38話 勉強会(下)

「春香ー沙羅ー、買って来たぞー」

「おかえりー2人共」

「それじゃあ、私と春香ちゃんはキッチンを借りるね」

「あぁ、よろしくな」


 春香と沙羅は料理をしにキッチンに行った。

 その為、部屋の中は俺と愛の2人っきりになった。

 何を話そうか迷っていたが気になっている事を聞く事にした。


「そう言えば愛と沙羅の誕生日っていつなんだ」


 誕生日自体は分かっているのだが聞きたい事を聞くのに必要だと思い聞いた。


「私の誕生日は9月16日で沙羅が11月12日よ」

「なるほど、パーティーとかはやってるのか?」

「えぇ、毎年やってるわよ…」

「それってやっぱり…神谷もいたんだよな?」

「そうね…去年はいたわ」


 愛は少しばつが悪そうにそう言った。

 まぁ、当たり前だよな…今年はどうするんだろうか。

 どっちにしろ面倒臭い事になりそうだな。


「だよな……」

「でも私としては今年の誕生日は傑と一緒に祝ってもらいたいとは思ってないわよ」


 愛は俺の顔を見て心配そうにそう言って来た。

 無意識の内に顔に出ちゃってたか……


「そっか、でもそれじゃ面倒臭い事になる気がするけど……」

「そうなのよね、私もそこが少し心配なのよね……」

「やっぱそうだよなー、まぁまだ時間はあるし俺も一緒に考えるよ」

「うん、ありがと」

「折角だしもっと楽しい話をしようぜ」


 少し暗い話になってしまったので、話題を変える為にそう言った。


「えぇ、そうね」


 それから俺と愛は他愛も無い話をしながら時間を潰した。


「悪琉ー、愛ー、ご飯出来たよー」


 春香の呼んでいる声が聞こえたので俺と愛は春香達の所に向かった。


「おまたせー」

「さぁ、2人共座って!」


 テーブルにはおいしそうなシチューと唐揚げ、肉じゃがなどがあった。


「やっぱり春香も沙羅も料理が上手だな!」

「まぁね♪私は料理するの好きだからね♪」

「私は春香ちゃんよりは上手じゃ無いけど…ありがとうございます」

「もー、沙羅ちったらそんな事無いって、ほら悪琉、愛ちゃん、その肉じゃがは沙羅ちが作った物だから食べてみて!!」


 そう言われ俺と愛は目の前に置いてある肉じゃがを口に運んだ。

 ジャガイモはふっくらとした食感で、甘さも控えめでとてもバランスが良く、お肉は柔らかく、白米のお供に丁度良いそんな優しい味だった。

 料理から沙羅の優しさが伝わって来て、俺は凄く美味しく感じた。


「凄く美味しいぞ!ジャガイモもお肉もかなり俺の口に合ってずっと食べていられそうだよ」

「そうね、私もとても美味しいと思うわよ」


 俺と愛は素直な感想を伝えた。


「ね!沙羅ち、沙羅ちは料理が上手なんだからもっと自信持っていいよ!」

「あ、ありがとう…春香ちゃん、愛ちゃん、それに悪琉君……」


 沙羅は少し照れくさそうに俯いてそう言った。

 俺達はその後、楽しく談笑しながら食事を楽しんだ。


 食事が終わり皆で片付け終わったので、俺が言った。


「じゃあ、そろそろ解散だな」


 俺がそう言うと春香が嫌そうな顔になった。


「やだ!私は泊まってく!!」

「ダメよ春香、明日も学校なんだから……」

「そうだよ春香ちゃん!」

「いいの!皆で泊まればいいじゃん!!」

「「尚更駄目よ」」


 愛と沙羅が顔を真っ赤にしてハモッた。

 流石に付き合ってない人と泊りは駄目だろ…親が許す訳が無いと思い、俺は口を開いた。


「じゃあ今日は私だけでいいからさー」

「春香、流石に駄目だぞ、学校もあるんだし」

「えー、じゃあ学校が無かったらいいの?」

「え?あ、まぁ、それなら?」

「「えっ?」」

「ヤッター♪」


 特に変な事を考えていた訳では無いく、春香だけなら泊まってもいいのかな?と思い俺がそう言ったら愛と沙羅が驚いた。

 そして春香はとんでもない事を言い始めた。


「じゃあさ、週末皆でお泊り勉強会を開こうよ!!」

「いや、春香それは流石にマズいだろ……」

「え?何で?」

「いや、何でって…そりゃな……」


 春香だけの話だと思っていたらまさか愛と沙羅も含まれているとは……

 俺は助けを求めるかの様に愛と沙羅の方を見た。

 愛と沙羅は俺の視線に気付いて話し始めた。


「そうよ春香、流石に泊まり込みは良くないわ」

「うん、親にも何て言えば良いか分からないし…男性の家に泊まるなら尚更だよ」


 いいぞ!2人共この位言えば流石に理解してくれるだろう。


「え?じゃあ、私が愛ちゃんと沙羅ちの親を説得すれば良いって事だよね♪」

「えぇ?いやっ…それは…」

「……」


 春香がそう言って連絡し始めた。

 説得って…そんな事が出来るのか?

