35話 モデル体験

★七瀬 春香(side)


「きゃーー」


 私は夜に1人で昨夜の事を思い出しながらはしゃいでいた。

 今でもドキドキが止まらない。


「それにしても楽しかったなー」


 デートの時もずっと気を使ってくれて優しかったし、さりげない仕草がとても格好いい。

 それになんと言っても揶揄うと赤面して照れちゃう所が可愛すぎる。

 私は断言出来る、世界中どこを探しても悪琉より素敵な男性はいないって。

 それ位私は悪琉が大好きだ。


「そう言えば私って悪琉と仲良くなってからずっと幸せだな」


 正直第一印象は良くなかった。

 あの頃はこんな事になるなんて思ってもみなかった。

 見た目だけは良いと思ってはいたけど、悪評が酷過ぎて好感度で言うと大分低かった。

 おかーさん経由で悪琉と家で邂逅した時が初めて話した時だった。

 私はその時、凄く警戒していたけどおかーさんが余りにも信頼していたので私も少し警戒を緩めた。

 それから私は少しずつ悪琉の良さが分かって来て、少しずつ好きになって行った。

 極めつけはあの事件だ。

 あの時の悪琉はまるで物語に出て来る様な王子様だった。

 私はそれ以降悪琉に夢中になったんだよね。


「悪琉ー」


 別れてからまだ10時間も経って無いのにもう会いたい。

 それにしても私は遂に悪琉の彼女になれたんだ。

 悪琉を好きになってから今日まで時間としてはたいして長くないのだろうけど私は凄く長く感じた。

 

「早く明日にならないかなー」


 私はベッドの上で足をバタバタしながらそう思っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁー春香は可愛すぎんだよなぁ」


 俺は春香を家に送り届けた後、家に帰ってから春香の事を思い出していた。


「ていうか俺ってこの先どうなるか分からないとは言え4人の女性と結ばれようとしてるんだよな…」


 一昨日までははっきりと宣言出来なかったけど、香織さんと話して俺の心は決まった。

 とは言え、愛と沙羅はもう少し時間がかかりそうだな。

 それはそうと今の俺は親のお金で何とかなってるようなものだ。

 高校生だから仕方ない、そう思うかも知れないけど高校を卒業してもそれじゃ格好がつかない。

 その為に今から何かする必要があると感じる。


「んー、どうすっかな」


 大学は流石に行きたいしなぁ。

 高校生でも出来る事か、コンビニとかでバイトするか?

