの頃から少しずつ性格が変わり、春香が男子と少し話しただけで何を話したのか聞いて来たり、休日とかに私達が何をしいていたのかをしつこく聞いて来るようになった。

 私達が告白される時は必ず断ったのかと聞いて来るし、何故か告白されて嬉しかったかとか、どう思ったとかを聞いて来る様になっていた。


「もう、めんどくさいな……」

 

 私としては悪琉との恋人関係を楽しみたいのに、余計な障害がこれから出てくるのは考えなくても分かる。

 勿論私だけでなく、春香や沙羅にも同じ事が言える。

 幼馴染だからといって流石に踏み込んでき過ぎだ。

 悪琉が悪い奴って決めつけて分かろうとしない癖に……


 最近は悪琉を悪く言う人は減って、寧ろ褒める声すら聞こえて来る。

 悪琉は間違いなく良い人なんだ、それに周りも気付き始めているのに……

 傑は全く見ようともしないで決めつけてる。

 正直言って私の嫌いなタイプだ、知ろうともしないのに決めつけて批判する…最悪だ。


 それにしても今日の事はちゃんと春香と沙羅に報告しておく必要がありそうね……

 何かあってからじゃ遅いしね。

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