 愛は春香のまさかの返しで焦っていて、沙羅に関しては言葉が出てない。

 どうすればいいんだ……

 春香だけなら良いとしても愛と沙羅は付き合ってる訳じゃ無いからな……


「愛ちゃん♪沙羅ち♪2人のお母さんに連絡したら春香ちゃんがいるなら大丈夫だって♪」

「春香…それって俺がいるって伝えた上でか?」

「あたりまえじゃん♪私の彼氏も一緒に勉強会を週末に泊まり込みでするって伝えたよ♪」


 え?それでOKになるの何でだよ……

 春香の信頼度高すぎないか?

 これどうすれば…愛と沙羅に任せるしかないか?……


「なぁ、愛と沙羅からも何か無いか?やっぱり付き合っても無い男と泊まり何てマズいよな?」


 俺が愛と沙羅に助けを求めるようにそう言うと春香が食い気味に口を開いた。


「マズくないよね!愛ちゃん!沙羅ち!別に勉強するだけだよ?親の許可も取ってるんだよ?大丈夫だよね♪」

「そうね、まぁ、勉強をするだけだからね…やりましょうか…勉強会を……」

「そ、そうだね、勉強会だもんね、別に大丈夫だよね……」


 愛と沙羅も断り切れなくなって認めちゃったし……

 完全に春香にゴリ押しされちゃったな……

 こうなったら仕方ないか…まぁ、付き合うまでは手を出すつもりも無いから大丈夫か。


「分かったよ…週末なら良いよ」

「ヤッター♪ありがとね皆♪」

「愛と沙羅も大丈夫なんだな?」

「えぇ、大丈夫よ、勉強会だしね、それに春香の追い込みも出来るし丁度いいわね」

「た、確かにそうだね、追い込み…うん!春香ちゃんの追い込み勉強会だよね!」


 どうやら無理矢理納得したみたいだけど…まぁ、嫌がってる訳では無さそうだから大丈夫か。


「んーじゃあ、金曜日の夜は家族で食事会だから、土曜日だな」

「うん♪」

「それはそうとして今日は解散しましょうか」

「うん、そうだね」

「皆送った方がいいよな?確か3人共家が近いんだよな?」

「まぁ、そうだけどそれは大丈夫よ、親に連絡して迎えに来てもらうから」

「そうか、なら大丈夫だな、春香と沙羅もか?」

「2人も一緒に私の親の車で送って行こうと思ってるわよ」

「そっか、じゃあよろしくな愛」

「愛ちゃんありがとう」

「ありがとね愛ちゃん!」

「えぇ、その位大丈夫よ」



 俺の家に愛の母親が迎えに来て何故か俺と愛の母の2人で話す事になった。

 どうやら春香の話を聞いて俺に聞きたい事があるとの事だった。


「それで、悪琉君だっけ?」

「はいそうです!」

「いきなりだけど、愛の事はどう思っているの?」


 突然愛の母親がそう尋ねてきた。


「あ、ごめんなさいね、先に自己紹介するわ、私は愛の母親で矢野恵(やのめぐみ)よ、よろしくね」

「はい、愛さんの友達で春香の彼氏でもあります。佐野悪琉です。愛さんにはいつもお世話になっております。よろしくお願いします」

「随分と礼儀正しいのね、よろしくね悪琉君、それで改めて聞くわね、愛の事はどう思っているの?」


 質問の意図が全く分からない。

 愛の親には印象良くいたいからどうするべきか……

 やっぱり下手に嘘をつくのはまずいか……


「愛さんの事でしたらとても大切に思ってますよ」


 これなら友達としてとも取れるだろう、本当は女性としての大切なのだが今はまだそれを伝えるには早いだろう。

 俺がそう言うと恵さんは訝しげにこちらを見ていたが、何かを納得したかの様に口を開いた。


「そう、大切に思っているなら特に言う事はないわ、それじゃあ愛の事、よろしくね」

「はい」


 そう言って恵さんは愛の所に行った。

 それにしても何だったんだ?よろしくって勉強会の事かな?

 俺はちょっとモヤモヤが残ったが気にするのを止めた。


「じゃあね悪琉ー」

「あぁ、じゃあな春香、愛、沙羅」

「えぇ、さようなら、悪琉」

「うん、またね悪琉君」


 そんな感じで勉強会初日が終わった。



 俺は3人が帰ったあと直ぐに風呂に入りベッドに寝転んだ。


「それにしても泊まりか……」


 何も問題は起こらないと思うけどちょっと心配だな…主に春香が……

 それに恵さんが何を考えているのかが全く分からない。

 印象が悪くなければいいんだけど……


「まぁ、考えても仕方ないか……寝るか」

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