 でもただのバイトじゃ俺の理想には届かない。


「ちょっと思いつかないし少し歩いて考えるか…」



「んーしかしこの状況何とかならないもんかな?」


 俺は街中を歩いていたら凄く視線を集めていた。

 この状況を羨ましいと思う人も多いと思うが、実際に経験してみたら何処に行っても視線を感じて正直しんどい。

 まぁ、初めの頃よりかは全然慣れて来たんだけどな。


 俺がそんな事を考えていたら愛が誰かに絡まれているのが見えた。


「また誰かに絡まれてるのか、愛…」


 この世界は何でこんな事が多いのかと思いながら俺は愛の方へ向かった。

 近寄ってみたがどうやらナンパではなさそうだな。

 とは言え一応声をかけておくか。


「あのー」

「え?悪琉?」

「もしかして何か困ってるのか?愛?」


 俺がそう言うと。


「おっ、お兄さんも滅茶苦茶カッコイイねー、お兄さん!モデルとか興味ない?」


 30代位のチャラい男性がそう言って来た。


「え?モデルですか?」


 俺はどう言う状況?と言うかのように愛の方を見た。


「えっと、この人はモデルのスカウトらしく私はスカウトされてる途中だったの」

「なるほど、それで丁度良く来た俺もスカウトされたって事か」

「まぁ、そうなるわね」


 俺達がそんな事を話していた時


「それで、2人共どう?絶対人気になるって!俺の勘はよくあたるんだ!」

「愛はどうしたい?」

「悪琉はどうするの?」


 モデルかぁ、丁度高校生でも稼ぐ方法を探してたしな、正直に言ったらモデルの誘いはかなり僥倖かもな。


「んーちょっと興味あるからやってみよっかな」

「そうなのね、なら私もやってみるわ」


 愛は少し恥ずかしそうにそう言った。


「おっ、マジで!!いやー、ありがとーお兄さん!!彼女さんさっきまで乗り気じゃ無かったけどお兄さんのおかげだよー。じゃ、2人とも付いて来て!」


 そう言って付いて行く事にしたが、愛は乗り気じゃ無かったのに俺に合わせてくれたのかと思い少し申し訳なさがあったが、それ以上に嬉しいと思った。

 後、「彼女では無いですよ」と言うか迷ったが愛の方を見たら特に気にしてない様子だったので止めた。


「2人共ここだよー」


 俺と愛が案内された場所は大きなビルだった。

 それから俺達は一通り説明を聞いた。


「じゃあ、2人共早速撮影してみる?」

「え?もう撮影するんですか?」

「そうそう、実は今日街に出てスカウトしてたのは新人特集で使える良い子が居ないかなと探してたんだ、だからもし良かったらどう?」

「俺は大丈夫ですけど、愛は大丈夫か?」

「私も特に問題無いわよ」

「おっけー、じゃあ行くよー」


 俺たちはスタッフに連れて行かれ撮影現場へと向かった。


「ここが撮影現場ね、じゃあ早速だけど愛ちゃんの方からお願いねー」


 愛は最初少しぎこちなかったが次第にノリノリになって行った。

 こうして見ると愛のスペックは凄まじい、この場にいる女性達は愛を羨望の眼差しで見ている。

 

 その後愛も俺も撮影が無事終わり愛と話した。


「愛めっちゃ良かったよ!素人とは思えない位素敵だったぞ!」

「そ、そう、悪琉だって格好良かったわよ」

「ありがとう、愛にそう言われるのはかなり嬉しいよ」

「そんな、おおげさよ」


 2人で話してたら女性のスタッフの方が来た。


「2人ともありがとね、凄く良かったよ!上の人も絶対人気でるって意気込んでるよ。次回があればまたよろしくね」

「こちらこそありがとうございました。是非またお願いします。」

「私の方もその時はよろしくお願いします」

「ふふ、久しぶりに良い新人が来て嬉しいよ。後日連絡が行くと思うからその時に本格的にモデルの仕事をするかどうか教えてね」


 そう言ってスタッフの方は報酬の入った封筒だけ渡して去って行った。


「俺達もそろそろ帰るか」

「えぇ、そうね」


 俺は帰ってる途中愛に話した。


「今日は付き合わせてごめんな」

「別に付き合った訳じゃ無いわ、私も少し興味あったのよ」


 愛はそう言うが明らかに俺に合わせてくれたのだろう。

 頬を赤くしながら目を背けるあたりでバレバレだ。


「だとしても一緒に来てくれて嬉しかったよ」

「その位いつでも付き合うわよ」


「なぁ、愛ってさ、進路の事とか考えてるのか?」


 俺はふと気になり唐突だが聞いてみた。

 

「いきなりね、私は大学には行こうと思ってるけどその先はまだ決まって無いわ」

「んー、やっぱそうだよな」

「急にどうしたの?」


 愛は怪訝そうにそう言って来た。


「いや、ただ今日のモデル撮影をして思ったんだけどさ、こういうのって今から考えた方が良いのかなって思ってな」

「早いに越したことはないけど、そんなに急がなくてもいいと思うわよ」

「それもそうだな」

「それじゃ、私の家はこっちだから」

「いや、暗くなって来てるし家まで送るぞ?」

「大丈夫よ、家はもうすぐそこだから」

「なら尚更送らせてくれよ」

「ま、まぁそこまで言うなら」


 それから数分歩いて数分後


「ここが私の家よ、送ってくれてありがとう」

「その位大丈夫だ、改めて今日はありがとな」

「私も良い経験になったし大丈夫よ」

「そっか、それなら良かったよ」

「ねぇ、悪琉って何でモデルの仕事を受けたの?今日の悪琉を見てた感じだと別にモデルがしたい訳じゃ無いんでしょ?」


 愛が怪訝な顔をして聞いて来た。

 てか、良く見てくれてるんだな愛は。


「うーん、簡単に言うと親がお金持ちだからっていつまでもそれに頼ってる訳には行かないし、高校生でも稼ぐ方法は無いかなって考えてたんだよね」

「ふーん、それでモデルの話が来て受けたって訳ね」

「あぁ、だから別にモデルがやりたい訳じゃ無くて正直に言ったら稼げれば何でも良かったんだ」

「そうなのね、でも悪琉がモデルなら直ぐに有名になると思うわよ、その、格好良いからね」


 こう聞くと愛が心を開いてくれてるんだなって改めて感じるな。


「そう言ってくれるのは素直に嬉しいよ、ありがとな」

「えぇ、それじゃまた明日ね」

「あぁ、また明日な」

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